十万本の騎士槍
「今の所は上手くいってるな、でも妙だ……」
「そうだな、奴隷兵が前線にいない。前大戦だったら、とっくに死体の山が出来てた。戦況モニターで見る限り、奴隷兵は一人も見当たらないな」
「マゲイアにも事情があるんだろうね。十五年経って少しでも内情が、変わっていればいいんだけど……」
「あまり、敵に期待するな」
「そうだね」
光太郎と小玉は人工島オルワンガルにおり、基地内の情報室から戦況を見ていた。
本来はレムリアに戻るはずだったが、女王達がそれを嫌がる。
「光太郎にもしものことがあったら、私は生きていけない。安全な場所にいてくれ」
「最前線からは離れてください。お願いします」
「あたしが片付けるまで、光太郎は引っ込んでなさいよ」
「お兄ちゃんは、ヒナの活躍をモニターから見てて」
「光様はお布団の中で、お待ち下さい。マゲイアをすぐに片付けて、夜伽に参ります!」
最後は「ふざんけんなー!」といつものごとく、喧嘩で締めくくった。
ともあれ、女王達に懇願されて、光太郎は島に留まることにする。
「分かりました」
実際、光太郎が前線でやれることはない。
防衛作戦にそって全員が行動中であり、いまさら指示は不要。
非常事態になれば連絡して、知恵を貸すくらいである。
光太郎が気掛かりでは、女王達は存分に力を振るえない。だからこそ後方に置かれた。
浮島のオルワンガルは海流にそって動いており、前線からは遠く離れて安全と言える。
光太郎の操縦問題は、未だ解決の目処が立っていない。
王の力が発揮できなければ、メタル・ディヴァインに乗る意味もなかった。
今やれることは、全員の無事を祈ることだけ。
(他にやることもないしね)
「む! マゲイア軍が動いた」
「今度はどうするつもりだろ?」
「ゆっくりと近づいて……陣に張り付いたな、あちこちを軽く突き始めたぞ」
「それって……」
「おお! どうやらシールド間の隙間を見つけたらしいな、潜りこもうとしてるぞ。あはははは!」
小玉は実況しながら、マゲイアを小馬鹿にしていた。
光太郎も安易な行動に、呆れかえる。
「……普通、穴があったら怪しむと思うんだけどなー……こっちの思う壺じゃん」
「考える頭がないんだろ」
「だよねー、どう見ても利口じゃない」
遠回しに馬鹿呼ばわりされてる、ハサンは苛ついていた。
「隙間を探して突入せよ!」と命令はしたものの、隙間に入りこんだ無人機が、前に進めずにいたのだ。
隙間に体半分が潜り込んだまま、動けなくなる。
「えーい、いつまでも何をやっておる! さっさと前に進まんか――!」
いくら急かしたところで、状況は変わらない。
後続機のミノタウロスが、前の無人機を押すがビクともしないのだ。
それもそのはず、穴は奥に行くほど狭まっていたのだ。
通り抜けるどころか、戻ることもままならない。
マゲイア無人機はジタバタもがくだけで、非常に見苦しくてダサい。
まさに「穴にハマって動けない」状態である。
隙間の穴は、レムリア軍がわざと開けたのだ。言うまでもなく、これは罠。
「いまだ――! 突け――!」
アンジェラの合図で、星騎士達が一斉に騎士槍を突き出す。
「おりゃ――――!」
「くらえ――――!」
突き出された十万本のランスによって、敵無人機は貫かれた。
円筒陣はサボテンのように、トゲだらけになる。
ある魚のように見えるので、「ハリセンボンの陣」と光太郎は名付けた。
この一撃でマゲイア軍は、十万機を破壊されて失う。
「なに――――!」
槍衾による反撃も、ハサンにとっては予定外だ。
そもそも、敵が攻撃してくることすら念頭にない。
自分達が強く、アヴァロンが弱いものと決めつけており、自惚れていた。もはや間抜けである。
これだけの損失にもめげず、ハサンは意地になり罠穴への再突入を命じた。
機関銃が待ち構えてる場所に、ただ撃たれに行くようなものだった。
「今の攻撃で隙間の穴は広がっただろう。それと敵陣はダメージを受けたに違いない」
自分の都合のいいように思い込み、愚劣な強攻策を命令する。
「もう一度、突入なさるのですか?」
「当たり前だ愚か者! この好機が読めんのか!?」
(どっちが、愚かだ!)
と声には出さず、幕僚達は黙って従った。もう、どうなろうと知ったことではない!
結果は同じ、陣から突き出された騎士槍で無人機は破壊され、さらに十万機を失う。
「やったー!」
「ざまあーみろ!」
星騎士達が歓声を上げる一方で、マゲイア軍は落胆する。
「ああ……」
「……なぜだ!」
「それはお前が馬鹿だから」
艦橋員達が、小声で悪口を言い始める。
あまりにも無能な指揮ぶりに、あきれ果てて怒りを覚える。
悪口はハサンの耳に届くが、聞こえてはいなかった。
もはや、周りを気にしてる余裕すらないのだ。自軍の損害の多さに色を失う。
戦闘開始から二時間が経過して、マゲイア軍は二割以上の戦力を失い、レムリア軍の被害はゼロ。




