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1cmの距離  作者: 海堂莉子
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第18話:宣戦布告

校門をくぐった二人を待ち受けていたのは、視線・視線・視線の嵐だった。

由菜も正直こんなに見られる事になるとは思っていなかった。女子が全員辰弥を見ている・・・。ついでに一緒にいるあいつは誰だって目で由菜の事も見ている・・・。実際には由菜を見る男子の視線もあったわけで・・・。


男子にも女子にも人気のある由菜は、歩いている途中に何人もの生徒が挨拶をして行く。それを笑顔で返す由菜。男子にも同じように接するので、辰弥としては面白くない。隣で不貞腐れていた。


「おっす。」


後ろから声が聞こえたので、振り返ってみると、桜井隼人(第4話参照)がいた。隼人とは2年の時にクラス委員長を二人で務めた。最初は無口で苦手なタイプだったのだが、案外良い奴だ。隼人が二人を追い抜きざま、辰弥をちらりと見やった。辰弥は隼人の視線に素早く気付いた。一瞬目が合ったが、ずんずんと歩いて行ってしまった。


「今の誰?」


「同じクラスの桜井隼人。」


「ふ〜ん。仲良いの?」


「別に特に仲良いってわけじゃないけど。去年一緒にクラス委員長やったから。何で?」


ふ〜んと頷きながら、隼人の背中を眼で追う。桜井隼人・・・覚えておこう。由菜を見る目は俺と同じ目だ。要注意人物だな。



やっと自分の教室に辿り着いた由菜は加絵を見つけると彼女の元へと急いだ。


「加絵・・・。あ〜、加絵。癒される・・・。なんか凄い事になってんだよ。助て・・・。」


加絵の首に巻きついて、甘えてみた。


「あ〜、辰弥君。凄いね。正直私もあんなにイケメンだとは、思わなかったよ。あれじゃあ、女子が放っとかないよね。これから大変だよぉ、由菜。」


「ヤメテェ、考えるだけで超怖いんですけど。」


由菜はこれから起こるであろう混乱を思うと心底沈んで行く思いだった。



それからの1週間の間に、辰弥のファンクラブという物が出来た。そのファンクラブの会長を務めているのが、1年生の早乙女百合子である。緩く巻いた髪を肩まで伸ばし、色白でスタイルも抜群である。今年入った1年生の中でずば抜けて可愛いと男子が言っているのをよく耳にする。そんな人がファンにいるという辰弥が、なんだか凄い人に思えてくる。


辰弥は学校にいる間中、用もないのに暇さえあれば由菜の教室にやってくる。昼休みは最近では、加絵と三人で食べるようになった。その為、辰弥と加絵も大分仲が良くなった。

辰弥は学校にいる時でも、所構わず好きと言って来る。お陰で由菜はファンクラブの女子から鋭い目で見られる様になってしまった。



ある日、由菜は早乙女さんに放課後屋上に呼び出された。

これは、よく漫画なんかで出てくるパターンなんじゃないか・・・。屋上に行ったらファンクラブの子達が大勢いて、よってたかって文句を言われたり、ど突かれたり・・・。

内心びくびくしながら、屋上に向かった。屋上のドアを開けると太陽の日差しとともにファンクラブの子達の突き刺さるような鋭いまなざしが・・・・・・なかった。

そこには、早乙女さんが一人で立っていた。美しい微笑を浮かべながら。あれ?と由菜は思ったが、少しホッとした。いや、もしかしたらどこかに隠れているかもとも思ったが、なんとなくこの子はそんな事はしない様な気がした。


由菜は一歩一歩ゆっくりと彼女の前へと歩み寄って行く。


「こんにちは。」


彼女の可愛いらしい声が由菜へと投げかけられた。


「こんにちは。」と由菜はぎこちなく挨拶を返した。


「すみません。呼び出してしまって。」


「別に大丈夫だけど。」


彼女より由菜の方が恐らく緊張しているだろう。彼女は由菜の事をじっくりと観察していた。その視線が由菜には痛くて仕方なかった。


「太田先輩って綺麗ですね。3年の先輩方に聞いてみたんですけど、太田先輩の事悪く言う人、一人もいませんでした。みんな褒め言葉ばっかり。村上君が好きになるのも仕方ないのかもしれません。」


「・・・。」


由菜は何にもいう事が出来ずに、ただ彼女の事を見ていた。


「私今度村上君に告白してみようと思ってるんです。振られるのは分かっているんです。でも絶対諦めません。先輩は村上君の事をどう思っているんですか?」


「どうって・・・辰弥は、大切な従兄弟で・・・それ以上でもそれ以下でもない。」


由菜は自分の心に言い聞かせるようにそう言った。胸が少しキュッっとなったが、それには気付かなかった事にした。


「もし、私が村上君と出掛けたり、付き合うという事になっても先輩は構わないんですね?」


「それは、辰弥が決める事でしょ?辰弥が良いのなら良いと思う。」


平静を装い由菜はそう言った。由菜はもう帰りたくて仕方なかった。早くこの子の前から逃げ出したい・・・。


「分かりました。時間を割いて貰って、すみませんでした。」


彼女は由菜にお辞儀をしてその場を立ち去った。

彼女が去った後、由菜は二人が並んで歩く姿を想像した。それは誰もが羨む様な美男美女カップルで、誰が何と言おうとベストカップルで・・・。

由菜は涙がこぼれない様に上を向いた。そこには綺麗な空が広がっていた。


私は、辰弥がほかの誰かと付き合った時に祝福してあげる事が出来るだろうか・・・。


上を向いていた由菜の目から涙が一筋零れ落ちた・・・。


いつもお出で頂き有難うございます。

今回は『宣戦布告』という事で、漫画なんかでお馴染みのシーンを書いてみましたが、こういうのって本当にあるんですかね?

べた〜な小説にしたかったので、入れてみました。

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