炊き出しと宴会
会戦はアヴァロンの勝利で終わる。
戦死者はゼロ、奇跡の完勝である。しかも、わずか一日たらずでだ。
戦闘は中継されて全国民が見ていたが、本当に勝ったのか信じられずにいた。
画像が切り替わり、輝夜がテレビに映る。
『皆さん、我らの勝利です!』
地下に避難した人々は、大歓声を上げる。大音声はアヴァロン星を揺らすほどだ。
「やった――――!」
「ワ――――――!」
「大勝利!」
「アヴァロン万歳! 女王万歳!」
「勝利の宴だー!」
星騎士達は勝ち鬨を上げ、祈りを捧げる。
「えい! えい! オ――――!」
「天宙神に感謝を!」
歓喜に沸く中、女王達は後始末に追われていた。
戦場の後片付けと、部隊の移動。そして問題は捕虜の扱いだった。
十万という数は光太郎も想定しておらず、流石に持てあます。
取りあえず、拿捕したマゲイア艦と一緒に、レムリア大陸の空白地におくことにする。
捕虜収容所という物はなく、無人機と星騎士が交替で見張りにつく。
艦から降ろされた奴隷兵達は抵抗はしなかったが、問題行動を起こし始める。
「ゴミを散らかすなー!」
「川で洗濯するなー!」
「あー! 野○○をするんじゃない!」
自然が汚されるのは、アヴァロン人からすれば許しがたいことだった。
野外の衛生面において奴隷兵は無知であり、教育されていない。
また、羞恥心もなく下半身を丸出しでも平然としている。
ゆえに、マゲイア艦の中もひどい状態であった。消毒はされてあるが、清掃が行き届いていない。
臨検に入った星騎士達は、悪臭のあまり昏倒する。
「臭いなんてもんじゃない!」
艦内の生活環境は劣悪であり、中世の牢屋なみである。
防毒マスクなしではいられず、ほうほうの体で艦から逃げ出す。
星騎士達は野外生活用品を送ってくれるように、女王に至急要請した。
補給艦がレムリア城から飛び、風呂や洗濯機・テントなど生活必需品が運ばれてくる。
トイレはSCを地面に降ろし、浄水装置が設置される。
寝床の設営や機器の使い方を教えてるうちに、夜になった。
全員、腹を鳴らして遅い夕食の支度を始める。ここでも少し問題が起きる。
食料も調理器も送られてきていたが、奴隷兵達は適当に切って焼くか、生のまま食べようとしたのだ。
料理を全く知らねば、まあそうなる。
これを見ていた、炊事兵長はキレてしまう。
「お前らー! 座って待ってろ! 私が作る!」
自然の糧に感謝して食材を余すことなく使い、美味しく作るのが料理人である。
料理は命、ただの栄養補給とは違う。
目の前でネズミのように食べられるのは、食材に対する礼儀を欠いており、とても我慢ならなかった。
こうして炊事兵大隊は、星騎士だけでなく奴隷兵達の食事も作ることになる。
ここまでくると、捕虜というより難民や被災者に対しての炊き出しだった。
香辛料の良い香りが、辺りに立ちこめる。カレーライスだ。
ちなみに陸奥市から、アヴァロンにカレーが持ち込まれたのも、つい最近だ。
香辛料はあったものの、それを併用して味付けしたカレー粉はなかった。
調理に手間がかかる料理は、アヴァロン星では発展しなかったと言える。
食べたアヴァロン人はカレーの虜になり、一気に流行る。もはや国民食だ。
さて、マゲイア人の反応は……
最初は不安そうに星騎士たちの様子を見ていたが、意を決してスプーンをつかみ、カレーをすくって口に運ぶ。
一口目は食べて、すぐに水を飲んだ。
二口目からは、もの凄い速さで食べ始める。あっという間に、カレーを平らげてしまった。
「うう――美味い!」
「こんなの食べたことない!」
「俺は今、猛烈に感動している!」
奴隷兵全員が泣いていた。
「すまない、もう一杯もらっていいか?」
「あるだけ、食え!」
「ありがたい!」
おかわりが殺到し、先を争うように貪り食べる。
これを見て星騎士達の見る目が変わった。
(……奴隷兵も同じ人間なんだな、我らと何も変わりはない)
恨みが和らぎ、戦争に疑問を持つようになる。
奴隷兵達の劣悪な環境にも同情する。
「どうして、こいつらと戦わなくちゃいけないんだ?」
「強制的に戦わされてるだけだろ? どうにか、できないのか?」
それは光太郎が常に、思っていることだった。
◇
基地の情報室から、光太郎と小玉は外にでた。
二人も夕食を取ろうと食堂に向かおうとしたところ、伝令に呼び止められる。基地内での祝勝会に呼ばれたのだ。
勝利が確定したところで、オルワンガル基地司令官が準備させていた。
「分かりました。行きます」
小玉もうなずき、会場へと向かう。テーブルには料理や飲み物がたくさん用意されていた。
突発的な宴会なので、会場内に飾り付けはない。
続々と人が集まると、基地司令官が前に出て音頭を取る。くどい前置きは無し。
「勝利に乾杯!」
「かんぱーい!」
全員がグラスを当てて、酒を一気にあおる。未成年の光太郎と小玉はジュースだ。
あとは無礼講、食べて飲んで喋りまくる。
光太郎と小玉は陰の立役者なので、皆から褒め称えられる。
次々と話しかけられ大変ではあったが、光太郎は真面目に対応した。
夜が更けても宴に終わりが見えない。それだけ、みんなが勝利を喜んでいた。
当然、次の日には二日酔いにはなるが。
(誰だって平和を望んでるんだよね。好き好んで殺し合いはしたくない)
光太郎は眠くなり、宴会から抜け出すことにする。
「ふぁー……すまない小玉、先に休む」
「ああ」
小玉は技術者達と談笑中、楽しそうであった。
喧騒から離れて、光太郎は宿泊所に向かい寝床に着いた。
大勝利したのにも関わらず、漠然とした不安がぬぐえないまま横になる。
「どうも、嫌な予感がする……」
光太郎は悪夢にうなされる。




