19.お嬢様とおとぎ話の真実
ずっとずっと昔。
どこからも満天の星空を見ることが出来た頃。
人々は星の魔力を利用して、しあわせに暮らしてた。
星々と人の使う魔力は、バランスがとれていたので。
夜空の星が減ることはなかったんだって。
でも。
ある時。
平和だったこの世界に突然。
『魔物』が現れた。
魔物は日に日にふえていき。
星の力を食べていく。
星空がやがて暗闇に変わっていき。
人々が嘆き悲しんでいると。
……別の世界から少女が現れた。
少女はドラゴンとともに、魔物と戦って。
やがて、星空は再び輝き始めました。
少女は、その国の王子様と結婚して。
いつまでも幸せにくらしましたとさ。
おしまい。
**********
――これが。
私たちが知っている星乙女の伝説。
でも。
王宮の地下室にあった書物に書かれた内容は。
ゲームの裏設定や、子共の頃から聞いていた話とは全然違って。
すごく……。
すごく……。
残酷なものだった。
「クレナ……大丈夫?」
「え?」
隣で一緒に読んでいた王子が、ハンカチで私の頬をぬぐった。
いつのまにか。
私は泣いていたみたい。
――それは。
数百年前に起きた、この世界の歴史だった。
**********
数百年前、二つの大きな国が戦争を起こした。
ファルシア王国と。
アイゼンラット帝国。
それは、大陸中の国を巻き込んだ戦乱になり。
長い長い月日が流れた。
人びとの暮らしを支えていた魔法は、戦争の道具として使われて。
負の感情が。
やがて……世界に『影』を誕生させてしまう。
力の濃くなった影は「魔物」としてこの世界に出現して。
人々をおそい、星の魔力を食べはじめた。
世界中に魔物が現れ。
星空の星が減り始めた頃。
……帝国は、影から生まれた魔物を操る方法を手に入れてしまった。
帝国はその力を使い、次々に王国の領地を奪っていく。
追い詰められた王国は、異世界から救世主の召喚をこころみた。
それが……初代の星乙女。
星乙女と、彼女が冒険の途中で出会ったドラゴンの活躍で。
帝国は撤退して。
王国に平和が訪れたようにみえた。
でも。
……一度発生した魔物は世界から消えてはくれなかった。
国王や国民は、星乙女に全ての魔物を倒してくれるようにお願いする。
彼女は快くそれを受け入れた。
やがて。
ドラゴンは魔物を倒し続けた影響で、自ら影になってしまい。
彼女は……。
影の竜を操り、最後までかばった罪で……処刑されてしまった。
ここにある書物はすべて、その当時の王子が書いたもので。
彼は、心から後悔していた。
無理に戦わせてしまったことを。
平和を願う彼女の心を、国王や国民が利用してしまったことを。
それを止められなかったことを。
そして。
……愛する彼女を失ってしまったことを。
彼は国王になった際に、そのすべての事実を封印して。
愛する彼女の名誉を守った。
『少女は、その国の王子様と結婚して。いつまでも幸せにくらしましたとさ』
それは。
王子のせつない……願いだったんだ。
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その日の夜。
私は、ベッドの上で今日の出来事を思い出していた。
かみたちゃんは、おそらく『初代の星乙女』で。
すごく悲しい結末を迎えてしまった。
かみたちゃんの、優しい声と笑顔が頭に浮かぶ。
あんなことがあったのに……。
今もこの世界を守ろうとしてるの?
どうしても涙があふれてくるので、枕に顔をうずめる。
「うーん。私が好きでやったことなのでー。そんなに悲しまなくて平気ですよー?」
……。
え?
えええ?
ええええええ?!
声をした方向を見ると、ベッドのすぐ近くで覗きこむような姿勢で。
金色に光る少女が立っていた。
「かみたちゃん……だよね? こっちの世界にこれるんだ?」
「クレナちゃんのおかげで、最近は星の力が戻ってきてますから。こうして世界にも出現できるんですよー」
彼女は、大きくジャンプすると、ベッドの上に飛び乗ってきた。
って、あれ?
さっきまで一緒に寝ていたナナミちゃんとキナコがいない?
「あの二人でしたら、自分のベッドに送っておきましたよー」
ナナミちゃんも、キナコも。
自分の部屋があって、ベッドもちゃんとあるんだけど。
私の部屋に来るのでほとんど使っていない。
……まぁ、たまにはいいのかなぁ。
「うふふ、これで二人きりですねー」
かみたちゃんは、嬉しそうに私の横にねそべると、頬を寄せてくる。
だから。ちかいんだってばぁ。
「ねぇ、かみたちゃん」
私は、顔を両手で抑えながら、かみたちゃゃんに問いかける。
「かみたちゃんは……初代の星乙女なの?」
彼女は、一瞬きょとんとした顔をした後。
かわいらしく微笑んだ。
「そうですねー。そんなふうに呼ばれたこともありましたよー」
やっぱり、そうなんだ……。
「王宮で、昔の王子の記録を読んだのですねー。もう、彼にはこまったものですねー」
「彼は……かみたちゃんを愛してたと……思います」
かみたちゃんは、少し寂しそうな表情をしたあと。
ボソッとつぶやいた。
「んー、そんな独りよがりな愛はいらないのですよー」
「かみたちゃんも、王子の事が……好きだったんですか?」
「ずっと昔お話ですので。忘れてしましましたよー」
うそだよ。
……だって。
……だって。
じゃあなんで。
……そんなに泣きそうな顔をしているの?
そっとかみたちゃんを抱きしめると。
急に顔が近づいてきて。
唇に柔らかい感触と吐息が重なる。
「ストップ! またいきなりなんだから!」
慌てて、かみたちゃんを両手で押し返す。
「そうですか。まだそこまでなんですね。んー。ちょっと意外でしたけど、安心しました」
「えーと、なにが?」
何の話だろう?
キスのことじゃ……ないよね?
「これ以上はなにも思い出さなくて良いんですよ。あとはゆっくり……おやすみなさい」
かみたちゃんが優しくささやくと。
なんだか意識が遠くなっていく。
………大事なことを……忘れてる気がするんだけど。
……なんだろう?




