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1cmの距離  作者: 海堂莉子
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第57話:手編みのマフラー

由菜は、辰弥と二人で、冬休みに入り次第鹿児島の辰弥のお祖母さんの所へと行く事になった。

お正月に由菜が家にいない事を両親は少し寂しく思っていたようだが、辰弥のお祖母さんの容体の事もあり、許されたのである。辰弥のお祖母さんの容体は、誰も何も言わないが、かなり危険な状態の様だと由菜は思った。辰弥は勿論、両親もお祖母さんの病気が何なのか知っているようだが、由菜だけが知らなかった。


12月に入り、街はクリスマスムードがさらに色濃くなり、気持ちなしか恋人たちの姿が目立つようになって来ていた。

鹿児島行きが決まり、お祖母さんの容体も良くないことから、辰弥とラブラブというわけにはいかなくなっていた。そうでなくても、ラブラブするかどうかは未定だったわけだが。

12月22日に終業式があり、23日の天皇誕生日の日にこちらを出発しようと考えているので、イブもクリスマスも鹿児島で過ごす事になっている。

デートが出来なかったとしても何かプレゼントだけでもあげたいなと由菜は考えていた。


「ねぇ、加絵。隼人にプレゼント何あげるの?」


授業と授業の間の休み時間、次の授業は体育なので、着替えながら、加絵に聞いた。体操服に着替える際、女子は私たちのクラスで、男子は隣のクラスで着替える事になっている。


「手編みのマフラー。手編みって重いかなって思ったんだけど、一度でいいからあげてみたかったんだよね。由菜は辰弥君と鹿児島行くんだよね?ラブラブデートってわけにはいかないわよね」


加絵は体操服を頭にすぽっとかぶりながらそう言った。


「うん、でもお祖母さんには、一度会ってみたいなって思ってたから。辰弥には、デートは無理でも、プレゼントだけでも何かあげれたらなって思ってるんだ。手編みかぁ、私が編んでたら絶対ばれるよね」


着替えが終わり、体育館へと向かう廊下でも、その話は続けられた。


「あぁ、ばれるだろうね。一緒に住んでるんだもんね」


「私も手編みとかあげてみたいなぁ」


そう言いながら、辰弥がそれを受け取ってくれた時の事を想像してみた。辰弥なら、きっと喜んで受け取ってくれるだろう。


「じゃあ、一緒にやってみる?」


「え?どうやって?」


そんなの絶対無理だろうと諦めていた由菜は驚いて聞いた。


「由菜は、ばれないように学校で編むの。授業中にこっそりと。先生達ももう、三年生にはあんまり煩く言わないし、まだ受験が終わっていない人なんて平気で自分の勉強してるでしょ?だから、相当目立った事してなければ大丈夫だと思うんだよね。休憩時間は、辰弥君遊びに来るから、すぐに隠しておかなきゃ駄目だよ」


「そっかぁ。出来ない事もないか。やってみようかな」


そうしよと、加絵は嬉しそうにそう言った。

由菜は、辰弥に何を編もうか悩んだが、結局加絵と同じマフラーを作る事にした。本当は帽子を編みたかったが、机の下で編むには、場所を取り過ぎる(棒を3本、三角形を作るようにしないといけない)為、断念した。


その日の放課後、辰弥には先に帰って貰い、加絵と二人で毛糸を買いにショッピングへ出かけた。

滅多に立ち寄る事のない毛糸の専門店に行くと、当り前ではあるが、沢山の毛糸が並べられていた。季節がら、毛糸を求めてくるお客が案外多い事に驚いた。小学生くらいの女の子からお婆さんまで、自分の好きな毛糸を選んでいる。正直、編み物などした事のない由菜にとって、こんなに編み物をする人がいたなんて思ってもみなかったのだ。


「手編みは重いとかって、言われるけど、何だかんだでみんな結構やってるんだね?」


由菜が、お店の様子を見ながら、加絵に向かってつぶやいた。


「本当、私もこの間来た時そう思ったよ。雑誌とかで男が手編みは重いって意見が多いとか載ってたりするけど、関係にもよるよね。全く知らない人から、手編みのプレゼントされてもなんか髪の毛でも一緒に編み込んであるんじゃないかって不安になるかもしれないけど、自分の彼女から貰ったらそれなりに嬉しいんじゃないのかな」


「うん、確かにね」


入口から順に見て行くのだが、何しろあまりに種類が多いので、目移りしてしまいそうだ。毛糸の質、手触り、色、太さなど選ばなければならない項目が多すぎて目が回りそうだ。


「加絵は、どんな感じのにしたの?」


「こんな感じのやつかな」


そう言って加絵が持ち上げたのは濃い紺色に所々白色が混ざったような色の毛糸だった。なるほど、隼人に似合いそうである。


「いいねその色。辰弥って何かなんでも似合っちゃうからどれがいいのか分らないよ」


「あぁ、いい男はなんでも似合ってしまうからね。こんな緑っぽいのもいいんじゃない?それとも、思い切って赤にする?」


「いや、何か赤でも似合ってしまいそうで怖いよね」


二人は顔を見合せて笑った。辰弥は、本当にどんな色でも、どんな服でも着こなしてしまうので、正直こんな時困るのだ。一通りぐるりと回り、悩んだ結果先ほど、加絵が言っていた緑っぽい毛糸に決定した。全体的に深緑といった感じで、全てが緑というわけではなく少し白とか赤とかの他の色も混じっているのである。

毛糸は持って帰ると辰弥に見つかってしまうので、加絵に預かってもらう事にした。


次の日から、由菜は授業中にこっそり編み物に勤しんだ。たまに、隼人にその事で、からかわれたりしたが、軽くあしらった。休憩時間になると、辰弥が来る前に急いで隠すのである。


手編みのマフラーって恋人にあげた事無いですけど、一度くらいはあげてみたかったなって思います。でも、マフラーよりニット帽が良いですね、個人的には。

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