14.お嬢様と思い出のカフェ
私は部屋のベッドで目を覚ました。
もうすっかり朝日がのぼっているみたいで。
明るい光が窓から差し込んできている。
両隣では、キナコとナナミちゃんがスヤスヤ寝ていて。
うん、これはいつもの風景なんだけど。
……何か大事なことがあったような。
確か……王宮で歓迎会の打ち上げをやって。
そのあと。
えーと?
……。
…………。
うそ。
嬉しさと不安とが混じったような不思議な気持ちが、胸の中に広がっていく。
昨日、シュトレ王子と空中庭園で会ったのって。
夢?
それとも、現実?
ボーっと考えていたら、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「お嬢様方、朝食の準備が出来てますよ」
執事のクレイの優しい声で、ベッドから起き上がる。
うん。
きっと夢だよ。
じゃないと……恥ずかしすぎる!
**********
「クレナー! シュトレ王子が迎えにきてるわよー」
部屋で学校にいく準備をしていると。
お母様が部屋に入ってきた。
私はあわてて、編みかけの髪の毛を整えようとしたんだけど。
焦ってうまくまとまらない。
「クレナ様。私が結いますので、少しだけじっとしててくださいね」
「……セーラ、ありがとう」
キナコの髪を結んでいたセーラが、優しく声をかけてくれた。
もう。
王子忙しいんだから、毎日迎えにこなくてもいいのに。
……嬉しいけど。
……嬉しいんだけど。
そういえば。
昨日の……現実だったのかな?
玄関にいくと、シュトレ王子のさわやかな笑顔が飛び込んできた。
「おはよう、クレナ」
あれ?
いつも通りだよね?
じゃあ。あれはやっぱり……夢だったのかな。
「シュトレ様。おはようございます」
昨日の夢を思い出して、顔がほてっていく。
あんなふうに甘えて抱きつくなんて。
……おまけにあんな話。
もう!
思い出しても恥ずかしすぎるよぉ。
私にあんな願望があるなんて。
……でも。
信じてもらえないのはわかってるんだけど。
それでも、シュトレ王子に内緒にしてるのは……。
自分の中で痛みが胸にどんどん広がっていく。
私はこのまま。
彼に秘密を抱えたままで。
……ずっと隣にいていいのかな。
「……クレナ、どうかしたの?」
「ううん、なんでもないです。あの、毎日迎えにこなくても大丈夫ですよ?」
「クレナは、迎え来てほしくない?」
「……来て欲しいですけど」
思わずうつむいて答える。
それは一緒にいたいけど。
……だって、王子忙しいのに。
「そうか! そう言ってもらえると嬉しいよ」
ぱっと顔を上げると。
目の前に、王子の満面の笑顔があった。
なにそれ、可愛い!
もう、そんな顔されたら。私、遠慮とかできなくなりそう。
「あー! 今日もきてるよ、金色毛虫!」
「やぁ、おはよう、ナナミちゃん」
「あのー? 私もお姉ちゃんも、毛虫とお話する趣味はないですよ?」
「こら! ナナミちゃん!」
「だってー!」
ナナミちゃんは、頬を膨らましながら私に抱きついた。
なんだか。
ナナミちゃんと攻略対象の関係って。
ゲームと全然違う気が……する。
「ごめんなさい、シュトレ様。せっかく迎えにきてもらってるのに」
学校に向かう途中。
王子に話しかける。
すぐ横にはナナミちゃんがぴったりくっついていて、歩きづらい。
「オレが好きでやってるんだから、気にしないで」
シュトレ王子は優しい微笑んだ。
青い澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。
「それにね、ライバルが多いから、けん制かな?」
ライバルって。
なんのことだろう?
シュトレ王子に尋ねようとしたら。
ちょうど登校中のリリーちゃんと、ジェラちゃん、ガトーくんと合流した。
「クレナちゃん、おはようございますー!」
「今日も、ぐ、偶然ね。一緒に学校に行ってあげるわよ!」
「やぁ、クレナちゃん、おはよう」
なんだか登校時間が同じくらいで。
みんな偶然この付近の道で会うんだよね。
「はぁ……ご主人様……」
キナコが深いため息をつく。
えー?
なんで今ので、ため息つくかなぁ?
**********
放課後の生徒会活動でも。
シュトレ王子はいつもと同じだった。
むしろ夢の影響で……。
私のほうが意識してるみたいで。
少し……ぎこちない。
「ねぇ、クレナ。この用事ある?」
「あー。えーと……今日は特にないですよ?」
大丈夫だよね。
ちゃんと笑顔作れてるよね。
「そっか。じゃあさ、パンケーキのカフェに寄って行かないか?」
「……え?」
中等部の頃にできた王都のパンケーキのカフェは、今ではすっかり人気店で。
すごく待つことが多いんだけど。
「……もしかして、予約してあったりします?」
「あ、いや。いいんだ。クレナが行きたければで」
王子は、慌てたような表情で答える。
なんだか。
カワイイ。
「いいですよ。最近すごく混んでて入れなかったので、楽しみ!」
「そうか、よかった」
王子の表情がすごく自然に和らいだ。
もう。
そんな甘いを見せられて断れるわけないでしょ。
王子は、自分の魅力……わかってるのかなぁ。
**********
「うわぁ、すごくオシャレ」
「そうだねー」
相変わらず。赤いお店の屋根と看板がすごく可愛らしい。
店内も、オシャレでかわいい空間なんだけど。
今は……。
店内の内装とちょっと浮いた感じの、がっちりとした男のお客さんが多い。
これ、護衛の人達だよね。
えーと。なんだか……ご苦労様です。
パンケーキをぎこちなく食べている護衛人と目が合って、思わずお辞儀をした。
すると。
突然、店内のお客様が全員立ち上がって、一斉に敬礼をした。
「未来の王妃様に敬礼!」
うわぁ。
ビックリした。
笑顔。
ここは笑顔だよね!
「皆様も、護衛の任務おつかれさまです」
両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げてニッコリスマイル。
……あれ?
なんで静かになるかな?
「クレナ、こっちだよ」
シュトレ王子が、手をひいて、お店の奥に案内してくれた。
ここって、カフェの奥にある個室だよね。
部屋に入る直前に、店内からどよめきとすすり泣きの声がしたような?
なんだったんだろう?
個室の中も、可愛らしくてオシャレな空間で。
うん。
私、やっぱりこのカフェ大好きだな。
そういえば。
お店がオープンした頃、シュトレ王子と一緒にここに来たよね。
あの時は、まだ仮の婚約者で。
あのとき、私はシュトレ王子に伝説の星乙女ちゃんを勧めてたんだっけ。
懐かしいなぁ……。
自然と、笑みがこぼれてしまう。
「……クレナ、聞いてる?」
テーブルを挟んで目の前に座っているシュトレ王子がちょっと赤い顔で問いかけてきた。
「あ、えーと、なんでしたっけ?」
いけない。
おもわず、思い出に浸ってしまった。
「だからさ。もしよかったらクレナの前世の話を聞かせてくれないかな。オレも秘密を共有したいから……」
王子は真剣な表情で、私を見つめている。
……。
……あれ?
……もしかして。
昨日の空中庭園での出来事って。
夢じゃなかったの?!




