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万有の葵  作者: 長部円
2章
16/18

2章5 Pre-apocalypse

予告しておきますが、前回からの鬱展開が続きます。

5


十色盟と巧速徹道の8人は、その後に行われた3年2組の課題でも脱出の妨害を手伝い、"見事に"2組の32名を全滅させた。

だが、2クラス64人全員がこの課題によって心に傷を負った。

やられた56名と巧速徹道の4人は十色盟の4人を極度に恐れるか、下僕になると言って媚び(へつら)ったりするようになり、十色盟の4人も正気に戻ってから自分たちがしたことの罪悪感に(さいな)まれ、(ふさ)ぎこんだり、授業中に妄想に(ふけ)って急に不気味な笑い声を上げたりするようになった。

教師たちはこの状況を重く見て、戦闘系の課題を無期限中止とするほか、生徒たちの心のケアをしようと様々な手を打った。


時が経つにつれて、ある程度の改善は見られたが、十色盟の4人と他の生徒の関係は(いびつ)なままだった。

その分、4人の仲は深まり、ある日に一線を越えた。


ふとしたタイミングで、葵と振り返った(めい)の顔がほぼゼロ距離になると、

「葵…」

「コーメイちゃん…」

お互いの唇の距離を0にする。

すぐに唇を離した明は、

「命…」

2人のキスを見て固まっていた命の唇を奪った。

明が最後に残った茗露(めいろ)の方へ向かうと、命が暴走を始めて

「葵さん葵さん葵さん…」

明とのキスの余韻に浸っていた葵に情熱的な口づけをする。

「みこちゃん…しゅごい…」

命が葵から離れると、床に座り込んだ葵は虚空に視線を彷徨(さまよ)わせ、2人とのキスで完全に酔っぱらったかのような、ふにゃふにゃした感じになってしまった。

「えへへ…アオちゃん…私とも…ちゅっちゅするです…」

3人の唇を制覇した明を命が襲い、唇を奪い返したタイミングと同時に、茗露も葵と唇を重ねた。

2組はそのまま、頭の中がふわふわして意識を失うまでお互いの唇を味わっていた。


教師たちの手段を(えら)ばぬ施策が奏功したのか、卒業に必要な課題が残り2つとなる頃には、十色盟の4人と他の生徒はほぼ元の関係に戻りつつあった。

だが、その代償は大きかった。

教師も生徒も「四稜女子中等学校」や四稜町という内側だけに目が向いてしまい、四稜町の外における"変化"になかなか気づかなかった。


数日前に"世界"が震え、五稜町の北側に架かっていた壊れかけの橋が完全に崩壊したが、誰も気に留めなかった。

しかし、次の"変化"はほとんどの者が気づくものだった。

再び世界が震えた後、五稜町のすぐそばに建っていた象牙色の塔が"折れた"。

四稜町の被害はないが、しばらく四稜町での"井戸端会議"の話題はそのことで持ち切りだった。


象牙色の塔が折れてから数日後、3年1組の担任である兼利文(かねり・ふみ)は生徒へ、今日を持って担任を外れると告げた。

「察しの通り、五稜町の象牙色の塔について、調査に行くためです。

 あなたたちの卒業まで…担任を続けられなくて残念だけど…卒業式には必ず出ます…」

生徒たちは文に、寂しいとか、私も先生と一緒に行きたいとか、一緒に行けなくても手伝えることがあったら手伝うとか、いろいろな言葉をかけていたが、十色盟の4人はそれらに加わらず、小声で相談していた。

文が生徒たちを落ち着かせたところを見計らって、葵が文に近づき、口を開く。

「先生…話がありますので…最後の授業が終わったら…職員室に行きますね…」

「分かったわ…職員室で待ってるわね…」

一部の生徒は、もしかして告白かな、などと噂していたが、半数くらいは葵がそういう雰囲気でないことを悟っていた。

その日の授業が終わると、葵・明・命・茗露はある"決意"を胸に、職員室へ向かった。

2章はこれで終わり、次は早くも終章です。

竜頭蛇尾というか、頭も竜とはとても言えない内容でしたが、エンディングの内容はほぼ固まっていて、あとは文章にするだけなので、完結はさせます。

もう少しだけお付き合いください。

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