鉄壁の陣
円筒陣に向かって、四方八方から同時にマゲイア無人機が押し寄せる。
堰を切った濁流のように、襲いかかっていく。
マゲイアの無人機は、機械蜂のベスパと、空飛ぶ雄牛ミノタウロス。
太い長針と二本角を武器に、スラスターを噴かして突撃する。長い角の尖端は、光る凶器。
対するレムリアの無人機は、人馬一体型のケンタウル改。
ケンタウルは敵を迎え撃とうとはしなかった……というよりは何もできない。
武器を何一つ、持っていないのだから当然だ。代わりに持っていたのは……。
加速で威力が増した突撃を、ケンタウルはまともに受ける。
当たった瞬間、ハサンはニヤリと笑った。
「そら、吹き飛べ! 壊れろ! 爆発しろ!」
そのまま無人機は陣深くになだれ込み、レムリア軍が崩壊していった……シミュレーションでは。
現実には、ベスパとミノタウロスが逆にはね返された!
武器の長針と二本角はへし折れ、何百という機体が大破して落下していく。
後方に飛ばされた機体は、後続機にぶつかって壊れてしまう。盛大な同士討ちだ。
一気に押し寄せたせいで、マゲイア無人機の被害は広がっていた。
ケンタウル達は、何事もなかったかのように、微動だにしていない。
「な! 何が起こった!? 一旦、部隊を引け!」
「はっ!」
ハサンの後退命令は幕僚から通信兵を通し、空母にいる無人機操作兵に伝達されて、ようやく実行される。
攻撃が停止されるまでに、かなりの無人機が無駄になった。
遠回りな命令系統は、後々響くことになる。
時間をかけて、マゲイア無人機は体勢を立て直す。この間、レムリア軍はチャンスにも関わらず、攻めようとはしなかった。
「部隊再編を完了しました。隊列も御指示通りにしました」
「よし、もう一度突っ込め! 今度は一点に集中しろ! さっきのは何かの間違いだ!」
ハサンは突撃場所が悪かった程度にしか、思っていない。
今度は一列縦隊に並んだ雄牛が、後から前を押すように突き進む。
戦法としては悪くない。ミノタウロスが一本の破城槌となる。
が、破城槌の方が砕け散った。
先頭が前に進めず、味方から押しつぶされるような格好になったのだ。
被害は一か所だけに留まらない。同時に他の場所も攻めていたので、たくさんの機体を失う羽目になる。
今度はおしくらまんじゅう状態での自滅だ。餡子は出ずにゴミとなる。
わずかな時間で、無人機一万機以上がスクラップと化す。
「ばかな!」
ハサンは信じられず、戦況モニターの前で固まってしまう。
全く予想だにせず、想定外のことが目の前で起きた。
マゲイア軍は初手から、つまずくことになる。
レムリアの無人機、ケンタウルが持っていたのは巨大な盾だった。
機体の前面をすっぽり覆うほどで、かなり大きい。
盾と盾の間にほとんど隙間はないが、デカすぎて身動きはとれない。
ケンタウルは盾兵となり、縦横に並んで城壁になっていたのだ。
ただ、盾は分厚いわけでもなく、改良したケンタウルもさほど強くはない。
マゲイアが使用している、ミスリル系武器でも十分通用するはずだった。
ミスリル金属は、アヴァロン星のオリハルコンに匹敵する。
これに加速をつけて攻撃すれば、吹っ飛んでもおかしくない。
しかし、盾には傷一つついていなかった。
「馬鹿な! 馬鹿な! 嘘だ……」
ハサンは訳がわからない。頭は真っ白。
予想外、想定外のことには対応できない役人であった。
戦争が作戦計画書どおりに進めば、ハサンでなくても勝利できる。
生憎、戦いは事務処理のようにはいかない。
マゲイア司令部には、対処できる者は誰もいなかった。
ハサンより有能な幕僚らも、協力する気はなかった。
「ムー王国での被害も増大しております。いかが致しましょうか? 司令官代理」
「とっとと止めろ! この役立たず!」
「……失礼しました。直ちに」
ムーでも同じ戦法で攻めていたが、結果は同じだった。
幕僚に当たり散らし、ハサンは親指を噛んでいらつき始めた。
思い通りにならなくて、不機嫌になった子供のようだ。
「……ここまでの戦闘記録を映せ! スローモーション再生だ!」
ハサンはようやく現状把握に動き出す。
冷静になったわけではなく、単に思いついただけだ。
ビデオを見て、ハサンは驚く。
「何だこれは! 盾に当たる前に弾かれてるだと! シールドか!?」
そう、マゲイア無人機をはね返した秘密は、盾から発生している強力な斥力場シールドだった。
ケンタウル自体に、それほどのエネルギーはない。では、どこから持って来ているのか?
マゲイア軍からは見えないので、レムリア陣内から後ろを眺めてみよう。
おお! 星騎士の尻が見える……じゃなくて、ケンタウルの尻尾がある。いや、尻尾にしては長すぎた。
どこまでも長く地面の下まで続くそれは、尻尾ではなくアンビリカルケーブルだった。
二十万本の先には地下にある動力炉、オリハルコン機関につながっていた。
首都ヒラニプラの全域を賄えるほどのエネルギー源を、シールドの動力源として使ったのだ。
ちなみに、都市の防御塔に使うはずのエネルギーも全て回している。
よって防御塔は、現在機能していない。
その代わりに、ケンタウル一機一機が防御塔になったのだ。
大型ミサイルの直撃にも、高出力レーザーにも耐えられる。
マゲイアの無人機が束になったところで、この盾を破れるわけがなかった。
唯一の弱点は、ケーブルによりケンタウルに移動制限があることだった。
◇
第二次マゲイア大戦が始まるずっと前、光太郎は作戦会議で言った。
「機動戦はしません。最初のうちは防御に徹します。絶対に敵を攻めないで下さい」
これは無人機やメタル・ディヴァインの使い方としては、間違っている発言だ。
運動性と機動性こそが、兵器としての持ち味なのだから。
「光様の意見に賛成します」
しかし、輝夜を始め反対する女王は誰一人としていない。理由が痛いほどわかってるからだ。
「では、おさらいをしましょう。みんなも知っての通り、前大戦でのマゲイアのやり口はひどかった。まず星騎士一人に対して、奴隷兵が相打ちをしかけてきます。それでも、星騎士は上手くかわして、奴隷兵を貫きますが……」
「奴隷兵は貫かれたまま、武器を掴んで離そうとはしません。星騎士はナイトランスを引き抜こうとしますが、びくともせず焦ります……」
「動きが止まった星騎士に、左右から別の奴隷兵が槍で突っ込んでくるの――!」
「そうだね、ヒナちゃん」
「これで星騎士は、次々と倒されてしまう。更にマゲイア無人機は、奴隷兵を盾にして突っ込んできて、奴隷兵ごと星騎士を刺し殺すわ」
「人を平気で投げつけたりもするからね。えぐいので、戦闘映像を見てるのは辛かった」
「だからあいつらは狂人なのよ! 味方ごと殺す戦法なんて獣以下よ! 鬼畜は生かしておく必要もないわ!」
激しく憤ったのはルカだ。まあまあと、光太郎はなだめる。
「この戦法で多くの星騎士が命を失いました。単騎で敵に立ち向かっては、やられてしまう。今回も恐らく、数的には圧倒的に不利になるでしょう。となれば、また袋だたきの目に会います。そこで首都に陣を張って、防御戦をします」
「ズルズルと消耗戦に巻き込まれれば、ボロボロになって全軍へのダメージは計り知れません。形勢は不利になり、前大戦の二の舞になってしまう……そうですよね? 光様」
「ええ、輝夜さん。そこで具体策なんですが、戦国武将に倣いましょう。無人機は石垣、無人機は城。無人機を並べて城壁を築きたいと思います。都市とみんなを守る、巨大な盾をつくるんです」
全員がうなずいた。これ以上の手はない。
本来の名言と意味はかけ離れていたが、戦法としては有効だ。
光太郎の発案を元に、陣の細かい点が詰められた。あとは各王国で陣をしく演習が繰り返され、今日に至る。
こうして強固な陣ができあがり、マゲイア軍は歯が立たずにいる。




