第6話:恋愛相談
やっと、由菜が降りる駅に電車は滑り込んだ。止まった途端に大きく左右に揺れ、辰弥の胸に身体ごと倒れる。
「ごめん。」
辰弥のさりげなく由菜の体を受け止める仕種も優しい。
その駅は、大きいので、沢山の人が降りる。
「じゃあね。」
と言って降りる波に呑まれていく由菜。
「さっきのまじだから、考えといて。」
由菜はその言葉を聞き、振り返ろうとしたが、後ろからぞろぞろと降りて来ていた為、辰弥の表情を窺い知る事は出来なかった。
改札を出、混雑からやっと解放された由菜は、ぐったりと通学路を歩いていた。
「由菜〜、おっはっよ〜。」
加絵の元気の良い声が聞こえた。その声を聞いただけで、ぐったりしていた由菜は、再び元気を取り戻していく。見ると、加絵は、かなり遠くから手を頭の上で、ぶんぶん振りながら走ってくる。その姿を見て私の先程までどうにも止める事が出来なかった激しい鼓動が、徐々に穏やかになっていく。
由菜も、大きく手を振りながら、その笑顔に答えた。
「加絵、おはよ〜。声おっきいよぉ。もう・・・。」
加絵がやっと由菜に追い着いたのでそう言った。
「え〜、おっきかったかな?でも、由菜も電車で大声出してたでしょ?」
「うっそ。見てたの?恥ずかしいな。」
あんなに混んでいた車内である。他にも同じ学校の誰かに見られたに違いない。
「いやいや、見えなかったけど、由菜の声だってすぐ分かるよ。一緒にいたのってもしかして噂の従兄弟君?」
加絵が好奇心剥き出しで聞いてきた。
「そう。あの満員電車の中で、『今度デートしよ。』とか耳元で言うから、焦って超大きい声出しちゃったよ。本当にあの声心臓に悪い。」
ふと隣の加絵を見ると、嬉しそうな顔をしていた。
「何で笑ってるの?」
「だって、由菜可愛いんだもん。良いじゃん。デート行っといで。」
ニコニコ顔を由菜に向けながら嬉しそうに言った。
とにかく加絵は嬉しかったのだ。今まで由菜から恋愛相談だけは、受けた事が無かった。由菜達の日常会話には、恋の『こ』の字も、好きの『す』の字も出てこなかった。
由菜はまだ気づいていない。由菜がその従兄弟を好きだという事を・・・。しかし、加絵には一目瞭然だった。最近の由菜は、従兄弟君の話をしては、顔を赤くしたり、膨れたりと表情がころころ変わる。本当に可愛いのだ。
加絵はこの恋に奥手な親友の恋を全力で応援しようと心に誓った。




