第33話:アメリカ二人旅 2
あまり美味しいとは言えない機内食を食べ終えた由菜は、隣にいる辰弥は、機内食が来たのさえ気付かずに寝ている。由菜と辰弥は、窓側の二つ並んだ席に座っている。窓側の席に由菜、通路側に辰弥が座っている。辰弥は、飛行機が離陸して、1時間も経たないうちに眠りこけてしまった。飛行時間は約9時間半。日本との時差は、サマータイムだと16時間。計算すると現地時間で、大体朝の9時くらいにロスへと着く事になる。辰弥は、朝から色んな所を回りたいからと、睡眠補給をたっぷりとる予定なのだそうだ。とは言っても、由菜は、すぐに眠りに着けなかった。もちろん座席が狭くて寝心地が悪いのもその理由の一つではあるのだが、どうやら一番の理由は、興奮して、全く寝付けないという事らしい。
由菜は、隣の辰弥を覗き込む。周りの目を気にして、見れなかったのだが、今は皆機内食を食べ終わり、寝に入る者、ヘッドフォンを使って前の画面でやっている映画を見る者、小さな声で喋っている者と、由菜を見る者は一人もいないと確信した。始めて見る辰弥の寝顔。由菜は、以前動物園に行った時に寝顔を見られてしまっていたのだが、辰弥の寝顔を見る機会というのは、未だかつてなかったのである。睫毛が長くて駱駝みたいだと思い、くすっと笑ってしまう。
口が半開きで、それがかえって可愛く感じられる。子供みたいだ。エコノミー席の為、座席と座席の間が狭く、辰弥の長い足が、収まりきらなくて、きつそうだ。良くこんな苦しい体勢で眠れるものだと感心してしまった。
由菜は、退屈しのぎにヘッドフォンを着けて、映画を見ていたのだが、なんだか先ほどからトイレに行きたくなって来た。
通路側の辰弥は、すやすやと寝ている。トイレに行くには、辰弥の足を跨いで行かないとならない。こんなにぐっすり寝ている辰弥を起こすわけにはいかないしと悩んでいたが、もうこれ以上我慢出来ないと辰弥を起こさぬようにそうっと跨いで、トイレへと駆け込む。すっきりとした気分で、トイレから出、また起こさないように辰弥の足を跨ごうとしたのだが、由菜の足が辰弥の足に当たってしまい躓いてしまった。何とか片足だけは向こう側にあり、辰弥の足の上に跨っている状態。ふぅ〜と息をつき、辰弥が起きていないか確認すると、う〜んと言って、目を少し開けてしまった。
「ごめん、辰弥起こしちゃった?トイレ行って来たんだけど、辰弥の足に躓いちゃって・・・。」
急いで、自分の席へと移動としようとすると、
「由菜〜」
と、辰弥が抱き付いてきた。あまりの突然の事に目を丸めている由菜を他所に辰弥は、由菜を抱き抱えたまま再度眠りの世界へ行ってしまった。確実に寝ぼけている辰弥に、どうしようと由菜は、頭を悩ます。とにかく、この状態は、明らかに不味いでしょ。他にも乗客がいるわけだし(嫌、居なければ良いってもんでもないんだが)、いちゃいちゃしてるように見えてしまうのはちょっと恥ずかしい。それからこの体勢きついです。辰弥の顔の直ぐ横に、由菜の顔がある。毛穴まで、見えてしまう距離。辰弥は、寝ていて無自覚だから、照れは全くないだろうが、由菜は、眠くない脳が更に活発化してしまったようで、鼓動が止まらない。耳元で、辰弥の規則正しい寝息が聞こえて来る。なんとかこの腕から脱出しようと、色々試してみるが、抱き付いた辰弥の腕は、物凄く強く決して解けない。起こすという手もあるのだが、今起こすとこのまま離して貰えない確立が高い。
そのうち、由菜は疲れてしまい、辰弥の寝息を子守唄代わりに、眠りについてしまった。もちろん、辰弥の腕の中で・・・。
ふと、目を覚ますと、頭を撫でられてる感覚がある。
徐々に、覚醒し、今の状況を把握する。立ち上がろうとするが、やはり辰弥の手がしっかりと由菜を捉えている。なんとなく、今の現状は分かる。今、横を向けば、辰弥は起きているのだろう。
「辰弥?起きてるの?起きてるんだったら手放して。」
由菜は、顔を辰弥の方とは逆に向け、話しかけた。
「起きてるよ。この状況は、どういう事なのかな?俺全然覚えてないんだけど。」
辰弥が、こちらを見ているのが分かる。
「私がトイレから帰って来て、辰弥の足を跨ごうとしたら、辰弥の足に躓いちゃって。辰弥、一瞬起きたんだけど、私に抱きついてそのまま寝ちゃったの。」
話しているうち、恥ずかしさが舞い戻ってきて、顔から火が噴きそうだった。
「そうなんだ。俺、由菜の夢見てたからなぁ。寝ぼけてたんだ、俺。それで、由菜は、そのまま寝ちゃったんだ?」
「うん、何とか抜け出そうとしたんだけど、辰弥、放してくれなくて。ね、お願い・・・放して。」
そう言いながら、由菜は自分の腕を強く突っ張った。なのに、全然びくともしない。
「なんか知んないけど、ラッキーだな。この体勢。由菜、ねぇこっち向いて。」
ヤダ。と、呟くと、
「じゃあ、放さない。」
何よそれ。と、言ったが、本当に放してくれなかったらそれもまた嫌なので、仕方なく振り向いた。あぁ、やっぱり、凄く顔が近い・・・。と思った瞬間、おでこにキスされ、その後、辰弥の腕が緩み、由菜の両腕を掴み、体を少し離した。
「開放してあげる。でも、俺が由菜の心を捕まえたら、その時は、絶対離さないよ。」
いつもと違う声だった。辰弥がいつも好きって言う時は、少し明るい声を出す。でも今は違う、真剣な声。怖いほどに・・・。
到着ロビーを出ると、沢山の人が誰かの到着を待っていた。プラカードのようなものを上げている人も居る。その群集を見渡して、姉の結衣を探す。居た。真っ黒に焼けた顔にTシャツ、ハーフパンツという格好で、二人に手を振っている。
由菜にとっては、久しぶりの姉。辰弥にとっても、久しぶりの従兄弟なのだが、会ったのが、遠い昔で殆ど覚えていないようだ。大きくなると、部活や何かで色々忙しく、なかなか親戚の集まりに出るという機械も減る。辰弥と結衣が、最後に会ったのは、辰弥が幼稚園の年長さんの時だったようだ。
たどたどしく挨拶をする辰弥を見て、結衣は、楽しそうに眺めていた。
「君が、噂の辰弥君か。一度会ってみたかったんだよね。」
値踏みするかのように足の爪先から頭のてっ辺まで流し見た。
え?噂?と、辰弥が由菜の顔を見てきたが、由菜は急いで視線を泳がす。結衣は、くすっと笑い、
「由菜とお母さんから色々聞いてるんだよね。」
と言った。いつまでも立ち話もなんだからと、結衣の車が置いてある駐車場まで、移動する。空港を出た途端、朝日が眩しい位に輝いていた。まだ、朝なのに既に気温は高いようだ。しかし、日本のように湿度が高くじめじめしている感じがなく、からっとしているので、さほど暑いとは感じない。
前回ロスに来たのは、両親と、高校1年の時。あの時もやはりさほど暑さを感じなかった様に思う。
車に乗り込んだ一行は、一先ず結衣のアパートへと向かう。車は、異国の地を颯爽と走り抜けていく。
皆様、ご来場(?)頂き、有難うございます。
アメリカ二人旅続いています。正直、行った事のない場所の話を書くのは辛いです。早くアメリカ終わりたいです・・・。
それでは、また明日。




