第22話:お節介
その日の放課後、加絵と駅前のマックに来ていた。
由菜があまりに今日一日塞いでいたので、加絵が誘ったのだ。加絵には、辰弥が早乙女さんと仲良さそうに歩いていた事、恐らくそれはデートであろうという事、その夜の辰弥との会話、それから隼人に告白された事、今朝断った時に隼人に言われた事など昨日から怒涛のように起こった全ての事を話して聞かせた。
加絵は、それらの話を聞いて黙ってはいれなかった。お節介心がムクムクと湧き上がって来てしまった。加絵は昔から面倒見が良い方で、困っている人を見ると放っておけない性質なのだ。特に由菜の事はとても大切な親友と思っているので、いてもたってもいられなかった。
早速加絵は、行動を開始する事にする。取り敢えず辰弥に早乙女さんとの事の真相を確認せねばなるまい。由菜に『ちょっと携帯見せて』といってこっそり辰弥の番号をゲット。加絵の記憶力は自慢じゃないが抜群なので、さっと見て自分の携帯に素早く登録。何食わぬ顔で『ありがと』と言って由菜に携帯を返す。
「ちょっと家に電話してくるね」
と言って店の外に出る。今電話して大丈夫だろうかと一瞬思ったが、そんな物は構っていられるかと発信ボタンを押す。しばらく電子音が鳴っていたが、やっとこさ辰弥が電話に出る。
「はい?」
見知らぬ番号から架かってきた為か携帯の向こうで警戒した声が聞こえる。
「私、加絵だけど。今話しても大丈夫?」
なんとなく挑むようなつっけんどんな声になってしまった。
「加絵さん?今自由時間だから大丈夫だけど・・・。」
辰弥が不振そうにそう言う。
「君さ、由菜の事好きなんだよね。昨日、由菜が君と早乙女さんがデートしていた所を見たって言ってるんだけど、どういうことかな?」
冷静に問いただそうと思ってはいたのだが、少し責める様な感じの言い方になってしまった。
「由菜が見てた?俺が由菜を好きな事に何も変わりはないです。昨日はちょっと理由があって・・・」
「由菜泣いてたのよ。君と早乙女さんの事で泣いてたのよ。」
畳み掛けるように加絵がそう言った。
「由菜が泣いてた・・・?どうして・・・?」
「もう、君も馬鹿ね。あの子は・・・由菜は絶対認めないかもしれないけど、君の事が好きなのよ。もしかしたらまだ自分の気持ちにさえ気付いていないのかもしれない。でも、私には分かるの。ずっと親友だったんだから。」
「由菜が俺を・・・。」
辰弥の驚きとも呆然ともとれる様な声が聞こえてくる。
「そうよ。由菜を泣かせたら、私が許さないわよ。良い?分かった?じゃあね。」
それだけ言うと加絵はぶつっと一方的に電話を切った。加絵はこれだけ発破をかければ大丈夫だろうと一人ほくそえんでいた。
加絵さんからの電話は唐突に切れた。
由菜が俺を好き・・・?
そんな事は・・・無い・・・だろうな。
辰弥には由菜が自分を好きだとは信じられなかった。由菜の家で久しぶりに再開した日、辰弥は由菜に『きっと由菜もすぐに俺の事好きになると思うぜ。』なんて言葉を言ったが、あれは虚勢に過ぎない。
由菜が泣いていたのは、恐らく俺が昨日キツイ事を言ってしまったからではないのか?辰弥にとって由菜は憧れの人。好きで好きで仕方なくって、傍にいれるだけで嬉しくって、それなのにどんどん欲張りになっていった。由菜が他の男といるのが堪らなく嫌で、だから昨日感情任せにあんな事をしてしまった。
辰弥はその二日後無事に帰ってきた。
「只今帰りました。叔父さん、叔母さんお土産買って来ました。食べて下さいね。」
辰弥は笑顔で帰ってきて、うちの両親と楽しく旅行の話なんかを聞かせている。しかし、辰弥は由菜の方を一度たりとも見ることは無かった。由菜はまだ辰弥が怒っているんだと悲しくなってしまった。
夕食の時間にも、両親とは話すが、由菜には一言も話しかけて来なかった。両親は気にして、由菜をちらちらと覗き見ていたが、由菜は無視してひたすら食事に集中した。
辰弥は今日は疲れてしまったのでと言って、すぐに自室に戻って行ってしまった。その日二人は言葉を交わす事は無かった。
その夜、由菜はなかなか寝付く事が出来なかった。悪い想像だけが、頭の中を支配していた。
辰弥はもう私とは口を利いてくれないんじゃないか。
早乙女さんと付き合うのかな。
そしたらもう私の事なんてどうでも良くなっちゃうのかな。
翌朝、起きて階下に行った時にはすでに辰弥はいなかった。
「辰弥は?」
由菜はおはようの挨拶さえ忘れて、母に尋ねた。
「今日は何か用事があるからって早くに出て行ったわよ。聞いてなかったの?」
うんとしょんぼりと呟く由菜。まさか辰弥が先に行ってしまうとは思ってもみなかった。
「まだ、仲直り出来てないのね?」
「うん。ねぇ、お母さん仲直りってどうやってすれば良いのかな?私、喧嘩ってした事ないから分からない。」
由菜は子供の頃から争い事が嫌いで、喧嘩をした事などなかったのだ。
「そんなの簡単じゃない。謝れば良いのよ。でも、ただ誤るだけじゃだめよ。自分の気持ち、相手の気持ちを十分理解した上で謝るの。ようは、きちんと二人で話す事ね。」
「辰弥話聞いてくれないかもしれない。」
「聞いてくれないからってそれで諦めるの?聞いてくれなかったら何度でも何度でもぶつかって行けば良いのよ。諦めたら今のままよ。それでも良いの?何も怖い事なんて無いわ。大丈夫。お父さんとお母さんなんて何回喧嘩して話し合いをしたか分からないわよ。喧嘩って悪い事じゃないのよ。近くにいればいるだけぶつかる事は絶対にあるものなんだから。でも、それを乗り越えたら二人の絆はもっともっと強いものになるのよ。」
母は優しい目で子供を諭すように由菜に言って聞かせた。
「なんか私小さい子供みたいだね。」
なんだか恥しくなって、照れ笑いしながら由菜は言った。
「馬鹿ねぇ。あんたはまだまだ子供よ。」
そう言って少し嬉しそうに笑う。「何で笑ってんの?」「何でもないよ。」そんな他愛もない会話が続いた。でも、母のお陰で少し元気が湧いてきた。
お母さん、ありがと。照れ臭くて言葉には出せないけど、そう心の中で呟いて、家を出た。
いつも読んで頂いて有難うございます。
本日は『お節介』です。私の周りには、沢山のお節介がいました。お節介ってたまに鬱陶しく思う時も有りますけど、自分の事を心配してくれてるんだって思うと嬉しいものですよね。
それでは、また明日お会いしたいと思います。




