第34話:アメリカ二人旅 3
朝日の眩しい異国の地で、我々は車を降りた。
結衣の住むアパートは、3階建ての3階。間取りは2LDKと結構広い。築浅なのか、中はとても綺麗だ。結衣は元来綺麗好きなので、部屋の中も整理整頓が行き届いている。この部屋のどちらかが、今後由菜の部屋になるわけである。
ベランダからは、見晴らしが良く、海も見る事が出来る。本当にここは楽園というのに適している場所だと思う。海外では、靴を履いたまま家に入るのが一般的だが、結衣は靴を脱いで入るように即した。
疲れた由菜と辰弥は、午前中は少し休み、午後から行動を開始する事とする。結衣は急な仕事が入ったとの事で、出掛けてしまった。ちょうど今夏休みシーズンなので、観光客が多くガイドの仕事が急遽入る事が多いそうなのだ。
由菜は少し寝不足だったので、ほんの少しだけ仮眠を取る事にした。辰弥は飛行機の中で大分寝ていたようで、案外すっきりした顔をしている。玄関入って左右に一つずつ部屋があり、真ん中にリビングがある。左側の部屋に由菜と結衣姉妹が寝る事になり、右側に辰弥が寝る事となる。
由菜が目覚め、リビングに行くと、辰弥はテレビを見ながら、ガイドブックを見ていた。由菜に気付いた辰弥は、
「由菜おはよう。よく寝れた?」
うん。と、由菜は言った。
「午後から何処行こうか?」
辰弥がガイドブック片手に、尋ねてきた。由菜は、キッチンの冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターをコップに注ぎ、一気に飲み干した。辰弥も飲む?と、聞いたが辰弥はいらないと答えた。
「辰弥は何処か行きたい所あった?」
リビングに戻って、辰弥の横に座るとそう聞いた。
「ここ行ってみない?ロサンゼルス群立美術館。美術館とか由菜好き?」
「うん、行く機会があんまりないけど、結構好きかもしれない。良いよ。そこ行こっか。」
二人は、早速ロサンゼルス群立美術館へと向かう。
ロサンゼルス群立美術館は、ロサンゼルスのダウンタウンから車で約20分の所に位置する。アメリカ美術、ヨーロッパ美術、コンテンポラリー美術、イスラム美術、韓国美術、日本美術など10万点以上の美術品を展示している西海岸最大規模の美術館である。
絵画、彫刻、家具、装飾品など多彩な展示品を取り扱っている。6つの建物があり、日本館では、縄文時代から江戸時代までの作品が展示されている。
二人は、バスに乗り、ロサンゼルス群立美術館へと向かう事にした。
ロサンゼルスのダウンタウンからサンタモニカを結ぶウィルシャー大通りをひた走り、目的地へと徐々に近づいていく。
バスを降りて、いざ美術館へ。と、そこで取り敢えず腹ごしらえをする事にする。コーヒーショップに向かい、サンドウィッチを買い、屋外のテーブルで頂く事にする。紫外線が気になるが、こんなに良い天気なのだから、日向ぼっこをしながらの食事も良いだろう。
食事を終えた二人は、アメリカ美術から順繰りと鑑賞して行く。そこまで、芸術に詳しい方じゃない二人でも、知っている作品は沢山存在した。全く知らない画家の作品でも、時として何か惹かれる物がある。一つ一つの作品と心を触れながら、丁寧に見て行く。
静かな館内で、一つの作品を見るごとに辰弥と二言三言小さな声で会話をする。それは、時に同意見であったり、時に反対意見であったり、二人の意見が合うと嬉しいし、違えばまたそこから生まれる議論もまた楽しいひと時だった。由菜は、特に風景画を好み、辰弥は、人物画を好んでいた。芸術とはなかなか難しいもので、時にはこれの何処が良いの?と、言いたくなる様な作品もたまには存在する。
動物園の時もそうだが、辰弥とどこかに出掛けるというのは、とても楽しい事なのだ。例えばデートとなると、緊張して話しさえ出来ないんじゃないかと想像するが、辰弥との場合、由菜が硬くならないような心配りがひしひしと感じられ、話も楽しく、そして、由菜の話もきちんと聞いてくれ、ほっとする空間を作ってくれるのだ。もちろん、時々ドキッとする事をしたり、言ったりするのだがそれも今ではなくてはならないもののような気がする。
ヨーロッパ美術など色々な建物の中を見て回って日本館に足を踏み入れる事とした。
日本館には、縄文土器や、埴輪、勾玉などといった大昔のものから近代的なものまでいろいろなものが展示されていた。日本の書道的なものもあるようだ。由菜が日本館を訪れた時の感想は、博物館みたいだなというものだった。それ位、色んなものが展示されていたという事なのだが。
「ねぇ、由菜。埴輪ってさ、由菜が寝てる時の顔にそっくりだね。」
「絶対そんな事ない。私、こんなに口大きく開けて寝てないもん。絶対違う。」
全否定して、辰弥を睨みつける。全否定してはいるものの、実際自分の寝顔を見る事も出来ないので、一抹の不安がよぎる。本当にあんな大きな口を開けて寝ていたらどうしよう・・・。もしかしたら、鼾をかいていたかもしれない。それに、寝言言ってたらどうしよう。
「あの時の由菜は、可愛かったな。『辰弥好き』って寝言で言ってたよ。」
「うそうそうそうそ、絶対に嘘。絶対にない。嘘つかないで。」
由菜は内心焦っていた。何となくあの時、辰弥の夢を見ていたような気がするからだ。躊躇いがちに、辰弥を見ると、ニタニタと笑っている。この笑顔を見せるときは、辰弥が由菜をからかっている時。
「騙したのね?そうなんでしょう?騙したのね!!!」
もう、知らない。と、由菜は辰弥の隣から急いで離れた。慌てた様子の辰弥が後ろをついて来る。
「由菜・・・。怒ったの?お〜い、由菜。ゆ〜な〜ちゃん。」
由菜は、そんな辰弥を完全無視して、展示品に夢中なふりをする。いよいよ、焦った辰弥は、
「ごめん。由菜、本当は言ってないし、埴輪みたいな口も開いてなかったよ。むしろ天使みたいだった。あまりに可愛いから、周りに他の人がいるのにキスしたくなっちゃった・・・・・・ごめん」
辰弥が「キス」の件を、言った時に由菜が鋭い視線を投げたので、急いで謝って来た。でも、本当に可愛かったんだ。と、すこし拗ねてる様な顔を見せる辰弥に怒りも何も消えてしまった由菜は、
「そんな顔ズルイ、許してあげたくなっちゃうでしょ?」
「許してくれるの?」
途端に辰弥の表情が明るくなる。
「仕方ないな。何かスウィーツで手を打ってあげましょうか。」
うん。いいよ。もちろん。と、辰弥がとびきり大きな笑顔を見せる。
「そうそう、辰弥も飛行機で、凄い鼾かいてたよ。」
したり顔の由菜に、嘘でしょ?と、聞くが少し不安そうな辰弥。
「それはもう、がーごーがーごー凄かったんだから・・・。周りから苦情が来るぐらい。」
焦る辰弥が、可愛そうになってきたので、この辺で勘弁してやる事にする。
「嘘だよ。これでおあいこね。」
と、由菜が言うと、
「由菜ちゃんのばか、酷いわ。あたし悲しい。」
おかまちゃんみたいな変な声を出すので、笑ってしまった。勿論、周りの迷惑にならないような小さな声で。
たっぷりと4時間くらいかけて、全部の展示品を見て満足した二人は帰路へつく。
帰りのバスの中、明日の相談をする二人、明日はディズニーランド・パークへと繰り出す。
こんにちは。いつも有難うございます。
作者の本音としましては、旅終われ〜という感じなのですが、まだまだ続きそうです。だって、まだ1日目なんですから・・・。頑張ります。
では、See You Next Week!




