22.お嬢様と魔力の箱
私は……。
せっかくの夏休みをお屋敷のベッドで過ごしている。
だいぶ良くなったんだけど。
歩くとまだふらふらするから。
うーん。
困った。
「アンタまだ病人なんだからさ、ゆっくり寝てればいいのよ」
ジェラちゃんが果物をさしたフォークを口に運んできた。
「ほら、口をあけなさいよ」
これ、すごく恥ずかしいんですけど!
差し出してるジェラちゃんも顔真っ赤だし。
「ジェラちゃん、大丈夫、自分で食べれるから!」
「いいから! ほら、早く!」
もう。
私は仕方なく、果物をぱくっと口に入れる。
甘い味と香りが口の中に広がって……美味しい。
幸せ。
「クレナちゃん可愛い~。私もクレナちゃんにあげたいですわ」
「リリアナは昨日やったでしょ。今日は私の番なんだから!」
えーと?
……ちょっと。
なんで女の子三人で甘い雰囲気になってるのさ!
もし王子にしてもらえたら……って。
それはそれで。
想像しただけで……。
私が恥ずかしくて耐えられない!
「……クレナちゃん、大丈夫ですか?」
いけない。
またぼーっとしちゃった。
「大丈夫。ごめんね、二人とも。せっかくの夏休みなのに……」
「気にしなくて平気ですわ。もともと遊びに来る予定でしたし」
「べ、べつに。予定もなかったし。……全然平気よ。会いたかったし……」
そうだった。
ガトーくんとジェラちゃんだけじゃなくて。
リリーちゃんもウチに招待してたんだよね。
結局、私のお見舞いになっちゃって。
すごく申し訳ないんだけど……。
「王都からもセントワーグ領からも遠いし、毎日来なくても平気だよ?」
「え? 私たち通ってるわけじゃないわよ? 言ってなかったっけ?」
私のきょとんとした表情に気づいたリリーちゃんが、優しく微笑んだ。
「私たち、ずっとクレナちゃんの家に泊ってるんですのよ」
「そうなの?」
「だから、安心して。大人しく看病されなさいよね!」
だって、それじゃあずっとウチに泊ってるの?
夏休みなのに?
むしろ……すごく申し訳ないんだけど……。
「あの……ご主人様……いろいろ大丈夫ですか……?」
「え? キナコ?」
そういえば。
キナコも部屋にいたんだった。
ずっと黙ってるから、気づかなかったよ。
……っていうかさ。
何でそんな顔で固まってるのさ!
「だって、これどう見たって二人ともご主人様のこと……」
何か言いかけたキナコの口を、ジェラちゃんが思いっきりふさいだ。
「もう、アンタは少し黙ってなさいよ!」
「うぐうぐ……」
「こういのは、本人に気づいてもらうことが一番大事ですわ」
最近すごく仲いんだよね。この三人って。
でも気づくって……なんだろう?
**********
結局。
私が倒れた理由は、お医者さんも回復術者もわからなくて。
ストレスとか過労ってことになったんだけど。
うーん。
過労で二週間も寝てたりするかなぁ。
ちょっとずつ回復してきたから良いけどさぁ。
……でも、ホントになんだったんだろう。
私は、ソファーの方を向くと。
両手で頬杖をついているキナコに問いかけてみた。
「ねぇ、キナコ。私の病気の理由ってわかったりする?」
「うん、わかるよー?」
不思議そうな顔をして、顔をかたむける。
私と同じ造形のはずなのに。
……なにそのしぐさ、すごくカワイイんですけど。
まぁ、いくらドラゴンのキナコでも、そんなに都合よくいかないよね……。
……。
………。
え?
「ちょっと待って! ホントに?」
「え? うん、わかるけど?」
私はベッドから飛び起きると、キナコの座っていたソファーに向かう。
うわ、まだ地面が揺れてる。
ふらついたところを、キナコに支えられた。
「ほら、まだ危険だから寝ててくださいよ、ご主人様」
キナコの手をかりてベッドに戻ると、元の位置に横になった。
まだ歩けないのかぁ。
……ちょっと本気で困る。
「で、ホントに知ってるの?」
ベッドに横になったまま、キナコに問いかける。
「それ、魔力酔いだから」
「……魔力酔い?」
なにそれ。
初めて聞いたんだけど。
「その魔力酔いって何なの? ちゃんと治るんだよね?」
「うん。心配ないですよ。身体が慣れてないだけなので」
とりあえず、治るなら安心だけど。
「……ねぇ、慣れてないってどういうこと?」
「うーん。もともとご主人様は魔力をためる箱が大きかったんですけどね」
箱って。
魔力を体に蓄えておく場所? だよね?
「それがいきなり成長したから、身体がおどろいたんですよ」
「魔力の箱って……キナコ、それって成長したりしないよね?」
この世界で魔力の量は生まれつきで。
成長したりするはずないんだけど。
えーとたしか。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でも。
魔力の上限って……攻略対象と星乙女のラブ度が上がっても増えなかったはず。
「普通は成長しませんよ。……たぶん体が元に戻ろうとしてるんでしょうね」
「戻る? なんのこと?」
キナコはまるで。
急に大人になったみたいな冷静な口調で、優しく話しかけてくる。
「とにかく、あと数日ベッドで静養してれば治りますから。安静にしててくださいね」
いつもと違う表情に、ちょっとびっくりしたけど。
要はおとなしくしてればいいのね。
――でも。
「何で、もっとはやく教えてくれなかったのさー」
「やることは同じだからですよ。とにかくベッドで大人しくしててください!」
私をびしっと指さす。
赤いツインテールがぴょんとはねた。
あ。
こういう所はカワイイままだわ。
「ありがとう、キナコ」
安心したら。
なんだかまた眠くなってきた………。
「キナコごめん……少しだけ寝るね……」
これも、慣れたらなくなるんだよね?
まぶたが重くなってきて、もう限界だわ。
寝る直前にみたキナコは。
なんだかすごくキレイで……でも泣きそうな表情に見えた。
「……大丈夫ですよ、今度こそボクが守りますから」




