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1cmの距離  作者: 海堂莉子
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第21話:怒りの目

由菜は、隼人の腕の中にいた。


「返事は今は言うなよ。よく考えて欲しい。突然で悪かった、送るよ。」


二人は、無言で公園を後にした。



そんな二人を影で見ている人物がいた。・・・・・・辰弥だ。

辰弥は隼人が、由菜を抱きしめたあたりから見ていた。辰弥はその光景を、嫉妬で煮えくり返りそうになるのを懸命に堪えながら見ていた。



由菜の頭の中は、混乱していた。夕飯の時間も上の空だった。

辰弥の事と、隼人の事、どう考えて良いのか分からなかった。辰弥と早乙女さんの二人を見た時の由菜の衝撃はガツンと鈍器で殴られたように凄まじかった。一瞬、心臓が止まるかと思った。

想像していたよりも遥かに動揺し、傷付いた。そんな心が折れた時に聞かされたクラスメイトからの突然の告白。隼人への気持ちはすでに固まっていた。由菜は誰とも恋愛をしないと決めていたのだから、『OK』を出すわけにはいかない。ただ、折角仲良くなり、信用していた友人をなくす事になるのではないかと由菜は怯えていた。

食欲がないので、早々に切り上げて、自室へ戻る事にした。階段を上がる途中で誰かに手首を掴まれた。疑いようもなくそれは辰弥だった。


「アイツに会ってたのか?」


いつもと違う低い声、目が刺すように由菜を見ている。辰弥は怒っている。由菜には一目で分かった。始めて見る辰弥の表情。


「アイツって?」


「桜井とかいう奴だよ。」


一瞬手首を掴む力が強まる。


「痛っ・・・。辰弥には関係ない。辰弥だって・・・。離して・・・・、離して!」


由菜は辰弥の手を思い切り振り解いた。階段を駆け上がり部屋のドアを乱暴に閉める。


階段に取り残された辰弥は、「くそっ」と拳を握り締め、悲痛な顔を浮かべた。


一方由菜は、ベッドに潜り込み、息を殺して涙を流していた。


怖かった・・・。由菜を責める鋭い針のような目が・・・・・・怖かった。



その翌日から辰弥は学校の宿泊研修に行く事になっていた。宿泊研修とは、1年時に行われる行事で、簡単に言えばより親交を深める為の旅行だ。今日から2泊3日辰弥は家を空ける事になる。

辰弥は「行って来る。」とだけ言って、由菜の顔を見る事もせずに行ってしまった。そんな辰弥に由菜は何も言う事が出来なかった。辰弥が玄関を出た後、ぼそりと『行ってらっしゃい』と呟いた。


「辰弥君と喧嘩でもしたの?二人とも暗い顔して。辰弥君が帰ったら、すぐに仲直りするのよ。」


母が二人の空気を察して、そう言った。


「うん。分かってる。行ってきます。」


由菜は逃げるように家を出た。

学校に行けば隼人がいる。どんな顔をして会えば良いか分からなかった。母から逃げるように出てきてしまったので、いつもより大分早く着いてしまった。人気のない廊下は新鮮な感じがした。

音楽室から聞こえる楽器の音や、校庭から聞こえる運動部の声がより一層校舎内を静かな空間にしている。少しご機嫌な気持ちになって、教室のドアを開けるとすぐにしまったと思った。

教室にただ一人隼人が席に着いて本を読んでいた。今すぐ戻りたいと思ったが、さすがにそれは不味いだろう。


「お・・・おおはよう。」


由菜は完全にどもってしまっていた。ぎくしゃくした空気が教室を汚染している。


「おっす」


隼人はいつものように、本から目を外す事無く挨拶を返す。

由菜は仕方なく自分の席へと向かった。由菜は隼人の席の斜め前の席だ。本を読んでるはずの隼人の視線をなぜか感じる。


「あ・・・のさ。昨日の事なんだけど。」


由菜は、変な汗をかいていた。


「隼人の気持ちは嬉しかったんだけど、今は誰も好きにならないって決めてるから・・・。ごめんね・・・。」


下を向いて、一気に言う。


「俺の事は別に良いよ。お前の気持ちくらい分かってたから。お前が何で好きな奴を作らないって決めてるのか知らないけど、あいつへの気持ちを無理やり押し込める事はないんじゃないのか?あいつと付き合えとか気持ちを伝えろとか言ってるんじゃなくて、ただ自分の気持ちには正直になっても良いんじゃないのか?」


「・・・え?」


「だから、世の中なんて何が起こるか分からないわけじゃん?どんなに男に無関心な女だって、突然恋に落ちる事だってあるわけだよ。お前が好きな奴を作らないって決めてたって好きになっちゃったもんは仕方ないじゃん。そういう感情って止める事って出来ないんだよ。結局、その気持ちを自分で受け止めるしかないだろう。最近のお前はさ、俺が見てても辛そうだったよ。何ていうかさ、自分の気持ちに嘘を付いてるから辛くなるんじゃないのか?その気持ち、認めてやっても良いんじゃないか?」


隼人が由菜の顔を窺っている。


「私は・・・。」


「これ以上俺に嘘はつくなよ。少なからず俺には、お前の気持ちはお見通しなんだから。これでも、お前の事をずっと見て来たたんだからな。」


苦笑しながら、隼人が言う。


「隼人は何でも分かるんだね。私の事。」


まあなと隼人は伸びをしながら答えた。由菜は自分の気持ちを全て隼人に見透かされているようで、何だか怖かった。


廊下から何人かの生徒の声が近づいてくる。そろそろ皆来る時間帯だ。


「まあ、俺の事は気にするな。今まで通りだ。良いな。」


少し微笑んでそれだけ言うと、また本の世界へと戻って行ってしまった。



自分の気持ちに正直になる・・・。


そうすれば、少しは楽になるのかな・・・?


隼人の言葉に、由菜は考えをめぐらせていた。


毎度お越し頂き有難うございます。今回は『怒りの目』です。普段優しい人が怒るとすごい恐いですよね。因みに私は昔『小さな巨人』と言われたことがあります。恐いつもりはないですけど、男の人には手厳しいかも。てなわけで、またお会いしましょう。

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