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1cmの距離  作者: 海堂莉子
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第32話:アメリカ二人旅 1

由菜が、アメリカに行ってしまう・・・。

自分の感情を何とか押し殺して、正面に座る叔母さんの顔を窺い見た。叔母さんは、心配そうに辰弥の顔を見ていた。どうやら、ひどく思い詰めた顔でもしていたらしい。力づくで、表情筋を持ち上げ笑顔を作成する。


「アメリカのどこに?」


重い口をゆっくりと動かして言った。


「ロサンゼルスよ。飛行機で大体9時間半くらいかな。暖かくて良い所。一昨年位に家族で、お姉ちゃんの所に遊びに行った事があるの。」


飛行機で9時間半と聞いて、辰弥は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。そんなにも遠い場所に由菜は行ってしまうのか。


「俺が・・・、この事知ってるって由菜には、黙っていてくれませんか?由菜、いつも何かを言おうとしてるんです。多分この事だと思うんで。由菜の口から言ってくれるのを待ってたいんです。」


分かったわ。と、叔母さんは快く承諾してくれた。


「そうだ。来月、由菜、ロスに行く事になってるの。下見にね。辰弥君も一緒に行ってきたら良いわ。良い思い出になると思うわ。由菜とお父さんには私から言っとくから。ええ、それが良いわ。」


叔母さんは、自分の提案にさぞ満足そうに頷いている。由菜が住むであろう町、歩くであろう道、買い物するであろうスーパー、通うであろう大学。それらを見ておきたいと辰弥は思った。そうすれば、由菜が日本を発った後、容易に思い出す事が出来るようになるだろう。全てを目に焼き付けて来よう。



由菜は、明日の出発に備えて、スーツケースの中身を確認していた。明日から一週間、ロスの姉の所に遊びに行く事になっている。辰弥も一緒に行くことになった。そもそも、母が、『辰弥君も夏休み退屈だから、一緒にロスに連れて行きなさい。』と言い出したのは、7月の終わりの事だった。父も由菜も驚いたが、反対はしなかった。

アメリカのロサンゼルスの古いアパートに姉の結衣は住んでいる。姉は、高校卒業後直ぐに、留学し、初めは語学学校に通い、英語になれた頃に大学へと通い始めた。姉は今23歳。去年大学を無事に卒業し、今は現地の旅行会社に勤めている。主に日本人客相手の通訳兼ガイドだ。既に彼女は、アメリカで永住する事も考えているようだ。

今回の旅の目的は、由菜の留学の下見だ。辰弥には、留学する事をまだ話せずにいた。何度も話そうとするのだが、どうしてもうまい事言い出せないのだ。留学はしたい。それは間違いなくそう思っている。だが、辰弥と離れたくないとそう思っている自分がいた。自分が望んだ事なのに、苦しいのだ。

辰弥に留学の事を切り出そうとすると、涙が出そうになる。こんなに苦しいのなら止めてしまえば良いと思った事もあった。だが、留学は由菜の夢。諦めて、後悔だけはしたくない。必ず帰国したら、辰弥に話そうと硬く心に決めた。


翌日。由菜と辰弥は両親と共に家を出た。両親が成田空港まで、来るまで送り届けてくれる。二人が乗る飛行機は、16:30発、ノースウエスト航空NW2便。

成田空港に着くと、由菜は、両親をすぐさま帰した。たかだか遊びに行くくらいで、見送られるのは嫌だったのだ。まだ、本当に旅立つ時ではないのだから。

空港で二人は、第1ターミナルへと向かった。4階の出発ロビーにて、搭乗手続きを行う。航空券とパスポートを提示し、搭乗券を受け取り、スーツケースを預ける。次に、セキュリティチェックが待っている。手荷物をX線検査のコンベアへ乗せ、自らは金属探知機のゲートをくぐる。この瞬間が、由菜には、なんとも言いがたい緊張の瞬間なのである。何も不振物は持ち込んでないのだが、妙に緊張してしまうのだ。二人とも無事にセキュリティチェックを終えた。3階に移動して、出国審査カウンターへ並ぶ。夏休みという事もあり、どのカウンターも行列が出来ている。やはり、家族連れが一番多いようだ。

赤ちゃんまでいる。こんな小さな赤ん坊を連れていたら、母親は大変で、旅行をしっかり楽しめないのではないかと思ってしまう。飛行機の中でも、大泣きとかするのだろう。由菜は大丈夫だが、世の中には赤ん坊は泣くものだと理解できない輩が一杯いる。

よく電車などで、肩身の狭い思いをしている母親を見かける。そして、愛のない言葉を吐く人間も。

辰弥は、由菜の隣で、キョロキョロと周りを落ち着きなく見ている。


「辰弥、海外旅行初めてなの?」


キョロキョロしていた、頭を由菜の前で止め、辰弥は言った。


「小学生くらいまでは、たまに家族旅行とかしてたけど、全然覚えてないんだよね。今回は、由菜と二人旅だから昨夜は全然眠れなかったよ。嬉しくて。」


そして、眩しすぎるくらいに大きい笑顔を由菜に向ける。眩しくて、由菜は目を細める。ようやく順番が回ってきて、パスポートに出国印を押してもらう。

ここまできたら、あとは、搭乗するだけである。余裕を持ってきたので、まだまだ時間がある。お昼をまだ食べていなかったので、近くのカフェへ二人は入った。

由菜は、オムライスとオレンジジュースを、辰弥は、カレーライスとアイスコーヒーをそれぞれ頼んだ。カフェの中も、お昼時間をとうに過ぎているにも拘らず、人が入っていた。

正面にいる辰弥を見ると、始終笑顔である。今回の旅行がとても楽しみのようである。


「なんかさ、俺達って新婚旅行みたいじゃない?」


辰弥が突然そんな事を言い出すので、ちょうど飲んでいたオレンジジュースを噴出してしまった。

慌てて布きんでテーブルを拭き、辰弥を見ると、けらけらと笑っている。ドジだなぁ。と、いかにも面白いものを見ましたというように、楽しそうに目を細めて、由菜を覗き込んだ。一瞬目が合ったが、由菜は直ぐに目を逸らした。


「うるさい。辰弥が急に変な事言うからでしょ。」


変な事かな?と、辰弥は首を傾げている。変な事です。と、由菜は断固として言った。まぁ、いいや。と、呟く辰弥。


「それよりさ。由菜はどんな所に行きたい?」


どさりと、ガイドブックをテーブルの上に広げて、言った。


「ディズニーランドには絶対行きたいよね。」


「由菜は、ディズニーランド・パークと、ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パークどっちのが良い?どっちも行きたいけど、そんな時間あるかな?」


辰弥は、ガイドブックを見ながら、由菜に聞く。


「う〜ん、どっちかって言ったら、コースター系はあんまり得意じゃないから、ディズニーランド・パークの方が良いかな。」


そうだね。そうしよう。と、辰弥も合意した。


「辰弥、搭乗前にショップ見に行きたいんだけど。良い?お姉ちゃんにお土産買ってかなきゃ。」


二人は、レストランを出、お土産を求めて、歩き出した。

姉には、お菓子と、日本が恋しくなるような民芸品を買った。それから、自分に機内で読む雑誌を買った。辰弥も何かを買ったようだ。

搭乗時間の30分前になったので、搭乗ゲートまで向かう。これから飛行機の長時間フライトである。


そして、二人はゲートへと吸い込まれていった。


皆さんこんにちは。いつもご愛顧頂き有難うございます。

今回途中から、由菜目線に変わりました。それから、二人旅が始まりました。正直、ロス行った事ありません。なので、大変です。私の想像も大いに入っています。これ違うんじゃないかというのは、見逃して下さい。

それでは、また明日。

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