第7話:放任主義・楽観主義
由菜は、壁に掛けてある時計を見た。もう9時を回っていた。
「辰弥。今日はここまでにしよ。」
「あっ。もう9時過ぎてんだ。」
そう言いながら問題集を片す。それから由菜の方へ身体を向け、優しく微笑んだ。
「由菜。今朝の事考えてくれた・・・?」
首を傾げて由菜に問いかける姿はとても可愛い。
「何で私なの?辰弥モテるんでしょ?他にデートしてくれる女の子なら沢山いるでしょ。」
辰弥の視線を逃れるように、明日の用意をしながら答える。
「他の人にいくらモテても、他の子とデートしても何の意味も無いんだ。俺は由菜にだけモテたい。由菜しか可愛いと思えないし。」
その言葉に、由菜は顔が熱くなるのが分かった。
「私、辰弥より年上だし・・・、それに従兄弟じゃない。」
「俺には、年上とか年下とか関係ない。例えば、由菜が10歳以上年上だったとしても好きになってた。それから従兄弟同士でも恋愛は出来るでしょ。法律上結婚も認められているんだし。」
「け・・・結婚!?」
由菜はその言葉に驚き素っ頓狂な声で叫んだ。『結婚』という言葉は、まだ高校生の由菜にとっては馴染みの無い物だった。ましてや、由菜にとっては『恋愛』という言葉ですら、縁遠いというのに・・・。
「そうだよ。俺達しようと思えば、結婚だって出来るんだ。まあ結婚はまだ早いから良いとして、とにかく俺達が、恋愛することは何の問題も無いって事。」
辰弥が、自信満々に言うので、
「でも親は反対するんじゃないかな?」
なんとか自分のペースに持っていこうと必死でそう言った。
「大丈夫。俺達の親皆俺が由菜を好きなこと知ってるから。しかも応援してくれるんだぜ。」
その言葉に驚き、
「うちの親も!?」
そう叫び、目の前が真っ暗になるような気分に陥った。由菜のイメージでは、従兄弟同士の恋愛ってタブーを犯しているような感じがしていた。一応多少血が繋がっているわけだし、大きな目で見れば家族だし・・・。しかし、揃いも揃ってうちの家族はそれを応援していると言う。何かの間違いではないか・・・。そうは思うものの、うちの親ならば、あまりその辺は深く考えずに、応援するであろう事も何と無く分かっていた。
「法律上、問題ないんだから良いんじゃないの〜。あんた達結婚したら、親戚付き合い楽で本当に良いわ。あんた達結婚しなさいな。」
とうちの母は言うだろうし、
「辰弥君なら、大歓迎だな。どこの馬の骨とも分からん奴より全然良いじゃないか。」
とうちの父は言うのだろう。ちなみに、父は辰弥を大いに気に入っている・・・らしい。
この時ほど両親の放任主義、楽観主義を恨めしく思った事は後にも先にもない。




