最終話(エピローグ)メインルート "世界"の崩壊
最終話はメインとifに分岐します。
まずはメインの、サブタイトルからしてバッドエンドな最終話から。
なお、『無のエリス』本編では異性間の恋愛描写は皆無ですが、こちらでは今回に限り例外的に少しだけそういう描写がありますのでご注意ください。
葵たち「十色盟」の4人は四稜女子中等学校の教師・中畑恵理、兼利文とともに半壊した象牙色の塔に来ていた。
塔の中にも入りこんでいた魔物たちを淡々と"処理"しながら階段を上っていき、本来は中間に位置していたが、半分になってしまった現在の塔では最上階の1つ下にあたる階に到着。
文と恵理は、魔物に荒らされていないその階で「掃除用具入れ」の封印を解除して道具を出すと、明、命、茗露に渡していく。
葵は、恵理から
「上野さんは、こっちの道具を使う?それとも、自分の刀にする?」
と聞かれ、
「使い慣れた、この"識彩"を使います」
と答えたため、文と恵理が自分で使う道具を取ると、「掃除用具入れ」は再度封印された。
「本来あなたたちがやるべきことだったのだけど、こんな状況になってから掃除をやらせることになってしまって申し訳ないわ…」
恵理はそう言ってから、第六種魔法を発動させて自分を含む6人を五稜町に転移させた。
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五稜町内で、6人は溢れかえった魔物たちの掃除を快調に行っていた。
だが、この町の魔物は滅ぼしても魔物の核を残さない。
葵がそのことに気づいた時、すでに手持ちの魔物の核はほとんど使い切っていた。
慌てて、第六種魔法を使わない戦法に切り替えたが、明らかに魔物掃除のスピードが鈍った。
それでも終わりが見えてきたと思った瞬間、突然後ろから魔物に抱きつかれ、パニックになった葵は"識彩"を滅茶苦茶に振り回した。
錯乱したままの葵が"識彩"に、加減を考えずに凄まじい規模の第六種魔法を付与して放った一撃は、"何か"をいとも簡単に破壊した。
それは、葵たちが守るべきだった"世界の封印"。
ただ、本人を含めて誰も"葵が封印を破った"という事実に気づかなかったことは葵にとって不幸中の幸いだった。
ふと辺りを見回した恵理が、封印が破られたことに気づいてから間もなく、もの凄い衝撃が"世界"を襲った。
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葵はその後、どうやって四稜町に帰ってきたか覚えていなかった。
だが、五稜町の中にいた魔物は教師2人と協力して全滅させたこと、五稜町の外に出たら象牙色の塔が完全に崩壊していたことだけはなぜか覚えていた。
「あの日」以後、"海"を遮るように浜に築かれていた壁が消えたという噂を聞き、その数日後に九龍町を含む、"動物園"より西側にあった町は滅んだ。
そんな状況下ではさすがに学校も休校になり、卒業などの扱いも当面先送りとなった。
不安ばかりが募る葵だったが、それでも家に明、命、茗露が遊びに来て、4人でいる間は安心していられた。
四稜町より南東の、"動物園"の外にある中松町が、川の"暴走"によって周辺を含む地面が崩壊したことにより滅びたというニュースを聞いた次の日も、葵たち4人は葵の家で遊んでいた。
夕方になって、家の前で3人を見送る葵。
なぜかその日は別れたくないと内心で思っていたが、それをおくびにも出さず、笑顔で"またね"と言って別れた直後、一番先に葵に背を向け、十数歩歩いていた明が、突然天から降ってきた膨大な質量の青い光に押しつぶされた。
光が収まった時、明の姿はなく、明がいた場所には、彼女が愛用していたメガネと、"卒業制作"として作った、4人のイニシャルをあしらった十色盟オリジナルのチョーカーだけが残されていた。
さらに、明がいた場所に駆け寄ろうとした命にも赤い光が降り注ぎ、命も明同様に、チョーカーだけを残して消滅した。
残された葵と茗露は、目の前で起こったことが信じられず、ショックのあまり意識を失って倒れた。
葵が意識を失った後、"世界"は本格的に崩壊を始めた。
同時に、明や命のように天から降ってきた光で消される人も増え始めた。
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明や命との突然の別れから時は流れ、葵は四稜町があった場所よりはるかに東の「二玉町」にいた。
この町で意識を取り戻した直後は、肉体は生きていても心が完全に死んでいるのでは、と心配されたくらい酷かったが、四稜町からずっと寄り添っていた男性の献身により、日常生活に支障がないくらいまで回復した。
男性からは、葵の母・天音が亡くなったことと、四稜町が"動物園"もろともこの"世界"から消えたことを聞いた。
もちろん悲しいことだが、明や命の時のように実際にその目で見ていないからか、意外にも涙が出なかった。
葵は、自分のために尽くしてくれた男性への恩返しが済むまでは、と考えて男性との同棲を続けていたが、自分が男性に心を寄せていることも認識していた。
葵の、"この世界"における最後の日も、明や命との別れと同様、突然訪れた。
これまで"世界"の崩壊は南・西から徐々に進んでいたため、二玉町の崩壊はだいぶ先と思われていて、夕焼けの空の下、葵は買い物へ出かけるため、恋人の見送りを受けていた。
もう少しで最初の曲がり角、というところで"世界"が震え、葵の歩いている道がぐちゃぐちゃに壊れ始めた。
すぐに葵は引き返し、不安定な足場を、使える限りの魔法を駆使して家に戻ろうとする。
家の前の丁字路は、今まさに崩壊し闇に飲まれようとしている道以外は安定しているように見える。
だが、最後の最後で葵に不幸が待っていた。
前方の、家の前で待つ恋人にしか意識が向いていなかった葵が、恋人が何か叫んでいるものの聴き取れず、思いっきり跳躍して家の前を横切る道に入った途端、何かにぶつかった。
それは、運転者が前を全く見ずに、車体の設計上出せる最高速度といってもいい速さで突っ込んできた、原動機付自転車。
撥ね飛ばされた葵はそのまま、恋人の前で底知れぬ闇に落ち、"この世界"での生涯を閉じた。
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茗露は葵とは別の人に保護されて、別の町で葵よりも長く生き延びたが、"意識"は取り戻したものの、3人との"別れ"をどうしても受け入れきれず、3人は別の場所で生きていると思い込むことで精神的な安定を保ってきた。
それ故に世界の完全な崩壊が迫っていても、気が触れて自ら命を絶つことはせず生き抜いた。
彼女が葵と同じ奈落に吸い込まれた数日後、葵たちが生まれ育った"世界"は完全に消滅した。
万有の葵 BAD END
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底なしの闇に飲まれたはずの葵が目を覚ますと、雲の中にいるかのような雰囲気の場所にて、女性に見下ろされていた。
女性の全身からは神々しいオーラのようなものが発せられている。
葵はこれから「前世」でいた世界とは異なる世界に、"14歳"のまま転移する、という女神の話を、惚けた顔で女神の肢体を視姦しながら聞いていた。
『万有の葵』メインルートはこれで終わり、『無のエリス』本編(または『無のエリスRPG』)の3章6話につながります。
(『無のエリス』本編はR18です。18歳未満の方はカクヨムにて連載しているリメイク版『無のエリスRPG』をご覧ください。)
葵の"最期の地"となった「二玉町」の名の由来は徳川家康の息子・信康の終焉の地である「二俣城」(浜松市天竜区)ですが、それ以外にもいくつかの意味を込めています。
次回の、最終投稿は『無のエリス』につながらないifルートです。




