最下位騎士
「エリス! 動いては駄目よ!」
「けど姉上! 助けないと!」
アンジェラは、駆けつけようとしたエリスを制止する。
「推進剤と強化パーツは使い切ったでしょ。補給と機体点検が必要です。それとエリス、あなたも動きすぎです。少し、休みなさい」
「でも!」
「イザベル姉様が、手をうつでしょう。エリスだけが戦をしてるわけじゃないのよ。信じて任せなさい」
「そうだぞエリス、我はすぐには動けん。焦ってもどうしようもない」
「……分かりました」
エリスは暗い顔したまま、陣内へ向かう。
自分の無力さが恨めしく、歯がゆかった。
「残敵なし! 遊撃部隊撤収!」
アンジェラも、撤退命令をだして陣へと戻る。本当は、救援に向かいたくて仕方ない。
その気持ちを我慢して、怒鳴り声を張り上げる。
「あの馬鹿! 動くなって言ったのに!」
◇
飛び出した星騎士の名は、ウララ。
星騎士の序列は最近まで最下位。今は十騎長だ。
ウララの生い立ちは戦災孤児。とは言え悲壮感はなく、何事にも無頓着な性格だった。
風来坊な生活の果てに、彼女は王族兵団の入団審査を受ける。一年ほど前の話だ。
審査に経歴は問われず、だれでも受けることができる。回数制限もない。
問題は三か月間、新兵訓練施設での、地獄の訓練を耐え抜くことだった。
入団が許される合格者は一割にもみたず、大半が脱落していく。
「本気でやらなくてもいいや」
もともと国に奉公するつもりはなく、高い俸給につられて受けてみただけであり、落ちたとしても気にもかけない。
仮病・居眠り・誤魔化しと、要領よく訓練をウララはサボる。
他の志願者が脱落していく中、ウララは訓練期間を乗り切った。
お気楽さと生まれつきのタフさも幸いして、ウララは星騎士となる。
こうして末席に列なり活躍……はせず、酒は飲むわ、門限は破るわ、定期訓練に遅刻するわ、で生活態度は散々だった。
入団して間もなく、ウララは懲戒処分される。
犯罪でも起こさない限り、星騎士は罷免されない。その代わり予備役に落とされる。
その間、俸給が出ないのだがウララは生活には困らない。
破天荒な生き様に興味を持たれ、友人や仲間ができ、みんなに助けられた。
不真面目な奴がいてこそ、世の中は面白いのだ。
品行方正な者ばかりでは話題すらなくて、つまらない。この時分、娯楽は少なかった。
ただ、序列が高く真面目な星騎士達からは、嫌われていた。
「あの、穀潰し!」
ウララは欠員が出る度に星騎士に戻されるが、乱れた生活ぶりは直らない。
予備役に落とされては這い上がり、エレベーター騎士と揶揄される。
毎日をダラダラ過ごして一年が過ぎ、ウララの意識が変わる。
エリスとイザベルの戦い、そして隕石迎撃で活躍したエリスの姿を見て、感動したのだ。
「何て格好いいんだ! これが姫様!」
ウララはエリスに見とれた。美しさ、激しさ、強さに興奮する。
華麗な動きに、魅せられたと言っていい。
「私も、ああなりたい」
それはウララに限ったことではなく、誰もが憧れ抱いた感情だった。
それから、必死に訓練に取り組むようになるが、星騎士志望者が殺到して最下位の地位も危うくなる。
サボってきたつけは大きく新米達に抜かれそうになるが、星騎士の総数が増員されたおかげで、何とか最下位に留まることができた。
その後も懸命に努力を続け、実力はあがっていく。
これには馬鹿にしていた星騎士達も刺激され、ウララを見直す。
ついに努力が認められて、ウララは十騎長に昇進した。
しかし、女帝戦の武闘大会には選抜されず、悔しい思いをする。
あの白熱した激戦を見せられて、闘技場に立ちたいと思わない騎士はいない。
「次こそは私が! そしてエリス様の側近になるんだ!」
隣に並んで一緒に戦いたい。名前を呼んで欲しい。
「ウララ……」
「姫様……」
キラキラと輝くお姫様と手を合わせ、顔を寄せ合い、そして……眼を潤ませながら、ウララは妄想に耽る。
光太郎とアンジェラが聞いたら、
「えー! 美化しすぎじゃなーい? 実態はがさつで、強引で、暴れん坊なだけだよー」
「光太郎殿のおっしゃる通り、腕はまだまだ未熟です」と言うだろう。
エリスの側近になるのを夢見ながら、ウララは陣内にいた。
地上迎撃戦の様子を戦況モニターで眺め、エリスの勇姿に溜息をつく。
「どうして私は、お側にいれないのだ……」
実力不足なのは分かっていても、望みは捨てられない。
一緒に迎撃に出た部隊はいい、活躍の場を与えられたのだから。
残された星騎士達は不満に思う。
「私も手柄を立てたい!」という思いが強くなっていた。
レムリア軍が優勢なので尚更だ。守っているだけでは、我慢できなくなる。
ウララの忍耐は、限界に来ていた。
「戦いたい!」
それは些細なきっかけだった。
ウララの目の前にあるケンタウルが機体異常を起こして、交換されることになった。
無人機の何機かは、たまに動作不良を起こす。それでも少ない方だ。
ほんのわずかな時間、陣に穴があき、遠くの敵影が見える。
ウララは発作的に飛び出してしまった。つられて部下の星騎士達も追いかけてしまう。
マゲイアはこれを見逃さず、百機の無人機が迎撃に動いた。
もはや後の祭り、ウララ小隊は取り囲まれ、絶体絶命の危機におちいる。
友軍の危機にレムリア陣内では、上申が相次ぎ、千騎長らがイザベルに直談判する。
たとえ命令違反だとしても、見殺しには出来ない!
「助けにいかせてください!」
「自分だけでも救援に!」
「駄目です。全軍そのまま厳重待機」
イザベルは、にべもない。
「お願いします!」
星騎士達は頭を下げて頼み込む。イザベルとて見捨てるつもりはない。
しかし、この段階で陣形を乱してしまっては、作戦そのものが崩壊する。
それだけは何としても、避けねばならなかった。
「救援の必要はありません。すでに特殊無人機を向かわせました。総参謀……いや、光太郎さんの作った兵器を信じなさい」
「……分かりました」
「ですが、バックアップ部隊の編成は許可しましょう。いつでも出撃できるように準備しなさい。ただし、陣から出てはいけませんよ」
「はい!」
これで陣内はひとまず収まる。イザベルも苦しかった。
(やれやれ、星騎士達を押さえておくのも、もう限界ですね)
ウララ小隊は密集隊形を取り、何とか敵の猛攻撃に耐えていた。
それも、長くは持ちそうもない。
ウララは自分のうかつさを呪いながら、部下だけは守ろうと覚悟を決める。
「みんな、後方に血路を開いて逃げなさい! 一点突破です! 殿は私がやります」
「そんな、隊長!」
「いいから早く! もう持ちません!」
部下達は命令に従い、後ろに集まった。騎士槍を重ね合わせ、スラスターを全開にした。
一槍一丸となって敵に当たり、敵中突破を図る。
「後は追わせませんよ!」
ウララは孤軍奮闘、獅子奮迅。必死の覚悟で無人機を蹴散らす。
守護神が乗り移ったかのごとく、ウララは強かった。努力の成果だ。
しかし、やはり人の身、疲れが見え始める。
「はぁ……はぁ……」
そこに敵のミノタウロスが、真正面から突っ込んでくる!
「ふん!」
気力を振り絞り、騎士槍で牛頭を突き刺すが抜けなくなる。
マゲイア戦法だ。
左右からベスパが、長針を突き立てて襲ってくる!
ウララは騎士槍を手放して、つぶやいた。
「シールド・オン!」
メタル・ディヴァインの両脇腹にある、小型の盾が上に跳ね上がった。
そのままウララの両腕に装着され、円形の盾がベスパの攻撃を防ぐ。
マゲイア戦法対策だ。それも一時助かっただけで、次の攻撃を躱す力はなかった。
「……ここまでね、ハル」
「さようなら、マスター」
愛機が別れを告げると同時に、正面と真後ろから攻撃を受ける。
ウララのメタル・ディヴァイン――「ハル」は砕け散った。
「すまない、ハル」
空中に投げ出されたウララは、天使の羽を広げて飛ぶ。
陣まで逃げようとするが、前方にはベスパ二機が先回りしていた。
後ろからもミノタウロスが迫り、ウララは覚悟を決めて目を閉じる。
「さようなら、エリス様……!」
衝撃はやってこず、爆音が前から聞こえウララは目を見開く。
突風を起こして、ウララの脇を駆け抜ける機体がいた。




