第23話:校内放送
教室に着くと、加絵が待ってましたとばかりに飛び付いて来た。
「仲直りした?」
と勢い込んで聞いてきたが、由菜の浮かない顔を見て、まだしてないの?と苛立たしげに言った。
「ごめん・・・。」
由菜は俯いて謝った。
「何謝ってんの?由菜が悪いんじゃないの。悪いのは辰弥君の方だよ。」
腕を胸の前で組んで、ぷんぷんしながらそう言った。
その日の午前中、辰弥は一度も姿を現す事はなかった。いつもなら、毎回のように現れるのに。由菜は午前中の授業など頭に入ってくるわけもなく、溜息ばかりが出てくる。ぼっ〜とするあまり先生に注意を受けること数回。
昼休みの時間が近づいて来ていた。いつもなら真っ先に飛んでくる辰弥だが、今日は流石に来ないかもしれない。由菜は今朝の母の言葉を思い出し、もし辰弥が来なければ、自分から会いに行こうと決心を固めた。まず、隼人との誤解を解こう。それから、早乙女さんの事も聞いてみよう。頭の中で幾ら考えたってどうしようもない。勇気をもって聞いてみよう。凄く・・・凄く怖いけど。
4時間目の終了のチャイムが鳴り響いた。由菜と加絵は今日は教室で食べることにする。
「今日、お弁当食べ終わったら辰弥と話してくるよ。このままじゃ嫌だもんね。」
力なく、笑顔を浮かべて言った。
「頑張っておいで。」
加絵が優しく言った。
「わ〜ん。加絵ってお母さんみたい・・・小っちゃいのに。」
加絵の優しさが嬉しくて、涙が出てきそうになるのを堪えていた。
「お母さんって何よ。しかも、小っちゃいは余計でしょ。」
加絵が脹れるのを見て、可笑しくなって泣き笑いのような状態になっていた。
「何泣いてるの。でも、良かった今日始めてちゃんと笑ってるよ。今まで、ずっと無理して笑ってたでしょ?」
由菜を見て微笑む姿が「やっぱりお母さんみたい・・・。」・・・最後の言葉が思わず口から飛び出してしまい、急いで噤んだが、時既に遅し。怖い顔した加絵から頭をこつんとどつかれてしまった。
そんな会話を由菜としながら、お弁当を食べていると、放送部の流していた流行の曲が突如ぶつりと止まってしまった。あれ?と思ったが、それに気付いている人は少数だった。
『ぶつ、ぽんぽんぽん ねぇ、これもうマイク入ってるの?』
由菜は驚いて、スピーカーを見た。スピーカーを見た所でそこに辰弥がいるはずもないのだが。その声は、確かに辰弥の声だった。
「加絵、これ辰弥の声だよ。」
えっと加絵も目を丸くしている。
『え〜と、放送中突然お邪魔してすみません。全校生徒の皆さんに聞いて貰いたい事が有ります。俺は、1年D組の村上辰弥です。俺は3年C組の太田由菜の事が好きです。彼女以外は考えられません。もし、由菜に危害を加えようとする奴がいたら、俺は絶対に許さない。特にファンの皆さん。俺の事を思ってくれるのは嬉しいけど、たとえ女であろうと由菜に手を出す奴は、手加減しません。以上、よろしくお願いします。』
ぶつっ。突然に放送は終わりを告げた。
一瞬の沈黙の後、教室中が大盛り上がりとなった。ひゅーという指笛。女子のキャーという声。ギャーという悲痛の叫び。いや、この教室だけじゃない、学校中から同じような騒音が聞こえて来る。由菜は恥ずかしさで、顔を上げる事が出来ずに耳を塞いで俯いていた。
何これ・・・、有り得ない。辰弥何考えてんの・・・。最悪。
加絵がその喧騒から守るように肩を抱いてくれているのが分かる。
バタバタバタバタ・・・・・・。遠くの方から、廊下を走ってくる足音が聞こえて来る。それは段々と近づいて来て、教室の前で止まる。ガラッと教室の前のドアが勢いよく開いた。次の瞬間、教室内が水を打ったように静かになった。耳を塞いでいても聞こえていた騒音がふと止まり、不審に思った由菜が、顔を上げると机の横に辰弥が立っていた。驚いた由菜は辰弥をぽかんと見つめる事しか出来なかった。辰弥は由菜の手を引っ張る、『付いて来て』という意味だと解釈し、由菜は席を立ち、辰弥に従う。
辰弥は教室を出ると、由菜の手を掴んだまま走り出した。各教室からは、野次馬が顔を出し、冷やかしの言葉をかけてくる。由菜は顔を真っ赤にし、下を向いていた。5時間目のチャイムが鳴った。
「辰弥チャイム鳴っちゃったよ。戻らないと。」
サボると言って、取り合ってはくれなかった。ここまで来ると、辰弥がどこへ向かっているのか分かった。屋上だ。
屋上へ出た由菜は太陽のあまりの眩しさに目を細めた。辰弥は掴んでいた由菜の手を離し、はあはあと肩で息をしている。
「運動不足かも、。ちょっとだけ休ませて。」
「・・・・・・」
由菜は、言葉を出す事すら出来なかった。しばらくして、辰弥が由菜の方へ向き直った。
「さっきの放送聞いてくれた?」
うんと由菜は消えそうな声で言った。あの放送で当分、冷やかされるのは間違いない。
「この間はごめん。俺、隼人に嫉妬した。由菜はあいつの事好きなの?」
辰弥は由菜を見つめて、そう尋ねた。
「あのね。あの日、本屋で偶然会ったの。でも、私ちょっとショックな事があって、家に帰るのも嫌で、だから公園でボーとしてたの。隼人はそれに付き合ってくれてた。あの日隼人に好きだって言われたの。でも・・・私、次の日断った。」
由菜は隼人の事を思い出し胸が痛んだ。由菜にとって告白をされた(辰弥以外で)のも断ったのも初めてで。どうしようもない事だけど、隼人を傷つけてしまった事が苦しかった。
「じゃあ、あいつと付き合ってないの?」
こくんと由菜は頷いた。それを見て、辰弥の顔が少し明るくなった。
「辰弥は・・・?辰弥は早乙女さんと付き合ってるの?」
由菜はこれを聞く事が一番怖かった。怖くて、怖くて、怖くて・・・でも一番聞きたい事。
「さっき放送で言ったろ?俺の好きなのは由菜だけだって。付き合ってなんかないよ。」
「でも、私見たよ。二人が歩いているところ。あれ、デート・・・・・・だよね?」
辰弥は、難しい顔をして少し考えていた。それから、意を決したかのように口を開いた。
「由菜には誤解されるの嫌だから、全て話すね。」
そう言って辰弥は、ファンの目を由菜から逸らす為に早乙女さんを利用した事。彼女を傷つけてしまった事。デートをする事になった経緯。それら全てを順を追って話してくれた。
「俺が全部悪いんだ。でも由菜、これだけは信じて欲しい。俺、どんな事があっても、由菜だけが大好きだから。」
由菜は黙って頷く。確かにあの日辰弥はデートをしていたのだ。でも、それは由菜の為だった。そして、今日の放送。あれもファンの子達が私に手を出させない為にした事だろう。
自分の為だとはいえ、他の女の子とデートをしていた事はやっぱりショックだった。
でも、他の女の子とデートしないでとは言えない。だって私は辰弥の彼女ではないのだから・・・。
いつもご贔屓にして頂き有難うございます。
昨日、ネット小説ランキングを見たら、『恋愛シリアス部門』で22位になってました。(今日はどうなってるか知りませんが)皆様のおかげです。有難うございます。
本日は『校内放送』絶対こんな事誰もしないだろうなと思いながら書いて増した。イメージは『学校へ行こう』の「未成年の主張」を意識しました。でも、流石に屋上立って叫ぶわけにはと思い、校内放送にした次第でございます。あんなんされたら女の子は恥ずかしいですよね(笑)
では、また明日お会いしたいと思います。




