帰宅
「エリス違うだろ、ディヴァイナーだ。御者」
「そうだった」
「……直訳で占い師、馬よりはましだけど」
「助けて貰った礼に、騎士につぐ名誉を与えたのだが、気に入らなかったか?」
浮かない光太郎の顔を見て、エリスは不思議そうな顔をする。
レムリア人であれば、感涙のあまりむせび泣いても、おかしくはない。
王族から任命されれば尚更だ。喜ばない光太郎を見てる内に、エリスは気づく。
周りを見ると、風景や遠くにある建物が、見たこともない物ばかりだったのだ。
「そもそも、ここはどこなんだ?」
「日本の奥州陸奥市で、陸奥学園の裏山」
「……聞いたことがない地名だ。エクリプスどうなっているんだ?」
「光太郎、地図か衛星写真を見せてくれないか?」
光太郎はスマホを取り出し、地球儀アプリ「ぐるぐるアース」を起動した。
地球の画像を見たエリスは、驚き叫ぶ。
「これは! 私達の星じゃない!」
しばらくエリスは画面を、食い入るように横で見ていた。
光太郎は地球儀を回し、日本と陸奥市の場所を教える。
「今、僕達がいるのがここだよ。君達は別な星からやって来たの?」
「どうやらそのようだ。神殿遺跡に逃げ込んで黒い球体に飲まれ、いつの間にかここにいた。恐らく空間転移したのだろう」
「そうなんだ。どうりで見たこともない機械なわけだ。それで向こうでは追われていたの?」
「…………」
エリスは叔母とのやりとりを思い出し、顔を曇らせた。
黙ったエリスを追求はせず、光太郎は今後の話をする。
厄介事を抱え込んだ赤の他人の面倒を、普通の人はみないだろう。ましてや宇宙人だ。
光太郎は好奇心もあったが、お人好しゆえに関わろうとする。このまま放置する気にはなれなかった。
「ああ、詮索はしないよ。ところでこれから、どうする?」
「そうだな、どうするか」
「とりあえず僕の家に来ない……」
「世話にはならない。ここで暮らす」
エリスは申し出を断り、宣言した。
「野宿道具はあるし、山で獲物を狩れば食事はできる。もちろん乱獲はせぬ、水はそこらから汲めばいいだろう」
(お姫様に見えるけど中身は野生児だな、でもねー、ここじゃー野宿は無理)
「法律があるから勝手には住めないよ、野生動物も殺しちゃ駄目だ。それとね、水も汚いよ、あそこの沼を見てくれ」
近くの沼まで全員で歩く。
「こ、これは汚水の沈殿池か? 臭い!」
「ひどい言われようだけど沼だよ。魚もいるよ」
嗅いだことない悪臭に、エリスの鼻が曲がる。
光太郎が棒きれを沼に投げると、エサと勘違いして魚が寄ってくる。
「何だ! あの不気味な魚は?」
「ブラックバスという外来魚、一応食えるよ。ただ臭いはきついかな」
エリスは顔を左右に激しく振った。心底嫌そうだった。
「エリスの故郷は綺麗な所なの?」
「自然の全てが美しい所だ」
「こっちの世界とは違うみたいだね、陸奥市も自然が綺麗な方だけど」
「そうだな、私の常識は通用しないか……」
エリスは野宿生活が出来ないことを知る。
右も左も分からない異世界に来たのと同じで、しばらく黙り込む。
光太郎も何も言わない。二人とも緊張の糸が切れて、疲れが出始めていたのだ。
「誰かいる」
「えっ!」
エクリプスに言われて振り向けば、つなぎの作業服を着た大和ラボの研究員達がいた。
大型バンやトラックも近くに停まっており、破壊されたケンタウルを積み込んでいる。
また金属探知機を使い、地面に散らばった部品を回収していた。
「部品は欠片も残すな! とにかく全て回収するんだー」
「はい!」
指揮を執っているのは竹田文吾、側では喜久子がサポートしていた。
光太郎はうながす。
「行こう、僕の姉さんだ。エリスのことを相談しよう」
「わかった」
エリスは光太郎の後に続いて歩いていたが、近づいて喜久子を見るなり叫ぶ。
「母様!」
エリスは喜久子に抱きついて、離れない。喜久子は驚きはしたものの、エリスの髪を優しくなでた。
「あらあら」
「……すまない、人違いだ」
気まずそうにエリスは離れる。もうこの世にはいないと、頭では分かっていた。
されど母親への思いは、そう簡単に消える物ではない。
「あなたのお母さん、私に似ているの?」
「目と髪の色以外はそっくりだ」
喜久子はロングヘアで、優しい目をしていた。
見つめ合う二人の耳に、パンと鳴った音が聞こえてくる。
文吾が光太郎の頬を、叩いていた。
「先生!」
「貴様、何をしている!」
「黙ってろ! 今は光太郎と話をしている」
文吾は一喝する。
「裏山が立ち入り禁止なのは、知ってたはずだ」
「……はい」
「お前がこうなっていたかも知れんのだぞ!」
文吾はトラックに積まれた、マウンテンバイクを指さした。
それは踏みつぶされ原型を止めていない。人の体だったら無残に死んでいただろう。
光太郎の軽率な行動を、文吾は本気で叱る。
「……すみません」
光太郎は謝り、うなだれた。
それ以上、文吾は言わずエクリプスに近寄る。
「お主はひょっとしてドクター……か?」
「む……お前、AIじゃないな? ……そうか、あいつか」
「うむ」
文吾は喜久子に声をかける。
「エクリプスは俺が預かる。喜久子は二人を家まで送ってやってくれ」
「わかりました」
光太郎もエリスも疲れ果て、もはや喋る気力もなかった。ただ喜久子の後についていく。
流されるままに、喜久子の自家用車に乗り込む。
家に着いた後は、ゼリー飲料などで腹を満たし、二人は爆睡した。




