第4話:恋の始まり
久しぶりの学校。今日からまた新学期が始まる。夏休み中の辰弥の好き好き攻撃からもこれで少しは開放される事になる。
暦の上では、秋の筈だが、今日も朝から太陽が光を照り付けている。校門を通る時にはもうすでに汗ばんできて気持ち悪いくらいだ。
前の方に歩いているのは、親友の水谷加絵だ。加絵は小柄でとても可愛らしい女の子だ。加絵の子供の頃の写真を以前見せて貰ったが、そのまま成長しましたという感じだ。下手すると小中学生に見間違われることもある。しかし、恋愛の事に関して言えば由菜よりも上手だ。今は、生憎彼氏はいないようだが、作ろうと思えばすぐにでも出来るだろう。本人が今は彼氏はいらないと言っているのでいないだけだ。
一方の由菜は、恋愛経験ゼロである。実は、由菜は恋をするとどうなるのかいまいち良く分からない。好きってどういう感じなのか・・・。
「加絵〜。お〜は〜よ〜。」
「あ。由菜、おはよう。元気だった?」
夏休み中、加絵とはなかなか会うことが出来なかった。加絵は田舎の祖父母の家へ1ヶ月中ずっとお世話になっていたのだ。あまりにも田舎の為、携帯の電波も届かないので、メールすら送ることが出来なかったのだ。
「元気だったけど・・・。色々あったよ。加絵がいなくて寂しかったし。」
加絵に久しぶりにあえた由菜は、嬉しくて少し涙が出そうになった。
「もう、由菜は泣き虫だな。よしよし、お昼休みにじっくり話し聞いてあげるからね。」
と、私の頭をなでながら言った。
「なに、お前らそんな所でイチャこいてんだ?」
二人同時に振り向くと、そこには同じクラスの桜井隼人が立っていた。
「あ・・。おはよう。」
由菜と加絵は声をそろえて言った。
「おはよう。」
それだけ言うと、隼人はさっさと校舎へ歩いて行った。いつもの事だが、隼人は愛想がない。成績はいつもトップで、真面目で笑顔を見たことがない。
「なんだあれ?感じ悪っ・・・。」
加絵がそういうのを何とか宥めて、校舎へと入っていった。
昼休みになり、由菜は加絵と中庭の木の下で、お弁当を食べることにした。
ここは、夏でも日陰があるので、そんなに暑くなく、風通しが良いので、二人のお気に入りの場所になっていた。
「昔は本当に可愛かったんだけど、今はとにかくこっちが振り回されっぱなし。」
由菜はふぅ〜と溜息をついた。
「でもその子格好良いんでしょう?良くない?同じ家にイケメンが住んでるのって。私が変わってあげたい位だよ。」
「なんかびっくりするんだよね。声変わりして、全然今までと違うし。男っぽさと少年っぽさを兼ね備えているというか。どう対応して良いのか私にはさっぱり分からないよ。会うたび好き好き言うし。」
「かなり振り回されてるんだね。でも、たまにはそういうのも良いんじゃない?由菜が男の事で困った顔してるの滅多に見れないしね。今の由菜は、表情がころころ変わって可愛いよ。」
加絵はくすくす笑いながら、由菜を見ていた。
由菜は全く気づいていない。それが恋の始まりだという事に・・・。




