第17話:新生活
「なんか由菜といると落ち着く。由菜・・・。好きだよ・・・。」
「知ってるよ。」
改めてそう言われて、どうしたら良いか分からなくなった由菜はぶっきらぼうにそう言った。辰弥といるといつも心臓がドキドキする。でも由菜は、そのドキドキが嫌ではなかった。
「知ってるんだ・・・。」
辰弥はいつものようにニヤニヤと由菜の顔を覗き込んでくる。
「知ってるよ・・・。分かってる。だからもうそういうの言わないで。」
由菜は、辰弥を避けるようにくるんと辰弥に背中を向ける。それでも辰弥は後ろから顔だけ覗き込むとニコッと笑う。
「何度でも言うよ。あっ・・・、決めた。俺1日に最低1回は由菜に好きだって言う事にする。」
辰弥の笑顔は女殺しだ。あの笑顔を見てしまったら、何も言えない。何でも許せてしまう。
「何でそうなっちゃうのよ。」
由菜はぷんぷんしながら言う。本当は怒ってなどいない、ただの照れ隠しだ。
「良いの。俺が決めたの。由菜は気にしなくて良いよ。俺が勝手に由菜が好きで、ただ伝えたいだけだから。でも、俺の事好きになったら、すぐに言ってね。」
最初こそ真剣な声音だったが、最後の部分はいつものおちゃらけた辰弥に戻っていた。
いつの間に起きたのか、子猫がニャアニャアと鳴いている。
「そろそろ帰ろうか。晴れたみたいだし。」
外はすっかり晴れ上がり、あのおぞましい雲はどこかへ姿を消したようだった。
子猫は辰弥のリュックに入れて行く事にした。少し窮屈だが仕方ない。電車に乗っている時だけ、リュックの中に入ってもらって、あとは由菜が抱っこをする事にした。電車が混雑していない事を願うしかない。
二人は辰弥の家を出た。
帰りの道すがら、由菜は子猫の名前を何にしようかと考えていた。
「この子の名前何にしようかな〜。」
歩きながら、子猫の様子を見ながら呟く。
「みーちゃん」
「ありきたりだな。」
「にゃんこ」
「そのままじゃん。」
「う〜ん、じゃあ・・・みゃあ」、「それもいまいち。」
「みゅうは?」
「それ良いんじゃない。その子オス?メス?」
辰弥がちろっと尻尾を上げて覗き見る。
「メスだね。じゃあ、みゅうで良いんじゃない?」
ミャアと子猫が返事をする。どうやらその名前を気に入ったようだ。由菜は満足気に頷いている。「今日からみゅうだよ。よろしくみゅう・・・。」ミャアともう一声鳴く。
辺りはすっかり夕暮れである。二人の影が夕日を浴びて、長く長く伸びていた。
季節は春。
新緑の季節。動物達が目を覚まし、燕や鶯の鳴き声が聞こえる季節。
あの二人のデートから、季節が進み、クリスマス−由菜は酷い風邪を引き、何の良い事も無かったので、多くは語らない事にする−もとっくに過ぎ、辰弥の受験もあっさり終わり(余裕の合格)、とうとう由菜は高校最後の学年になり、辰弥は今日入学式である。生徒会役員と吹奏楽部以外の2,3年生は今日は休みである。
由菜は3年C組。加絵とはまた同じクラスになる事が出来た。これで3年間同じクラスである。
辰弥は、真新しい制服を着て、目をキラキラ輝かせ意気揚々と入学式へと向かった。この日ばかりは辰弥の両親も揃って出席する事になっている。ついでに、うちの両親も「辰弥君はうちの子の様なものだ」と言って、張り切って出掛けて行った。辰弥は1年D組になったそうだ。
入学式の翌日からは、由菜と辰弥は同じ制服で同じ学校へと向かった。隣に並ぶ辰弥は見慣れた制服を着ている為か、何となく奇妙な感じがする。当の辰弥はこれから始まるであろう由菜とのハッピースクールライフなんかを想像して朝からご機嫌である。由菜は辰弥の横顔を見て、こんなにイケメンなんだから高校ではかなり騒がれるんじゃないか。ファンクラブとか出来るかも。なんて事を考えていた。考えてみれば辰弥が中学生活をどのように過ごしていたかなど、聞いたことが無かったのだ。家の中で見る辰弥しか知らない。
辰弥のウキウキ気分とは反対に、由菜は言いようの無い不安を感じるのであった・・・。
いつもお越し頂いて(え?いつも来てない?まあまあ)有難うございます。
来て頂いて読んで頂いて本当に感謝してます。
いよいよ二人の新生活が突如始まりました。すみません・・・。かなり端折ってしまいました。
高校生活って卒業すると何の行事があったかとか忘れてしまって。色々と調べながら書いてます。
それから、新連載始めました。『天使とラブソングを・・・』です。コメディ風に書いていこうと思っています。そちらの方もぜひ読んでみて下さい。




