ルカの出番
有香と輝夜は回収宇宙船で合流し、外の様子を見ていた。
クラッカー作戦は成功し、船内でくつろごうと甲冑を脱ぎかけたところで、異変に気づき驚く。
「取り逃がしましたね」
「ええ……」
螺旋ドリルは確かに命中したが、当たる寸前にアバドンの尖端部が開いて、大型脱出ポッドが射出されたのだ。
枝豆の鞘から豆が飛び出たようで、楕円形で全長約三百メートル。
基地機能はなく非常用の脱出艦であり、中には奴隷兵達が乗っていた。
奴隷兵は自分達の判断で脱出していた。軍規違反の勝手な行動であろうが、命の方が大事だ。
あと少し逃げ出すのが遅かったら、死んでいただろう。ハサンの愚行に、つきあってはいられない。
脱出ポッドは無事、大気圏に突入する。
「しぶといわね。小惑星に爆弾もつければ良かったかしら? そうすれば、木っ端みじんにしてやったのに!」
有香は仕留め損ねて不機嫌になり、過激な発言をする。
女王になり国民を守ると決めた以上、敵に情け容赦はない。
それを非難する者には、「殺すつもりなら、殺される覚悟もありますよね?」と有香は問うだろう。
ルカやヒナは憎悪でマゲイアに相対するが、有香は道理にしたがって動く。
冷静冷徹なだけ、他の女王達より敵に対しては非情だ。
「……有香、それだとバラバラになった残骸が、アヴァロンに落ちて被害は甚大です。ぶつけて下に落とさないように計算するのは、結構大変でしたわよ」
「ごめん輝夜、軽はずみな発言だったわ」
「それに、もう手は打ってありますしね」
「ええ、海ではルカが手ぐすねひいて待ってるでしょう。もう絶対に逃げられない」
「私達より、ルカは甘くありませんから……」
二人は逃げた敵に、ほんの少しだけ同情した。
海上にはルカとオルフェーヴルがおり、パシフィス軍も海に展開していた。
アバドンの脱出ポッドが、アヴァロン星の大海洋に近づいて来る。
まだ遥か上空にあるが、落ちてくる火の玉をルカは肉眼で捉えていた。
女王の視力なら朝飯前、望遠鏡はいらない。ただし、ルカは不満顔である。
「あたしの獲物は、アレだけか……」
「贅沢、言わないの。光さんが言ってたでしょ、戦功第一だって」
◇
だいぶ前の、作戦会議での話だ。
降下要塞に対応するのに、持ち場と役割分担が決められたが、ルカは不平を鳴らした。
「海だけ守って待ってたら、マゲイアを一機も倒せないじゃない! 嫌よ!」
「パシフィス王国は海軍でしょうが! 他に誰が守るのよ、ルカ!」
水中型無人機および広域探査機は他の兵団には無く、海の知識経験も乏しかった。
パシフィス兵団にしか、やれない任務だった。
「だったら、あたしだけでも遊撃隊に入れてよ、輝夜。他国の兵団の末席でいいからさー」
「馬鹿おっしゃい! 兵団トップがいなくて、軍が成り立ちますか!」
「う――! 有香だって国を離れるじゃない?」
「私のとこは、母がいますから指揮に問題はありません」
ルカはマゲイアを叩きのめしたくて仕方ない。両親の敵だから当然だ。
敵が来るかどうか分からない任務はやりたくなくて、ゴネてプーたれる。
会議は紛糾し女王達が説得しても、ルカは聞く耳を持たない。
「やれ!」
「やだ!」
女帝に選ばれた輝夜に従わないのは問題だが、罰則はない。
ルカは幼馴染みに甘えており、輝夜もあまり強く言えなかった。
輝夜は困り果てる。面倒な役目を押し付けられた、クラス委員長のようだった。
(これでは埒があかないな。しゃーない、一席ぶつか)
光太郎はルカを見ながら、口を出す。
「そっかー残念だなー、この役目は一番手柄なんだけどね。輝夜さん、他の誰かに任せるしかありませんね。あー勿体ないなー」
「!――光様のおっしゃる通り、ルカが手柄を譲りたいのであれば、代わりを探しましょう」
輝夜は光太郎と、とっさに組んでルカを煽る。
「ちょっと! どういうことなのよ?」
「もし潜水艦でゲリラ戦をされるようになったら、アヴァロンの被害は甚大だ。それを水際で防いだとなれば、最上の武勲じゃないか! 雑魚敵を千機倒すより遥かに上だ!」
「そうですわよねー、いっそのこと私がしましょうか? ルカ、パシフィス軍を寄越しなさい。おほほほほほ!」
「いやいや、輝夜さんには別の役目がありますから。まあ、自信がある人にやってもらいましょう。ルカにはこの任務は無理そうなので」
この言葉に、ルカはカチンとくる。
「ふざけないでよ! 『出来ない』って言った覚えはないわよ!」
「でも、やらないんだろ?」
「いいわよ、やってやるわ! あたし以外にできっこないわ!」
「そっかーやってくれるか。実は内心、ルカしか出来ないと思ってたんだ。他の人じゃー不安で不安で、これで枕を高くして眠れるよ。マジ助かるわ。ルカは本当に頼りになるなー」
「ふ、ふん、しょーがないわね。今回だけは特別にやってあげるわ。別にアンタのために、引き受けた訳じゃないんだからね! あくまでも手柄が欲しいからよ! 勘違いしないでよ!」
(うわー、目の前にツンデレがいるのー、アホなのー)
(光太郎さん、のせるのがお上手ね)
(ふっ、チョロい女ね。まあ光太郎に頼まれたら、私も嫌とは言えないけど……)
女王達は成り行きを黙ってみていた。下手に口を出さず光太郎に任せる。
「分かった、分かった。それでもし、敵がこなかったら僕からお詫びの品を、ルカに贈るよ。いらないなら……」
「絶対もらうわ! じゃなくて、仕方ないから貰ってあげるわ!」
(凄い!……駄目押しね。挑発して褒めて持ち上げて、ルカにトドメを刺しましたわ。光様が口説いて、落とせない女はいないでしょう。結局、女帝なんて肩書きだけで、光様には敵いませんわ)
こうしてルカが、海の番をすることになった。
◇
「ホントに光太郎が言った通りになったわね。ちっ! プレゼントは貰いそこねたわ」
「惚れ直した? ルカ」
「これ以上、好きになるわけないでしょ!」
「そうよねー、光さんの全てが愛おしいのよねー。毎晩寝言で名前を呼んでるし、あんまりエッチな夢を見ちゃだめよ」
「な、何で知ってるのよ! はっ! あんた人の寝室のぞいてたわねー!」
オルフェーヴルはパシフィス城内の監視カメラを使って、出歯亀をしていた。
ルカの警護を理由に、無条件であらゆる回線にアクセスできる。
おねえAIは好奇心旺盛で、何にでも首を突っ込む。
「オルフェは見た! 女王ルカの秘め事」である。
他人の秘密を喋ったりはしないが、国中の情報を握っていた。
動く情報機関であり、危険極まりない。
「あんた! 喋ったらスクラップにするわよ!」
「おー恐いわ、記憶はしたけど、記録は消したから大丈夫よ」
「おんなじことだー! 記憶も消せ――――!」
「いやよん。ルカをからかうネタだもん」
どう見ても主従関係ではなく、悪友と言えよう。
もっともオルフェーヴルのような性格でなければ、ルカの相手は務まらない。
本来ルカは臆病で塞ぎ込みがち、あおるくらいでちょうどいいのだ。
「お遊びはここまでね。敵ポッドが来たわよ!」
「わかってるわ! 出番よ、サイレンス!」
ルカは秘匿兵器の名を呼んだ。




