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1cmの距離  作者: 海堂莉子
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第49話:文化祭 2

由菜は当番の交代の時間が来て、はてどうしようかと思案していた。一番仲良しの加絵は隼人と回るから邪魔はできないし、加絵以外で親しい友達は午後の当番や彼氏がいたりで一緒に回る人がいない。


「由菜、一緒に回るよ」


加絵が困っている由菜を気遣ってかそう言ってきた。


「いいよいいよ、せっかくの最後の文化祭だもん邪魔したくないよ」


笑顔でそう答えた由菜に、隼人のゲンコツが頭に落ちた。


「くだらねぇ事言ってねぇでさっさと行くぞ」


そうだね、と加絵が言い右腕で由菜の腕を、左で隼人の腕を掴み、レッツゴーと、威勢の良い声を出した。いいの?と、二人の顔を交互に見ると、二人同時に大きく頷いた。加絵は大きな笑顔とともに、隼人は少しだけ口の端を持ち上げて。加絵は由菜の耳元で、


「あとで二人の時間なんてたっっっぷり作れるんだから、良いの。後夜祭もあるしね。それに、由菜とも最後の文化祭回りたいじゃん」


そう言うと、加絵は掴んでいた腕をより一層強めて、笑った。

とにかく三人は腹の虫を黙らせるため、中庭にたくさん出ている出店を見て回る事にした。中庭には、焼そば、たこ焼き、焼き鳥、おにぎり、カレーなどの主食的なものから、ジュース、クッキー、ケーキなどのサイドメニュー的な物まである。由菜は、たこ焼きを食べる事にし、加絵はおにぎり、隼人はカレーをチョイスしていた。

中庭には特設ステージが設けられており、今の時間は軽音部が演奏をしている。女の子がボーカルのそのグループは、激しいロックを熱唱している。ロックにあまり詳しくない由菜には何の歌を歌っているのか皆目見当もつかない。邦楽か、洋楽かその区別すらつかない。歌詞がはっきりしないので、日本語なのか英語なのかが分らないのだ。ステージ前では、熱狂的に盛り上がり、リズムに合わせて飛び上がっている集団がいる。主に女の子で構成されているその集団より遥か後ろの方に場所を確保し、演奏を見ながら食べる事にする。


「由菜、どこか行きたい所ある?」


おにぎりを粗食しながら加絵が由菜に尋ねる。


「そうだなぁ、お化け屋敷とか占いとか。占いって当たるのかな?」


「どうだろうね、所詮素人がやっている事だからね、あんまり期待しない方が無難なんじゃないかな」


だよねと、由菜はたこ焼きをパクリと口に放り込んで、気の抜けた声を出していた。


「辰弥君の所には行かなくていいの?」


「行くよ。なんとなく具合悪そうだったのが気になるしね」


加絵は、横目でちらりと由菜を見て、おにぎりにかぶり付く、そしてまた由菜をちらりと見た。


「最近さ、ジュディの態度かなりエスカレートしてない?由菜への態度が一段と酷くなった気がするんだけど、何かあったの?」


ジュディに友達になろうなんていう突飛な提案をしたなんて言ったら、加絵にどんな説教を食らうか考えただけでも、ゾッとする。ここは、しらばっくれるにこしたことはないと考え、さぁ、知らないと、答えた。

加絵は、薄〜い目をして、由菜の表情を舐めるように見ている。何でだろうねと、わざとらしくアハハと笑ってごまかした。加絵の目が鋭く変化している、怖いと由菜は思ったが極力平気なふりをして、たこ焼きを食べ続けた。


「それぐらいにしとけよ」


と、隼人が言ったので加絵も渋々ではあるが、諦めた。お〜、彼氏の言葉には素直に従うのね加絵、とにかく隼人に感謝ですと拝みたい気持ちになっていた。



腹の虫が治まったところで、三人は行動を開始する。

先ず始めに、由菜が行きたいと言ったお化け屋敷へと向かう事にした。お化け屋敷は2年A組の出し物で、教室は2階にある。階段を上り、2年A組の教室を見ると、遠目からでもはっきりと分るほどに混雑をしている。よほど面白いのか、はたまたよほど怖いのか。その光景を見て、ワクワクする気持ちと、この列を並ぶのは御免だという萎えた気持ちが一度に沸き起こってくる。三人は顔を見合せ、どうする?と、アイコンタクトで会話をする。三人が三人ともその目を見て、同じ意見だという事に気付く。ようは、ほかを回って混雑時を避け、空いてる時間を狙おうという事だ。三人が、見合せて同時に頷き合うと、踵を返し再度階段を下りる。


我々の計画では、そのあとに、1年生のどこぞのクラスがやっているフリーマーケットに行く事になっている。1年生の教室は1階にある。

その教室に早速足を踏み入れると、机が真ん中の開いた四角形に並べられ机の上には、手作りのアクセサリーからCD,本といった物までが並んでいる。真ん中には生徒が数名おり、会計をしたり、話したりしている。三人はゆっくりと物色していく。加絵と隼人がアクセサリーのエリアで立ち止まっているので、邪魔にならない様にそっとその場を離れた。

由菜は本が置いてある所に行き、一冊ずつ手に取って見ていった。文庫本が少しと、あとは殆どが漫画本でありハードカバーの本は一つもなかった。少し前に人気があり、ドラマにもなった漫画があった。

由菜はドラマは見ていたのだが、原作の漫画の方は読んだ事がなかった。買って読んでみようかなと本を持ち上げる。後ろに手作りと思われる値段のシールが張り付けてあり、その本は100円という事だった。

状態にもよるだろうが、古本屋で買うよりも安いのではないだろうか。その漫画は続きもので、確か20巻位まで出ていたように思う。ここにあったのは、1,2巻だけだ。あまりたくさん買っても帰りの荷物がかさ張り、重くなってしまうので2冊くらいがちょうど良いだろう。その2冊を確保し、その他の商品を見ていく。加絵と隼人はまだ、アクセサリーを見ていて二人で何やら楽しそうに話している。

正直羨ましいという気持ちがないわけではないが、それよりもやはり嬉しいという気持ちの方が大きいようだ。


手作りの縫いぐるみを見つけて由菜の足が止まった。由菜は特に縫いぐるみマニアというわけじゃないし、なにかのキャラクターを集めているわけでもない。全く持っていないわけでもない。たまに、どうしても惹きつけられる縫いぐるみを見ると衝動買いをしてしまう事がある。

由菜が見つけたその縫いぐるみは、毛糸で編んで作った物(こういうのを編みぐるみというらしい)である。クマ、ウサギ、イヌ、ネコ、パンダの5種類があり、どれもとっても可愛いのだが、由菜がとびきり可愛いと思ったのはネコの編みぐるみだ。うちの飼い猫であるみゅうにそっくりの白猫の編みぐるみ。


最近、みゅうを家で見かける事は殆どない。家出してしまったのかと思うのだが、台所に置いてある餌は毎日空になっている。餌だけはしっかりと食べに帰っているようなのだ。どこかにボーイフレンドでもいるのか、それとも他の家に居座っているのか分からないが、とにかく餌がなくなっているという事は無事な証拠である。由菜はみゅうが顔を見せてくれない事を寂しく思っていた。ふと、気付けば、みゅうが姿を消したのは、ジュディがうちに来た時からである。もしかするとみゅうは見知らぬジュディが怖くって逃げ出したのかもしれない、ジュディに見つからない様にこっそりと餌を食べに来ていたのだろう。

由菜はそのみゅう似の編みぐるみをどうしても欲しくなり、それも買う事にした。みゅうがこれを見たらびっくりしてしまうかもしれない、爪を立てない事を願いたい。


それから、ペンダントみたいに首にかけられる紐がついている熊のシャボン玉。蓋を開けると蓋の内側に棒が付いており、その先っぽには丸い小さな輪が付いている。その輪にシャボン液をつけ、ふぅ〜と息を吹きかけると、小さなシャボン玉が出てくるという代物だ。あとで加絵と遊ぼうと思いそれも購入。

それらの商品を会計をしている男の子に渡し、お金を払い、袋に入れられた商品を受け取る。


「太田先輩ですよねぇ〜?最近彼氏が堂々と浮気してて大変ですねぇ。それとも別れたんっすか?なんなら俺が代わりになってあげてもいいっすよぉ〜」


由菜の頭の中にその不快な言葉の衝撃と共に、下卑た笑い声が聞こえてきた。


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