18.お嬢様と金色に光る少女
ファルシア王国の王宮にある地下室。
ここに入るためには、特別なカギが必要になる。
カギは全部で二本あって。
一本は、国王様が。
もう一本は、第一王妃が持っているんだって。
「ここから入るんだよ」
私たちは、空中庭園の奥にある、レリーフが入った石壁の前にいた。
よく見ると。
王家の紋章の下に、小さな魔法石が埋め込まれている。
シュトレ王子が手をかざすと。
魔法石が反応して光を放つ。
壁の一部が下がり始めた。
奥に地下に続く階段が見える。
……すごい。
こんな仕掛けがあったんだ。
シュトレ王子が、優しい顔で手を差し出してきた。
「いこう、クレナ」
「……うん」
うーん。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』では、こんな話なかったと思うんだけど。
これってたぶん。
すごく大事なことなのに。
――なんでゲームで出てこなかったんだろう。
地下へ続く階段を王子に手を引かれながら、少しずつ降りていく。
つないだ王子の手から、あたたかさが伝わってきて。
なんだか。
嬉しいんだけど。
なんだか、物語のお姫さまみたいで。
……すごく恥ずかしい。
「あの、シュトレ様。手は大丈夫ですよ? 歩きづらいですし」
「うん、それでも。足元危ないから。ね?」
階段にも壁にも魔法石が埋め込まれているみたいで、すごく明るいし。
確かにドレスだから少し降りづらいけど。
平気……なのにな。
平気なんだけど。……でも。
振り返った王子の。
子供の頃のような優しい笑顔がすごく眩しくて。
……そのままぎゅっと手を握りしめた。
**********
地下に続く長い階段を二人で降りていくと。
やがて。
少し広い空間に到着した。
周りを見渡しても、とこに変わった感じはなくて。
引き出しのついた小さな机とイス。
あと本棚が一つだけ。
ここが秘密の部屋なのかな?
私の表情をみた王子が楽しそうに笑う。
そんなに、表情に出てたかなぁ。
「ここはね、部屋の入口なんだ」
「入口?」
「うん。見ててね」
王子が机の引き出しに、持っていたカギを差し込んだ。
机の引き出しの中になにかあるのかな?
そう思った瞬間。
目の前の机がいきなり消えて。
王家の紋章が入った扉が出現した。
「うわぁ、すごい……」
「うん、オレも最初おどろいたよ」
これって魔法……だよね。
いきなり物が消えたり、扉が現れたり。
まるで、かみたちゃんみたい……。
「さぁ、お姫様。中へどうぞ」
王子は扉を開けると、振り返って手を差し出した。
私は、王子の手をとって、ゆっくり中に入っていく。
そこは。
石造りのかなり大きな部屋だった。
左右の壁には本棚が並び、びっしりと本が並べられている。
奥の壁と天井には。
大きな竜と女の子の壁画が描かれていた。
これ、どこかで見たことある気がする。
えーと。
そうだ!
子供の頃に影竜を倒した時の、宗教団体の洞窟にあった壁画だ!
うん、そっくり。
「クレナから、かみたちゃんの話を聞いて。少し気になったんだ」
「かみたちゃん……ですか?」
「そのかみたちゃんは、この少女に……似てないかな?」
シュトレ王子は、本棚から一冊の本を取り出して、パラパラとページをめくる。
「ほら、これも同じ少女の姿絵なんだけどね」
本に描かれているのは。
金色に光る、ショートボブの女の子。
大きい瞳と可愛らしい表情が印象的なんだけど。
これ、かみたちゃんだよね。
どうみても……彼女にしかみえない。
「シュトレ王子……この少女は……誰なんですか?」
「うん、これはね。初代の星乙女を描いたものだよ」
初代の星乙女?
なんだろう……この部屋にきてから、ずっと胸のドキドキがとまらない。
王子と二人きりだからかなって思ってたけど。
違う……そうじゃないみたい。
「どう? 気のせいならいいんだけどさ」
「王子……この子は……かみたちゃんに……そっくりです」
「そうか」
王子は納得したような表情をすると、あらためて本棚からたくさんの文献をもってくる。
「どうもね。力を使った時にだけ、金色の姿になったみたいなんだよ」
どの本に描かれている少女も。
かみたちゃんにそっくりだ。
でも……どういうことなんだろう。
初代の星乙女なんて、何百年も前の話なのに。
それに。
私は、別のページの姿絵に目を奪われていた。
描かれてるのは。
黒髪と大きな黒い瞳の女の子。
きっと、力を使っていない星乙女の姿なんだと思うけど。
金色の姿絵にちゃんと色がついたような感じで。
それだけで、受ける印象が全然違っている。
……。
…………。
……私はこの姿を……知っている。
かみたちゃんに出会うより……。
ずっとずっと昔から。
私はこの姿を見ていた気がする。
……どこでだろう。
「クレナ、大丈夫?」
気が付くと。
シュトレ王子が、心配そうに顔をのぞき込んでいた。
「ご、ごめんなさい。大丈夫です」
「無理しなくていいからね」
王子は、ふわりと私を抱きしめると、髪をそっと撫でてくれた。
彼の腕の中はすごくあたたかくて……。
少しずつ、気持ちが落ち着いてきた。
「シュトレ様……ありがとうございます」
「ねぇ、クレナ。かみたちゃんは、初代の星乙女で間違いないのかな?」
王子は、優しい声で問いかけてくる。
「そう……だと思います」
どの文献をみても。
かみたちゃんにしか見えなかったから。
「うーん、でもそうするとさ。初代の星乙女が、クレナ達をこの世界に転生させたってことだよね」
「そうなりますよね……」
「おかげで、クレナに会えたのは嬉しいけど」
シュトレ王子が優しい目をして微笑んだ。
私は、真っ赤になった顔を見られたくなくて。彼の腕に顔をうずめた。
……もし本当にかみたちゃんが初代星乙女なら。
自分も転生者だったはずだよね。
なんでゲームを作ったり、転生させたりしたんだろう?
この世界を救うため?
……なのかな。




