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1cmの距離  作者: 海堂莉子
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第19話:嫉妬

早乙女さんが立ち去って、由菜が一人になると、加絵が由菜の元へ駆け寄って来た。由菜は涙を急いで拭って加絵に見られない様にした。


「由菜・・・。大丈夫?ごめん、今の話聞いちゃった。もしも辰弥君が彼女と付き合うって事になっても良いの?」


「どうして?平気だよ。辰弥は従兄弟だもん。そうなったら祝福してあげるよ。」


由菜は笑顔でそう言った。その笑顔がとても辛そうで、そして頬には涙の後が薄っすらと残っていた。加絵はそんな由菜の笑顔を見るのが辛かった。




その1件があってから、早乙女さんと辰弥が楽しそうにお喋りしている姿を目にする様になった。そんな姿を目にする度に胸がズキッと痛んだ。しかし、早乙女さんにああ言った手前、平気な顔をする事を自分に強いた。

早乙女さんのアプローチはあからさまで、辰弥がいる所にはいつも彼女の姿があった。時には、下校時や昼食時に乱入する事もあった。

辰弥は、そんな彼女に何も言わなかったし、仲も良く、優しく接している様だった。見た目には、お似合いのカップルだった。早乙女さんとしては、由菜の前で、二人の仲良し振りを大いにアピールしている様だった。


徐々に、二人は付き合っているのではないかっと言う噂が飛び交うようになった。

あれだけ早乙女さんが辰弥の傍にいるのだから、そんな噂が出ても仕方がないように思う。


嫌でも目に入ってくる仲の良い二人。由菜以外の人に向けられた辰弥の笑顔・・・。それを目にするのは由菜にとって苦痛だった。由菜が心の奥深くに閉じ込めた感情が壁をぶち破って出て来ようとする。


私以外の人と話さないで・・・。


私以外の人に笑顔を見せないで・・・・・・。


由菜の心の中に生まれた新たな感情。嫉妬。独占欲。今までに感じた事のない感情に混乱するばかりの由菜。自分の汚い感情にさらに苦しめられていた。



「村上は、あいつが好きなんだな。」


隣にいた隼人が突然そんな事を言い出した。3年になって、また二人はクラス委員長に選ばれた。委員会が終わり、廊下をぼんやりと歩いている時だった。

由菜は何の話をしているのかすぐには理解出来なかった。


「え?あいつって?」


「お前の従兄弟だよ。」


隼人はまっすぐ前を向いて歩きながら、そう言った。いつも隼人はあまり人の目を見て、話そうとしない。


「なにそれ・・・何の冗談?」


はははと由菜は笑って、少し足を速めた。


「じゃあ、そんな顔するなよ」


少し後ろで、隼人の真剣な低い声が聞こえてくる。


「やだな・・・そんな顔ってどんな顔よ。冗談キツイな。いつもこんな顔だけど?もしかして不細工とか言ってるの?失礼な。・・・私・・・今日早く帰らなきゃだからバイバイ。」


由菜はそれだけ言うと逃げるように走り去った。由菜はただ怖かった。自分がそんな酷い顔をしていたんだと。他の人が気付くぐらいに私は顔に出ていたんだと・・・。

自分の感情を見透かされて怖くなったのだ。


隼人は、由菜の小さくなっていく背中をいつまでも見ていた。



いよいよ辰弥と早乙女さんの噂はヒートアップをし始め、由菜を睨んでいたファン達もやっと静かになった。そんな鋭い目から開放されたのは良かったのだが、相変わらず早乙女さんのアプローチはすごく、辰弥も満更じゃなさそうにも見えた。辰弥は周りに冷やかされても肯定も否定もしなかった。その辰弥の態度に、由菜は傷ついていた。



「村上君。私の事利用したでしょ?私との事が噂になれば、太田先輩を睨んでたファンの子達も納まるって思ったんでしょ?私が相手だったら、ファンの子達も文句は言えないしね。」


辰弥は由菜の教室に行こうとして呼び止められ、人気の無い廊下に呼び出され早乙女さんにそう言われた。


「ははっ。鋭いな。悪い。その通りだよ。」


辰弥は素直に謝った。由菜へのファンの子達の態度は日に日に悪化していった。このままでは、彼女等が由菜に何かをしでかすんじゃないかと思った辰弥は、他の子と噂になれば、由菜への態度も納まるんじゃないかと思った。そこに早乙女さんが近づいてきたので、都合が良いと思ってしまったのだ。早乙女さんはファンクラブの会長を務めているので、会長に文句を言える奴はいないだろうと。


「別に良いの。私も利用したの。私、村上君の事好きなの。だから、どんな理由でも、傍にいられればそれだけで良かった。」


「ごめん。早乙女さんを利用した事は悪いと思ってる。でも、俺が好きなのは、由菜だけだから。由菜以外は考えられない。本当にごめん。」


早乙女さんの視線が痛い。でもここは、目を逸らさずに自分の真意を伝えるべきだと辰弥は考えていた。


「私に悪いって思ってるなら、一度だけデートしてくれない?」


辰弥は困惑した表情を浮かべた。しかし、辰弥は自分が悪いと思っている為、無下に断ることが出来ない。


「分かった。」


辰弥は彼女の言葉を呑む事にした。


「安心して、その後はもう付き纏ったりしないから。今週の日曜日駅前10時に。」


それだけ言うと、早乙女さんは教室へと戻って行った。


正直、由菜以外の女とデートをするのは、心苦しいが、自分の蒔いた種だ、自分で落とし前をつけなければならない。


はぁと大きく息を吐くとその場をあとにした。


皆さんこんにちは。

今日もお越し頂き有難うございます。この小説は平日毎日更新(午前中に更新出来るように頑張ってます)でお送りしております。土日は休みです。祝日は・・・多分更新できます。

本日のテーマは『嫉妬』でございます。私自身、焼き餅焼きな方です。流石に今は嫉妬はしないですね。

こんな感情あったなぁと思いながら、書いてます。

それではまた、来週お会いしましょう。


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