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万有の葵  作者: 長部円
2章
12/18

2章1 reach for the star

待ってくれていた方がどれだけいるかはわかりませんが、新章です。

1


城郭都市「四稜(しりょう)町」から南南西の方角には、四稜町よりも大きな城郭都市が"ある"。

今回の課題で葵たち「十色盟(といろのちかい)」と合同チームを組む「巧速徹道(こうそくてつどう)」のリーダー・海上希未(うなかみ・のぞみ)も最初の課題で中松町へ向かう途中、遠くにその威容を見たという。

だが、今回の課題の目的地であるそこへ行くには、異様な丈に成長した植物の"森"を抜ける必要がある。


中松町行きでも使ったという、東田青葉(あずまだ・あおば)の緑魔法「グリーン・リミテッド・エクスプレス」で草原を高速移動した十色盟・巧速徹道連合の8人は、一番乗りで"森"の外側に到達した。

高速移動による疲労が回復するまで小休止をとることにしたが、その間も(めい)は"森"を構成している植物に興味津々。

そんな明に葵が近づく。


「コーメイちゃん、何か分かりそう?」

「ふぇっ?」

「あっ…びっくりさせちゃってごめん」

「いいえ…葵になら…何をされてもいいわ…はぁはぁ…はっ…ところで何か用かしら?」

「コーメイちゃんが、植物を興味深そうに見ていたから、何か分かりそうなのかなって」

「…葵…ちょっと試したいことがあるのだけど、そこの葉っぱを取ってくれるかしら?」

「いいよ」


葵が植物の葉を1枚取る。

「それを地面に置いて」

「よいしょ」

「ちょっと離れてて…ブルーライト」

葵が地面に置いた葉に明は青魔法で青い光を当てる。

「その葉っぱに、殺傷能力のない赤魔法をかけてみて」

「はーい、レッドカード!」

葵の赤魔法によって生成された赤い紙片が葉に触れると、紙片と葉は一緒に消滅した。

「葵!すごいわ!」

明は思わず葵に抱きつく。

「コーメイちゃん…うれしい…けど…恥ずかしいよ…」

「ごめんなさい…」

葵に言われて、明は顔を赤くしながら葵から離れた。


「それで、コーメイちゃんは今ので何か分かったの?」

「うん…異様な成長を遂げたここの植物は魔物と同じで、弱点の属性をつけば消えるのよ。

 でも、今は葉っぱ1枚だけだったから、この程度の魔法で消せたけど、この"森"全体は全員の魔力を合わせても無理そうね。

 過去に誰かがここを突破した時の名残があれば、それを利用できていいのだけれど…」

「それがあるかどうか…は、地道に探すしかないね…」

葵と明は"実験"の結果を他の6人に共有した上で相談し、十色盟&巧速徹道チームは"森"の外側に沿って西に進むことにした。


----


「これは…分かりやすいね」

一面の緑だった"森"が、一部だけ帯状に赤く染まっていた。

8人で、使う魔法とその順番を相談する。


「まずは私が行くね…グリーン・ディケイ」

茗露の緑魔法で赤い植物が緑に侵食されていく。

「次はウチね…ブルーレイ」

西脇光(にしわき・ひかり)の放つ青い光が、緑に侵された赤い植物を殲滅する。

「みんな、これに乗るよ…オレンジ・エクスプレス!」

希未の魔法で橙色の光を帯びた十色盟・巧速徹道連合の8人は、青い光の"線路"に乗って、切り開かれた道を進んだ。


結果から言えば、進んだ道の先は、"はずれ"だった。

城郭都市を囲う水堀には到達したが、土塁を登ると、そこには橋がわずかだけ残り、水堀に架かっていた部分は無残にも崩壊している。

水堀の向こうには、かつて大いに栄えたが、今は一部で"堕ちた巨星"の通称がつけられている巨大な城郭都市"遺跡"「五稜(ごりょう)町」の城壁が不気味に(そび)えていた。

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