カルチャーショックと従機馬
スコーピオンを操縦している奴隷兵達は、悲痛な声を上げる。
「また、やられた!」
「もう、操縦する機体がない……」
かけているゴーグルの視界が、次々ブラックアウトしていく。
スコーピオンが壊されてしまっては、操縦室から出るしかなかった。
戦果はゼロ。星騎士一人、メタル・ディヴァイン一機も倒していない。
部屋から出て、全体の戦況モニターを見れば、地上部隊は全滅しつつあった。
劣勢のひどさに、目を覆いたくなる。胸は不安でいっぱいだ。
「もう、勝ち目がない……」
「だな」
「どうする?」
「出立前に、司令官が言ってた通りにしよう。例の物の用意を――!」
「何だ、これは!?」
電波ジャックされたモニターに、様々な物が映り、音をだし始めた。
音楽・ダンス・映画・アニメ・お笑いが、一挙に艦内放送される。
視覚と聴覚から入ってくる情報は、刺激となって奴隷兵の脳に伝わった。
娯楽を知らない人間が、初めて見たらどうなるか?
当然、画面に釘付けになり、仕事の手が完全に止まる。
カルチャーショック作戦。光太郎の計略だ。
諜報工作部隊は、マゲイア艦の側に近づいてアンテナを建てていた。
そこから、ハッカー部隊が動画を流しまくる。
狙いは奴隷兵達に動揺を与えること。
脳が刺激されて、快楽を知ればもう元には戻れない。常に娯楽を求め、欲するようになる。
アヴァロン星は、日本文化にハマり毒された。
奴隷兵にも効かないわけがない。少しでも影響があれば、戦況が有利に働くだろう。
光太郎は、あらゆる手を考えていた。
「自我に目覚めて、反乱でも起こしてくれたら最高だけど……それはないな」
だが、光太郎が想像した以上に、奴隷兵達にとって文化は衝撃的だった。さらに……
『あーん、いや――ん!』
「おおおおおおお――――!」
目を見開かせる映像が、一瞬流れて消えた。
「誰だ――! A○を流した馬鹿者はー!」
「すみませーん。自分用のと間違えました!」
「わはははは!」
流石にこれは検閲されて、すぐに放送は止められた。
結果的に見れば、作戦効果は上がったと言える。
「奴隷兵は、何をしておるのか! さっさと放送を止めさせよ!」
「地上と連絡が取れません」
「馬鹿兵どもめ――! 敵の放送などに気を取られおって――!」
ハサンは味方を罵るが、どうしようもない。
全ての軍務を止めて、奴隷兵達は娯楽動画に夢中になっている。
任務放棄を罰しようにも、手段がない。
「どうせ負けるだろう」
と負け戦を確信してしまえば、やる気は失せる。
だったら、開き直って娯楽番組を見ていた方が楽しい。敵の策略だろうと知ったことではない。
こうして、無人機を操縦する者は誰もいなくなり、他の兵達も仕事をやめた。
旗艦からでも無人機の操作は可能だが、無線操縦者が足りない。
ハサンは仕方なく、AIによる自律制御に切り替えるしかなかった。
指揮制御は、いちじるしく低下することになる。戦況は不利になる一方で、好転しそうにもなかった。
「はぁ――――!」
「エリス、後方に三機だ!」
「はい、仕留めてから一旦下がります」
馬首を返してスコーピオンを神聖槍で倒す。ちょうど百機目だ。
もはやエリスにとって、無人機は敵ではなく王の力を使うまでもなかった。
エリスは戦闘に入ると、親衛隊を振り切って一騎がけする。
敵を見つけ次第、暴れ回っていた。
「はい、予想どおり単独行動ですね。どうも、ありがとうございます――て、散散するなって言ったのに……」
光太郎は頭を抱えながら、エリスとのやりとりを思いだす。
◇
光太郎は新型エクリプスを作る前に、エリスに聞いていた。
「側近は選ばないのかい? 女王を守る騎士がいないとまずいだろ?」
「足手まといだ。側でウロウロされたら、邪魔になって王の力が使えん」
「おいおい、もし敵中で孤立したら、いくらエリスが強くても不覚をとるぞ?」
「なるべく深入り、しないようにする」
「駄目だこりゃ! 何とかしないとな……」
まずはイザベルに相談し、護衛の親衛隊をつける。嫌がっても許さない。
無論、これでエリスを抑えきれるとは思わなかった。
「護衛は気休めにしかならないか……どうせ振り切ってしまうだろう」
エリスの猪突癖は直らないと感じて、光太郎は対策を考え込む。
その後、藤原理事長宅でアニメを見せられて、ヒントを得た。
「ああ! 武将に武器を手渡してる兵がいる。これは従兵ですね!」
「どうかな? 使えるんじゃないかな?」
「はい!」
(そうだ、エリス専用の支援兵器を作ればいいんだ! 武器を運び、護衛する無人機!)
FL計画の原点はここにある。そして最初に作ったのは……
◇
推進剤を使い果たし、エリスとエクリプスは補給に向かう。
道路を駆けてる途中で、物陰からスコーピオンが襲いかかる。
登っていた建物から、真下に飛び降りてエリスの死角を突く!
「しまった!」
気づくのは遅れ、回避は間に合わず、迎撃も出来ない。潰される直前――
横から黒い影が躍り出て、スコーピオンに体当たりする。
その影は、スコーピオンを噛み砕いて破壊した。歯は鋭く、噛む力は相当ある。
エリスを助けたのは赤色光眼、黒色の機械馬。本物の馬であれば青鹿毛だ。
その名は、
ブケファロス――従機馬。
エクリプスに影のように付き従い、エリスを守るための護衛機。
重種馬が、さらに大きくなった機体だ。迫力と威圧感が半端ではなく、力強い。
そして馬体には様々なパーツが、取り付けられていた。
それこそが、新エクリプスの秘密兵器である。




