24.お嬢様と領内旅行
「うん、すっかり元通り!」
久しぶりにお屋敷の訓練場に来た私は、思いっきり走ったあと、ジャンプしてみる。
ちょうど魔力の風が流れてたみたいで。
想像よりもすっと高く飛ぶことができた。
……って、スカートが思いきりぶわっと広がってるんですけど!
飛ぶ前に気づいてよ、私!
慌てて、着地前に両手でスカートをおさせる。
ふぅ。
よし、大丈夫そう。
「よかったですわ、クレナちゃん!」
「まぁ、よかったんじゃない。これで一緒に遊びにいけるわね」
リリーちゃんとジェラちゃんは私に駆け寄って、そのまま抱きついてきた。
……できれば、私も一緒に遊びたいんだけど。
「ありがとう。でも、あんまり遊びには行けないかなぁ」
「えー? なんでよ?」
私は横に控えていた、執事のクレイに視線をうつす。
薄紫の髪に整った顔に、優しそうな瞳。
お屋敷にいる女性の心を射止めまくっている、この優秀なこのイケメン執事は……仕事の鬼だから。
「竜姫様。いくら私でもそこまで鬼ではありませんよ」
「え? ホントに?」
「ええ、本当ですとも」
うそ……。
クレイが珍しく優しい!?
「領内をめぐるのは、午後からにしましょう。午前中はご学友とお楽しみください」
確かに、午後からなら……。
ううん、待って。
絶対裏があるから。
「じゃあ、今日は午後からお仕事なのね?」
「今日は、ではありません。竜姫様。今日の午後からずっとお仕事ですよ」
うわぁ。
なにその無駄にイケメン笑顔。
……やっぱり。
そうじゃないかって思ったけどさ!
「もちろん、竜姫様の体調管理の為に、一流の名医と回復術者を呼んでおります」
「そ、そうなんだ」
「さらに! 病み上がりで体調にご負担がかからないよう、最高級のベッドを船にご用意してあります!」
「そうなんだー」
「そしてさらに! 移動中の健康の為に、お屋敷のシェフ達も同行させます!」
クレイの事が好きな女性がみたら倒れるんじゃないかっておもうくらい。
ものすごく嬉しそうな顔。
前から思ってたけど。
クレイって表情とか仕草とか。
ものすごく犬っぽいよね。
今だって。
まるで、褒めて褒めてって言ってる感じに見えるもん。
もっと違うところで気を使ってほしかったけど。
でも。
私の事を思って準備してくれたんだよね。
うん、それはやっぱり……嬉しい。
……あれ、でも。
お屋敷のシェフ達を連れて行ったら……誰がみんなの食事を作るんだろ?
とりあえず。
私からの言葉を今か今かと待っている感じのクレイに、優しく微笑んだ。
「クレイ。私の体調の為に、色々準備をしてもらって、ありがとう」
「竜姫様……なんと、もったいないお言葉……これからも命をかけてお仕えします……」
ちょっと、クレイ?
なんで瞳から涙が流れてるの?
「領民の皆様も、元気な竜姫様に会えるのを楽しみにしてます……」
もう、大げさだなぁ。
「ゴメンね、この後からずっと仕事みたい。お見舞いしてくれたのにあまり遊べなくて」
私は、リリーちゃんとジェラちゃんに頭を下げた。
二人はきょとんとした表情で私を見つめた後。
楽しそうに笑いかけてきた。
「別に問題ないわよ。お、お見舞い楽しかったし……」
「可愛いクレナちゃんをたくさん見れましたしね~」
お部屋で女子会楽しかったけど。
できれば……ハルセルト領の美味しいお店とか、綺麗な景色とか。
案内したかったな。
「なんて顔してるのよ。仕方ないわね、せ、せっかくだし一緒にまわってあげてもいいわよ?」
「……え?」
「そうですわね。お邪魔じゃなければ、是非ご一緒させてくださいませ~」
なんか二人ともセリフが芝居がかってるんだけど。
クレイは二人の言葉をきくと、大げさに洗練されたお辞儀をした。
「おお! もちろん大歓迎ですよ、ジェラ様、リリアナ様」
えーと?
……これ。
なんていう名前の演目ですか?
**********
私はクレイと二人に連れられて、飛行場についた。
すでにハルセルト家の大型飛空船は、出発準備が終わってるみたいで。
船の中央にある魔法石がキラキラ輝いている。
「ありがとう。二人が一緒にきてくれるのすごく嬉しい」
「ごめんね、クレナちゃん。前からクレイさんに頼まれていたの」
「そうよ、頼まれたから仕方なく、だからね? わかってるわよね?」
数日間、ハルセルト領をぐるぐる挨拶に回る予定って聞いたんだけど。
美味しいお店も。
私の好きな場所も。
一緒にめぐってくれるんだって。
これって、ほとんど旅行だよね。
ホントに……クレイって……優秀すぎる。
「お姉ちゃん、お待たせしました」
「ご主人様、おまたせー」
お屋敷の方向から、ナナミちゃんとキナコが走ってくる。
あれ?
……キナコが人化してない。
「ふふふ、今日は、キナコがご主人様たちを空の旅に案内するんですよ」
「え?」
「ほらはやく、魔法をかけてください!」
魔法って。
キナコを大きくするテイミング魔法のことだよね。
言われるままに、キナコに魔法をかけると。
巨大な赤いドラゴンが目の前に現れた。
「みんな乗ってくださいね」
「ドラゴンに乗って空を飛ぶなんて、絵本の物語みたい。楽しみですわ!」
「まぁ……楽しみよね」
「お姉ちゃんと空中デートできるなんて……」
三人が興奮しながら、キナコの上に登っていく。
「ほら、ご主人様もはやく」
「う、うん」
「手をお貸ししますわ」
「ほら、早くしなさいよ」
私は、手をのばしてくれてるリリーちゃんとジェラちゃんの腕につかまって、キナコの上に登る。
「それじゃあいきますよー!」
キナコは、全員が背中の上に座ったのを確認すると。
大きな翼を羽ばたかせた。




