27.お姫様達の夏休み
<<ジェラ王女目線>>
「はぁ、あの子なにやってるのよ……」
私は、反応しない映像クリスタルの前でボソッとつぶやいた。
魔法学校は夏休みに入って、生徒達は地元に帰省する子が多い。
幼馴染のクレナも……帰省組だ。
べつにあの子がいなくても退屈なわけじゃないけど。
いないと……つまらないじゃない。
さ、さみしいとかじゃないから、絶対!
私はベッドに転がると、枕に顔をうずめる。
大体おかしいわよね。
転生する前は、好きな男子もちゃんといたし。
ゲームの推しも、全員男キャラだったし。
……私が女の子を好きになる?
そんなはずないじゃない。
そんな趣味、全然なかったんだから。
大体あの子が悪いのよ。
クレナって、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の大好きな推しキャラだったんだから。
クールでカッコよくて。
ほら、全然好みと違うじゃない。
あんな、妖精みたいな子、私のタイプじゃないのよ。
って。違うわ!
タイプも何も、あの子、女の子だから! 同性だから!
なのに。
なんで。
なんでこんなにも。
……クレナの事を考えると。
……胸が苦しくなるのよ。
私は、枕から顔を上げると、壁に貼ってあるカレンダーを見上げた。
一週間後についている丸印は。
あの子から、ハルセルト領に招待されてる日だ。
ガトー兄様と、リリアナも誘われてるのがちょっと納得いかないけど。
まぁいいわ。
遊びに行ってあげるわよ。
きっと寂しがってると思うから。
そう、リリアナといえば。
あの子、クレナとの距離感がおかしいわよね。
いつもぴったりくっついて、頬をよせたりしてて。
クレナの頬に触れられるなんて……う、うらやましくなんてないけど。
でも。
やっぱり、すごくやわらかいのかしら?
私も……。
ううん。
何考えてるのよ。
リリアナは多分、あれよね。
本気でクレナの事好きよね。友達としてじゃなくて。
クレナもあれだけストレートに愛情表現されてるのに、よく気づかないわよね。
思い切って私もしてみようかしら……。
って、違うから!
リリアナと一緒にされたら、迷惑だわ。
私は純粋に友達として好きなだけなんだから!
そうよ。幼馴染だし!
……
…………。
「好きだけど……」
思わず言葉が自然に漏れ出して。
思わず口をおさえる。
そうよ。
好きだわ。
大好き。
一度言葉にしてしまうと。
同性だから我慢していた感情がどんどんあふれ出してくる。
彼女の太陽みたいな笑顔が頭の中で何度も再生される。
抱きしめたい。
ずっと一緒にいたいし。
柔らかそうな唇にも触れてみたいし、キスも……したい。
ああ、もう!
認めるわよ!
認めてあげるから。
……早くクリスタルに反応しなさいよね!
私はあらためて、映像クリスタルをのぞき込む。
クリスタルの呼び出しに反応はない。
そっと、クリスタルを抱きしめようとした瞬間。
突然、ガトーお兄様のアップが写った。
「うわ! ちょっと、なんなのよ、びっくりするじゃない!」
「いや、それどころじゃないんだ、ジェラ」
「どうしたのよ?」
せっかくクレナの事を考えてたのに。
台無しだわ。
「落ち着いてきいてね。……クレナちゃんが倒れた」
……。
…………。
「……え?」
今なんて言ったの?
クレナが……?
「ちょっと。それって、どういうことよ!」
私は思わず、クリスタルごしにガトーお兄様に大声で問いかける。
「伯爵領についてすぐに、倒れたみたいなんだ。僕はこれからすぐ伯爵領にむかうけど、ジェラどうする?」
「もちろん行くわよ!」
だから、映像クリスタルの呼び出しに応答しなかったのね。
待ってて。
すぐに私が駆け付けてあげるから。
……クレナ、無事でいなさいよね!
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<<ナナミ目線>>
夏休みに、ハルセルト領に帰ったその日。
……お姉ちゃんがいきなり倒れた。
すぐに、お医者さんと治療魔法の専門家が呼ばれて、お姉ちゃんをみたんだけど。
原因がわからないんだって……。
「お姉ちゃん……」
私はベッドの横で。
可愛らしく眠っているように見える、お姉ちゃんを見ていた。
……いつもの、寝顔なのにな。
毎朝、この寝顔をみて幸せな気分だったのに。
前の世界を思い出して寂しい夜も、お姉ちゃんの寝顔を見れば安心できたのに。
今は……目を覚ましてくれない。
どうしよう。
このままずっと眠ったままだったら。
この世界に来てから。
ずっとずっと。
お姉ちゃんには助けてもらってばかりで。
嬉しいことも楽しいことも、全部お姉ちゃんから貰ったのに。
まだ。
まだなんにもかえせてないよ……。
「キナコちゃん。お姉ちゃんが起きないよ……」
「大丈夫ですよ、ナナミちゃん」
隣にいたキナコちゃんは。
なんだか、普段とは全然雰囲気が違っている。
見た目は一緒なんだけど。
顔の表情とか話し方とかが……すごく大人っぽい。
「ナナミちゃん、一緒にいてあげてください。それで少しは魔力が吸収されますから」
「……そうなの?」
「ええ。ご主人様は、体内の魔力の量が急に増えてる状況なんですよ」
今のキナコちゃんの表情って。
まるで……元の世界のお母さんみたい。
魔力の吸収は、いつもさせてもらってるけど。
それでお姉ちゃんが元気に……なるのかなぁ。
「ねぇキナコちゃん……」
「なんですか?」
「お姉ちゃん、大丈夫だよね……」
涙でお姉ちゃんの顔が見えなくなってくる。
ちゃんと、お姉ちゃんの看病をしないといけないのに。
「大丈夫ですよ、そのうち起きますから。魔力を落ち着かせるために寝てるだけなんですよ、これ」
「……ウソ、ホントに?」
「ええ」
やっぱりいつものキナコちゃんと違ってて。
なんだか。
……すごく安心する。
「あのね、キナコちゃん」
「はい」
「私ね、お姉ちゃんのことが好き……なんだと思うの」
「ええ、知ってますよ」
お姉ちゃんと同じ顔をして。
優しく微笑んでくる。
「違うの! そういうのじゃなくて」
「そういうのじゃなく?」
不思議そうに首をかしげるキナコちゃんに。
私は大声で叫んでしまった。
「お姉ちゃんのことが。れ、恋愛の対象として大好きなの!」
あれ?
何でこんなこと告白してるの、私!?
「ええ、知ってますよ?」
知ってるって?
知ってるって何を?
恥ずかしくて……顔を上げられない。
きっと、耳まで真っ赤だよね。
「だって、お姉ちゃんと私同性同士だよ? 変だよね、こんなの」
「そうでしょうか?」
「え?」
キナコは、優しい微笑みにまま、私に話しかけてくる。
「少なくても、この世界では普通ですよ?」
「普通って?」
「女性同士でも、男性同士であっても。恋愛には関係ありませんよ。結婚もできますし」
……え?
「ど、ど、どういうこと?」
気が付いたら、私はキナコちゃんの両肩をつかんで、おもいき揺さぶっていた。
「お、女の人同士でも……結婚……できちゃうの?」
「何の問題もありませんよ?」
「だってそれだと、子供とか……」
「そういう場合、血縁から養子を迎えるそうですよ」
うそ。
じゃあ、私とお姉ちゃんが結ばれるのって、ありなの?
おもわず、お姉ちゃんの寝顔をじっと見つめる。
絵本のお姫様みたいですごく可愛らしくて。
……お願い! 早く。早く起きてくださいね。
私、お姉ちゃんに伝えたい事がたくさんあるんだから。




