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1cmの距離  作者: 海堂莉子
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第26話:プレゼント

すっかり暗くなった道を、二人は肩を並べて歩いていた。

見上げると一番星がいち早く輝きを放っていた。


「ねえ、辰弥。辰弥は月と太陽どっちが好き?」


「月。月ってさ何か魅惑的というか、惹きつけられるよね。たまに赤い時があるじゃん。あの色の月がさらに好きかな。由菜は?」


辰弥は、月を見ながら答えた。その隣で、由菜も空を見上げていた。暗いと言っても、まだ少し明るめで、星もまだあまり見えない。しかし、その中で、月だけがはっきりと浮き上がるようにそこにあった。今日の月は赤くはなく、少しだけ欠けた月。


「私も月かな。綺麗だよね。でも、女の人はあんまり月を見ないほうが良いって聞いた事があるよ。多分テレビかなんかで。何でだったかな。」


「あ〜、俺もなんかそれ聞いた事ある。でも、何でだか忘れちゃったな。かぐや姫とか関係あるんじゃなかったかな?」


忘れちゃったねと由菜は辰弥を見上げながら言った。


「じゃあさ、空と雲だったらどっちが好き?」


「雲だな。雲ってさ、色んな形や色があるじゃん。ずっと同じ形には止まってないし、その時々で変化があって、見てて飽きないよね。」


辰弥は、その後も雲がどんなに好きかを熱く語った。辰弥は、積乱雲が好きらしい。立派な積乱雲を見るとその中にラピュタがあるんじゃないかと、期待してしまうそうだ。それを聞いて、少し笑った。流石にないと思う。

それから、山に登って雲海を見てみたいと言っていた。辰弥は、たっぷりと雲を語ってから、じゃあ由菜は?と、聞いた。


「私は、どっちかと言ったら空かな。夕方の空ってさ、グラデーションみたいになるでしょ?あれが綺麗で好き。綿菓子みたいな雲なら大好きだけど、雷がなりそうな雲は嫌いかな。」


そう言うと、辰弥はくっくっくと笑った。何よ?と、由菜が詰め寄ると。


「由菜。雷嫌いだもんね。あの時の由菜は可愛かったな。」


にやにや笑う辰弥を睨みつけ、うるさい。と、そっぽを向いた。が、我慢出来なくなって噴出してしまった。


そんな他愛もない会話に、由菜は小さな幸せを感じていた。


こうやって、いつまでもこうして隣を歩いていられたら良いのに・・・。


由菜は、こっそり一番星に『いつまでも、辰弥と一緒にいれます様に・・・』と、お願いをしてみた。いつも真っ先に出てくるその星が、願いを叶えてくれる様な気がして。流れ星でもないのに・・・。



家に着くと、両親が二人の帰りを首を長くして待っていた。

父は、毎年由菜の誕生日だけは、何が何でも仕事を早く切り上げて帰ってくる。もう由菜も、高校生なのだから、そんなに大袈裟に祝って貰わなくても良いとは思うのだが、頑なにそれを実行した。これも親孝行になるのではと考えて諦める事にした。

テーブルの上には、由菜の大好物のグラタン。それから、タンドリーチキン。シーザーサラダ。ポトフ。フランスパン。などが、所狭しと並んでいた。

由菜と辰弥は、部屋に鞄を置き、部屋着に着替えてから、すぐに階下へ降りた。皆が揃った所で、頂きますと食べ始めた。

由菜はグラタンに真っ先にフォークを刺した。そして、大袈裟に体をくねらせ、うま〜いと言った。


「由菜。グラタン好きなんだ?」


うん、と、嬉しそうに頷く。


「ふふふ。子供みたいでしょ?小さい頃から、グラタンが大好きでね、誕生日にはいつもこれなのよ。変わってるでしょ。子供っていったら、カレーとかハンバーグとか寿司とかって言うじゃない。それなのに由菜はグラタンなの。」


母が辰弥に、未だに子供なのよねぇと話している。由菜は、そんなのは無視して、ひたすら食べ続けた。食後にケーキもきっちりと平らげて、満足して由菜は自室へと戻った。



お風呂に入り、濡れた髪のままベッドに横になり、漫画を読んでいた。由菜の足元には、みゅう(去年拾った猫)が目をつぶって丸くなっている。

こんこんこんという音の後で、辰弥が入ってくる。


「どうぞ。とか言ってないんだけど。もし、着替え中とかだったらどうするのよ。」


「そしたら、ラッキーだなと思って。」


けたけた笑う辰弥を、きっと睨み付けた。辰弥も風呂上りなのか、髪の毛が濡れている。肩には、タオルを掛けている。どうしたの?と由菜がベッドから降りて、カーペットに腰を下ろしながら尋ねると、辰弥も由菜に習ってすとんと腰を下ろした。由菜の正面に座り、


「誕生日おめでとう。叔母さんに由菜が産まれたのは、9時くらいだって聞いたからぴったりその時間に渡したかったんだ。これ・・・・・はい。」


辰弥が小さな箱を差し出した。チラッと時計を見ると、9時だった。自分がこの時間に産まれたなんて、今の今まで知りもしなかった。由菜はプレゼントを受け取る。辰弥が開けてみて。と、由菜の手元を見ながら言う。

リボンを解いて箱を開けると、シルバーのブレスレットが。等間隔に5つのチャームが付いている。天使の羽根。表には名前、裏には誕生日が刻み込まれたハート。中に小さな宝石が入ったティアラ。デザインの洒落た十字架。小さな誕生石があしらわれたリング。その一つ一つがとっても可愛くて、由菜はそれから目を離す事が出来なかった。


「由菜?気に入らなかった?」


動きを止めてしまった由菜を心配そうに覗き込んだ。


「ううん。違うの、その逆。嬉しくて。」


言葉の途中で、涙が零れ落ちた。


「由菜?どうした?」


由菜の涙に、辰弥は焦っていた。


「あれ?おかしいな。ごめん。違うの。凄く嬉しくて。」


えへへと由菜は、急いで涙を拭いとる。それから、辰弥をしっかりと見つめ、


「ありがと、辰弥。私、男の人からプレゼント貰うの初めて。勿論親以外でね。」


由菜がそう言うと、辰弥はらんらんと目を輝かせてこう言った。


「俺が由菜の初めて?何かすんごい嬉しい。どんな事でも良い、由菜との初めて、これから沢山あると良いな。」


由菜は、嬉しそうに恥ずかしそうに頷いた。


いつも、お越し頂き有難うございます。

冒頭で、交わされた二人の会話。月と太陽、空と雲の会話は、私が息子とした会話なのです。ちなみに辰弥の台詞が私の意見でしょうか。「女性は月を見てはいけない。」ってテレビで見た気がするんですけど、どうしても思い出せないんです。細木○子さんが言ってた気がするんですけど…。どなたかご存知ですか?

良かったら教えて下さい。

では、また明日投稿したいと思います。

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