1章6 白・緑・ピンクのウサギたち
前回投稿から1か月弱開いてしまいましたが、1章6話目をお届けします。
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七番町を目指したが課題をクリアできなかった葵たちのクラスメイト8人は、大けがをする前に大人たちに保護されたため、その日のうちに治癒魔法を施され、翌日は1人も欠けず登校してきた。
そのうちの1人に話を聞くと、緑色のすばしっこい魔物に一方的に攻撃され続けたとのこと。
「もしかして、前にゆかちゃんが智ちゃんに魔法かけてもらってようやく倒したウサギと同じかな?」
「…その可能性はある…」
その日、四稜町に未成年者のみで町の外にでることを禁じる政令が告示された。
それに伴い、最初の課題が再開できる見込みが立つまで、課題日にあたる日は課題に関係のない1・2年生を除いて休校日となった。
未成年者の"外出"禁止令が出て最初の、本来"課題日"だった日に、四稜女子中等学校の教師・中畑恵理は四稜町から七番町方面の調査を1人で行っていた。
もうすぐ、両町の昼間に差し掛かるところだ。
ここまで、恵理が遭遇して仕留めた魔物はほとんどがウサギの類。
顔が赤い白ウサギ"スノーラビット"や緑色の体に赤紫の斑模様がついた"シティラビット"など。
前に3年1組の8人が襲われたという緑色のすばしっこい魔物もおそらく"シティラビット"だろう。
そんな考え事をしながら恵理が七番町への道を進むと、またしてもウサギに遭遇。
今度はピンク色のウサギだ。
それまでのウサギと違い、すぐに襲ってこないので恵理が様子をうかがっていると、ウサギは何らかの術を使って変身した。
その姿は、頭頂部にウサギの耳がある以外は、恵理たち人間と同じようだった。
髪の毛はピンク色で肌はつるつる、首から上と手足は完全に露出しているが、胴の部分はボディラインがはっきりわかるほど身体に密着した素材の衣服で覆われているように見える。
「私は、貴女を攻撃するつもりはありません…私の欲望に従って、こうしたいだけ…」
ウサ耳の女性はそう言うと、恵理に急接近して唇を奪った。
しばらくして、満足したのかウサ耳の女性は顔を恵理から離した。
2人とも顔を赤く染めている。
「私のキス…どうでした?」
「まさかウサギとキスするとは思わなかったけど…意外とよかったわよ…」
「喜んでいただけて嬉しいです…」
「ところで、この一帯がウサギだらけになっている原因は貴女?」
「その通りです」
「あっさり認めるのね…。
貴女が"私に攻撃するつもりはない"と言っても、貴女の仲間が私の教え子たちに危害を加えているのよ…。
もっとも、私たち人間も正当防衛とは言え、相当の数のウサギを狩っているわ。
貴女とはキスした仲だけど、この後の出方によっては貴女を手にかけないといけない…」
「私は…貴女を一目見て…好きになってしまいました…。
私の中で貴女の存在がどんどん大きくなっています…。
そんな貴女に嫌われたくないので、私も"貴女のために"何とかしたいのですが…」
「私たち普通の人間からすれば、ウサギたちが人間を襲わなくなるなら、この一帯がウサギだらけでも構わないけど」
「そうですか…それなら、貴女がどれだけ強いかを、私に見せてください」
ウサ耳の女性はそう言うと、先ほどとは別の術を使って青いウサギを召喚した。
「この子と話をするので、少し待っていてください」
ウサ耳の女性は元のピンク色のウサギに戻ると、青いウサギのそばに寄って会話らしきことをしている。
"会話"が済んだのか、再びピンク色のウサギはウサ耳の女性に変身した。
「この子と戦って貴女が勝ったら、私が責任をもってウサギたちに貴女の強さを広め、人間を襲わなくなるようにします」
「私がこの子を仕留めて、核だけにしても大丈夫なの?」
「…はい…私なら、核だけになっても元に戻すことができます。
貴女にこの子の核を差し上げることはできませんが、代わりのものを差し上げるつもりです」
「わかったわ…」
広い場所で恵理と青いウサギが対峙する。
青いウサギが先に仕掛けてきた。
スノーラビットやシティラビットよりも素早い動きだが、恵理はウサギからの攻撃をすべてノーダメージで受け止めた。
「普通のウサギとは違うのだよ…とでも言いたかったのかもしれないけど、まだまだね…」
恵理はあるタイミングで、ウサギからの攻撃をそれまでと同じように受け止めると見せかけて急に動きを変え、ウサギに緑の魔力を籠めた蹴りを食らわせた。
青いウサギの、恵理に蹴られたところから緑色が広がっていく。
「これがTGVよ…そして、この子があまり苦しまないうちに、楽にしてあげるわ…」
誰に向かってでもない、妖しい独り言を呟いた恵理は赤いロッドに魔法をかけて大槌にすると、
「DRC!」
かっこいい必殺技名を叫びながら、青いウサギに思いっきり大槌を叩きつけた。
恵理が大槌を消して元のロッドに戻すと、青いウサギがいたところには核だけが残されていた。
恵理は核を拾うと、呆然としているウサ耳の女性に渡した。
「かっこいい…ますます…貴女に惚れました…はっ…そういえば、まだお名前を伺っていませんでした…」
「私は恵理…中畑恵理です」
「エリ様…ですね…私はアサカと申します…。
エリ様…約束のものです…どうぞお受け取り下さい…」
青いウサギの代わりにウサ耳の女性…アサカが恵理に渡したものは、片面に大きな五芒星が陽刻された金貨だった。
五芒星の部分は青く着色されている。
「エリ様がこれを持っている限りは、私やこの一帯にいるウサギたちがエリ様に危害を加えることはありません。
ただ、これからエリ様以外の人間も襲わないようにウサギたちを指導するには、少なくない日数を要します…。
ですが、大好きなエリ様のために必ずやり遂げます…こんな私を信じてくださいますか?」
「私も無益な争いが減ることは嬉しいから、アサカのことを信用するわ。
でも、アサカが指導する前にウサギたちが人間を襲った場合、人間側も応戦して仕留めるかもしれない」
「それは、残念ですけどここの掟ですから仕方がないことですが、私が少しでも早く指導を終えるようにします。
あと、エリ様に2つお願いがあるのですが…」
恵理がアサカからの1つ目のお願いを承諾すると、
「2つ目は、そろそろお別れの時だと思いますが、別れる前にもう1度…キスしたいです…いいでしょうか」
「いいけど…今度は、私からしたい…」
アサカが頷くと、恵理はアサカと唇を重ねた。
2度目のキスを終えて、四稜町方面へ引き返していく恵理を、アサカは陶然とした表情で見送った。
アサカの言う通り、恵理は帰りに1度もウサギに襲われず、四稜町に到着した。
プロローグから通算10話目にしてようやくの初キスシーンが、まさかの脇役同士でした。
しかもメインキャラは冒頭にちょっとセリフがあるだけという扱い…。
こちらの作品は結末以外確定していない要素が多いので、遅筆が続いてしまうかもしれませんが、気長に次回投稿をお待ちください。
なお、こちらの作品における恵理と『無のエリス』のエリスは無関係です。




