23.お嬢様と平和で大切な日々
窓から差し込む日差しがさえぎられて、部屋に影を作った。
……これって……たぶん。
あわてて窓のそばまで駆け寄ると。
お屋敷の上空に飛空船が浮かんでいた。
船体が金色に輝いてて。
遠目に見ても豪華な装飾がされているのがわかる。
――大きな王家の飛空船。
頬の温度があがって……胸の鼓動が早くなってるのがわかる。
飛空船に乗ってるのは多分。ううん、きっと……。
「クレナお嬢様、失礼します!」
入ってきたのは、セーラ率いるメイド隊のみなさま。
「さぁ、今日も可愛くなりましょうね」
セーラたちが入ってきたってことは。
そいういうことだよね。
思わず赤くなった頬を両手で押さえる。
「……シュトレ王子が来たの?」
「ええ……今日は良かったですね、お嬢様」
セーラが嬉しそうにニコニコ笑いかけてくる。
「……別に普通だからね!」
「ハイハイ、わかりましたので。ゆっくり着替えましょうねー」
もう!
別に普通……じゃないけど。
じっとしてると、自然にゆるみそうだったので。
そのまま両手でじっと頬をおさせていると。
「クレナ様、それだとメイクできないので。手をどけてもらえませんか?」
セーラが笑いながら私の手をにぎった。
……それはそうなんだけどさぁ。
……恥ずかしい。
**********
しばらくして。
セーラたちが部屋をでると。
「クレナ、入ってもいいかな?」
部屋にノックする音が響いた。
シュトレ王子だ!
……おかしなところないよね。
私は鏡の前で、セーラたちにセットしてもらった髪と部屋着をチェックする。
髪はサイドでまとめて、少しだけゆるく編み込んでリボンで可愛くとめてあって。
部屋着は、レースのついた可愛らしいワンピース。
くるりと一回りしてみる。
うん、大丈夫……だよね?
「ハイ、どうぞ」
なるべく明るい声で返事をすると。
扉が開いて、シュトレ王子が入ってきた。
「クレナ、寝てなくて大丈夫? 無理はしないでいいよ」
心配そうな顔をして、シュトレ王子が入ってきた。
青い綺麗な瞳が優しく私を見つめてくる。
「大丈夫ですよ。もうお散歩くらいならできますし」
笑顔で王子に近づいた……はずだったんだけど。
少し景色がゆがんで、足元がふらついた。
「あ……」
「危ない!」
よろけたところを、王子に抱きとめられた。
「ご、ごめんなさい」
「いや、無事でよかったよ」
シュトレ王子の腕の中で、胸に頬を寄せる形になって。
うわぁ。
ちょっと恥ずかしいんですけど。
あわてて、逃れようとしたら王子に強く抱きしめられた。
えーと。
あれ?
でも……やっぱり。
王子の腕の中にいると……優しい香りがして……安心する。
しばらく、このままでいたいな……。
「……クレナ、まだ具合悪いみたいだし、ベッドに戻ろうか?」
「へ、平気です。たまたま、よろけただけですよ」
「ダメだよ」
今日もベッドかぁ……せっかくオシャレしたのにな。
そう思ってたら。
「すこしだけ、じっとしててね」
シュトレ王子がぱっと腕をはなすと。
私を横向きにふわりと抱え上げた。
私は落ちないように、あわてて彼の首に手をまわす。
……あれ?
……これって。
お姫様抱っこだよね!?
王子の綺麗な横顔がすごく近くにあって。
顔が燃えちゃうんじゃないかって思うくらい、頬に血が上っていくのを感じる。
「……恥ずかしい」
おもわず、口にした瞬間。
王子の顔が近づいて、唇にあたたかい感触が伝わった。
甘い吐息が聞こえてくる。
しばらくして。
私はベッドの上に運ばれていた。
「今日のクレナも、すごく可愛いよ……」
ベッドに優しく寝かされた私に、もう一度王子の顔が近づいてきた。
どうしよう。
このドキドキが王子に聞こえそうなんですけど。
ぎゅっと目をつむると。
突然。扉をあける大きな音がした。
「お姉ちゃん、金色毛虫が来てるんでしょ!」
私はあわてて、枕に顔をうずめる。
びっくりしたぁ。
「ちょっと! 人のお姉ちゃんに近づかないでください!」
ナナミちゃんがあわてて、私と王子の間に飛び込んでくる。
「やぁ、クレナちゃん。ご機嫌いかがです?」
さらに。
扉から入ってきたガトーくんが、シュトレ王子を無視して私に話しかけてきた。
さっきの飛空船。
やっぱりガトーくんも来てたんだ。
ナナミちゃんをちらっと見る。
「お姉ちゃん? また変なこと考えてないですよね?」
またまた、照れちゃって。
お姉ちゃんはちゃんと知ってますから。
「あら、お兄様たち、また来たんですね」
「ごきげんよう、シュトレ様、ガトー様」
開いたままの扉から、リリーちゃんとジェラちゃんも入ってきた。
リリーちゃんは、すでにカットされた果物が盛られた大きなお皿を持っている。
「今日はわたくしの番ですわ。ほら、クレナちゃん。お口を開けてくださいね~」
「ずるいです。私もお姉ちゃんにあげたいです」
「こんなにあるんだから、私からも食べなさいよね!」
……無理、そんなに食べれませんから!
「あの、せっかくだし、みんなで食べませんか?」
ふと、ガトーくんと目が合った。
私は目線に願いを込める。助けてのサイン、どうか届いて!
「うんそうだね、みんなで食べようか」
ガトーくんは、リリーちゃんからお皿を取り上げた。
ウソ、通じた?!
「えええ!? ガトー様。今日はわたくしが……」
ガトーくんは、リリーちゃんの抗議を無視するように、私の方を振り返った。
あれ、なんでもう片方の手で口元を押させてるかなぁ。
……もしかして……笑いをこらえてたりします?
「もう、何でそこで、笑うかなぁ~」
「ちがうちがう、あんまりクレナちゃんが可愛かったからさぁ」
「ご主人様、安心して。ボクがご主人様を守るから。こんな果物くらいあっという間に……」
いつの間にか入ってきたキナコが、果物皿をすごい目で見つめている。
「ちょっと、キナコ! みんなで食べるんだからね!」
「ホントに食べていいの? ご主人様、大好き!」
「あのさ、クレナの婚約者はオレなんだけどさ……。みんなちゃんとわかってる?」




