第25話:図書館デート
教室に戻った由菜を待っていたのは、割れんばかりの歓声・・・いや、冷やかし・からかいだった。真っ赤な顔していそいそと席に着くと、加絵が素早く近寄って来て、どうだったと聞いてくる。
何とか笑顔を作って大丈夫だったよと答えると、自分の事の様に喜んでくれた。ふと斜め後ろを見ると、隼人が『お前ら大胆だな。』とニヤリと笑っていた。いつも通りの隼人に胸を撫で下ろした。
「ちょっと隼人。うちの子からかうの止めてくれない?」
加絵は隼人の机の前で、腕を腰に当て仁王立ちになり、偉そうにそう言った。
「ははつ・・・何だようちの子って。お前こんなでかい子供いんのかよ。さては、歳サバよんでんだろ。」
隼人は隼人で加絵に憎まれ口を叩いている。
「あんたあたしに喧嘩売ってんの?馬鹿隼人。10年早いわよ。」
と言って、隼人の頭をぺシッと叩いている。隼人は痛てぇな何すんだこの暴力女などと暴言を吐いていた。この二人いつもこんな感じだ。二人は、本気で喧嘩してるようだけど、由菜から見れば、ただじゃれてるだけ。何だかんだで、仲が良いのだ。こんないつもの光景に癒される由菜だった。
約束の5月15日。
今日由菜は、18歳になった。辰弥とは学校帰りに図書館デートに行く事になっている。
加絵がプレゼントだよと小さな可愛い袋を手渡してくれた。ありがとう、開けても良い?と、嬉しそうに言う由菜。そこには、可愛い天使の羽根の形をしたシルバーのペンダントが入っていた。加絵は私が喜ぶものを熟知していて、こんな時のプレゼントは、本当に由菜好みのものばかり。
「有難う。超可愛い・・・。本当加絵ってセンス良いよね。」
と言いながら、嬉しくてつい抱きついてしまった。よしよしと、頭を撫でたりなんかしてくれている。
「気に入ってくれて良かったよ。辰弥君とは?」
加絵から離れると、興味津々な顔を由菜に向けて問い質された。
「テスト近いからね。図書館でお勉強だよ。」
由菜が言うと、
「それだけ?ねぇ、由菜。一つ聞いても良いかな?」
うん良いよ。何?と、由菜は首を傾げる。
「自分の気持ちにもう気付いたのかな?」
少し心配そうに由菜を覗き込んでくる。うんと、恥ずかしそうに由菜は頷いた。
「加絵ごめんね。私・・・言い出せなくて。もっと早くに言うべきだったんだけど。加絵には相談とか乗って貰ってたのに。」
すまなそうに眉を顰める。そんな由菜を気遣ってか大丈夫と笑顔を見せる。
「辰弥君には、もう自分の気持ち伝えたの?」
そう加絵が問いかけた途端に由菜の顔が大きく歪んだ。
「言わない。・・・・・・言えないの。」
由菜の顔が酷く辛そうだ。どうして?加絵は聞いた。由菜の顔の表情を見れば、これは聞くべきではないと分かっていた。しかし、口は加絵の意思とは無関係に無常にも動いていた。
「・・・・・・」
由菜は、下を向いたまま加絵を見ようとしない。
「言えない・・・事なの?」
ごめんと由菜が呟いた。
「良いよ。無理に言う必要はないよ。でも、私で良かったら、何でも相談に乗るから。由菜は一人で抱え込もうとするから。」
由菜の頭を撫でながらそう言った。由菜はありがとと言って加絵を仰ぎ見る。そして二人は微笑を交わす。
放課後、由菜は辰弥と学校を出た。校門までの間に、行き交う生徒が二人を盗み見てくる。あの放送があった日から、当然の如く二人の周りは騒がしかった。辰弥は騒がれる事に慣れているのか、周りの声は全く気にならない様だ。しかし、由菜にとっては、暮らしにくい事この上なかった。最近では、これでも落ち着いた方で、多少見られるだけならまだ良い方だ。見知らぬ人にからかわれたり、冷やかされたりしなければ。たまにセクハラまがいな事を言ってくる生徒もいた。しかし、ファンクラブの女の子達は自粛したのか騒がなくなった。辰弥に嫌われるのが嫌なのだろう。
二人は、うちの近くの小さな図書館へと向かう。この図書館の奥には、8人がけのテーブルが2つあり、そこで自由に勉強したり、読書したりして良い事になっている。図書館に人は疎らだった。テーブルには、新聞を読んでいるおじさん。小説を読んでいるおばさん。雑誌を広げて、今日の夕飯何にしようかと考えている若い主婦。それから、学生が数人。一番奥の空いている席に向かい合って腰を下ろした。
由菜は、英語の教科書を開いて、まだ覚えていない英単語を書き出し始めた。辰弥は、数学の教科書を開き、問題を解き始めた。暫く、お互いそれぞれの勉強へと没頭した。由菜、由菜。と、辰弥の呼ぶ声が聞こえたので、顔を上げると、
「これ見て。」
と数学の教科書の角に作成したパラパラ漫画を披露した。その漫画は、男の子が遠くの方からどんどんと近づいてきて、最後に由菜大好きと言っている。その男の子は辰弥のつもりらしい。何それと由菜は声を殺して笑った。上手いでしょ?と、辰弥は自慢げな顔をしている。
「上手いけど・・・。勉強してなかったのね。」
少し、叱る口調で言った。辰弥は、てへとおどけた顔を見せる。その顔が、可笑しくてぷぅーと噴出してしまった。周りの視線が一気に由菜の元へ集まる。すみませんと頭を下げた。由菜は辰弥と目を合わせて、苦笑した。その後も、辰弥は度々由菜の勉強を中断させた。
6時くらいになり、一人減り、二人減り、立って本を探している人は若干名見られるが、テーブルに座っているのは、由菜と辰弥だけとなってしまった。
「そろそろ帰ろっか。お腹減ってきたし。」
由菜が言うとそだねと言って、辰弥もノートを鞄の中へと押し込み始めた。
いつもお越し頂き有難うございます。楽しく読んでいただいているのでしょうか?感想・評価頂けると励みになります。お気軽にどうぞ!本日は『図書館デート』です。好きな人といれるなら、何処でも嬉しいですよね。私はこのようなデートした事ありませんが。それでは、また明日お会いしたいと思います。




