アバドン
マゲイア部隊は分断され、機体同士の連携もままならず、反撃すら許されずに壊されていく。
メタル・ディヴァインとの性能差があきらかになり、まるで歯が立たない。
マゲイア軍、全滅は間近だった。
「もう駄目だー! 負けた――!」
「最初から勝ち目なんか、なかったんだ!」
「は、早く逃げよう!」
乗組員が慌てふためく中、ハサンが声を張り上げる。
立ち上がり、周りをにらみつける。
「静まれ奴隷兵ども! ま、まだアバドンがある!」
それは艦隊後方にある、巨大兵器のことだ。
ただし、爆弾のような武器ではなく、使い道は違う。
「無意味です、司令官代理! アバドンは移動型の戦略基地です。制圧した場所がなければ、袋叩きにされます。もはや、基地を守る無人機がありませんぞ!」
「えーい、黙れ! やつらがレムリアに集まってる今が、チャンスではないか! ――そうだ! 海だ、海に落とせ! 海溝なら手は出せまい? 橋頭堡は作れる!」
「それでは、降下した兵達は孤立することになります」
「そんなの知るか! 少しでも戦果を上げねばならんのだ! いいからやれ! 従わぬのなら貴様を抗命罪で殺す!」
ハサンは銃に手をかけ、参謀に向ける。目は血走り必死だ。
処刑されるかと思えば、冷静な思考をめぐらす余裕はなく、藁にもすがる。
もっとも、それが戦果と言えるのかは微妙だ。
判断するのはマゲイア貴族と領主である。
今のハサンにとっては、自分で思ったことが「実績」なのだ。
戦争に大負けした挙げ句、命がかかるとなれば、鬼気迫る形相にもなる。
幕僚達は従うほかなかった。
「わ、分かりました」
「アバドン発進準備!」
「周囲の警戒を厳にせよ!」
エレイン衛星の陰に隠れていた、巨大兵器が動きだす。
堕天使の名を持つ兵器が、アヴァロン星に向けて発進する。
アバドン。
全長は約千二百メートル、最大幅は二百メートルほどだ。かなり大きい。
双円錐の形をしており、そろばんの珠を思わせる。
本来の用途は地上に降下したのち、変形して臨時基地になる兵器だ。
砂漠・ジャングル・氷原など、過酷な環境で耐えられるように設計されている。
もちろん、深い海溝に落ちても水圧で潰されることもなく、防御は固い。
海に落とすのは、戦略としては悪くない考えだ。
海底では水が障害物となって、レーザーも銃もまともには使えない。
魚雷にしても圧壊深度に達すれば、壊れてしまう。互いに手はだせない環境だ。
これだけ踏まえれば、攻撃手段が無いように見えるが……少しはある。
ハサンは思いつかなかったが、アヴァロン側は用意していた。
アバドンは回転しながら、加速していく。
ヴィヴィアン衛星にいる駐留軍は、通過するのを指をくわえて黙ってはいなかった。
要塞司令官は艦隊を出撃させ、迎撃にでる。虎の子のアヴァロン戦艦だ。
自ら艦に乗りこみ、檄を飛ばす!
「ミサイル発射! ありったけ打ち込め! 絶対破壊しろ!」
「了解!」
噴射炎を吐き出し、次々とミサイルロケットが宇宙を飛んでいく。
ロケット形状は大小様々、効果も色々な弾頭を積み、アバドンへとまっしぐら。
当たれば、同じ大きさの小惑星なら、粉みじんに破壊できるだろう。
前回の隕石ロケットとは違い、敵無人機の守りはない。的はでかく戦果は十分期待できた。
狙い違わずミサイルは命中し、盛大な花火が上がる。
炸裂して飛び散る火花は、光色を変えながら消えていく。
綺麗ではあったが、目的は達していない。
「敵巨大兵器、健在! 映像分析したところ、ダメージはない模様です!」
オペレーターは的確に状況を伝える。
「ちっ! 斥力場シールドか? ならば、収束レーザー砲発射用意!」
「エネルギー充填完了!」
「撃て!」
時を置かず一条の光が戦艦から放たれ、他の戦艦もほぼ同時に発射する。
光は太い束になってアバドンに突き刺さる。通常であればシールドを貫通し、大穴が空くはずだった。
「レーザー前方にて拡散しました! 目標に届いておりません!」
「くっ! 今度は防御兵器か。やはり、女王様達にお頼みせねばならんか……何も出来ないのは、口惜しいが仕方がない……」
「……残念です。司令」
遠距離攻撃が効かないなら、残るは直接攻撃のみ。
ただ、アバドンは大きすぎる。破壊する手段はあるのか?
司令官は艦隊を引き揚げさせ、輝夜に連絡する。
「……ご苦労様でした。あとは私達で対処します」
『よろしくお願いします。おひい様』
輝夜は通信を切ったあと、皮肉っぽく笑った。隣にいる有香に話しかける。
「おほほほ、ガラクタ兵器ばかりじゃないようですね?」
「ええ、機動プリズムを大量にまき散らして、ミサイルとレーザーを防ぎましたわ。あの巨大兵器の斥力場シールドも強そうね。爆風やミサイルの残骸が当たってませんから」
「あの形状では質量弾が直撃しても、滑って弾かれてしまうでしょう……つるりんと。しかも高速回転してますから、ジャイロ効果で体勢は崩れない。やっかいね」
「わー大変だわ。さあ、輝夜どうしましょう? うふふ」
「分かりきったことを――そのために私達は、ここに立っているのですから」
二人に危機感はなく、冗談を言う余裕がある。
光太郎がこの攻撃を予測し、作戦を立てていたからだ。




