首都包囲
マゲイア艦隊は高度を下げて、進軍を開始する。現在は東南の海域におり、そのまま北上を始めた。
目指すは王国首都、占領目的地はムー王国、そしてレムリア王国だった。
狙いはムーのオリハルコン鉱脈、戦略物資を押さえるのは戦争の基本と言える。
ムー王国に比較的近いレムリアは目障りで、挟み撃ちされる前に潰す。
ほどなくマゲイア軍は二手に分かれ、二王国を目指す。兵力が分散して、半分になっても数は多かった。
進軍航路上に敵影はなく、妨害も受けずに艦隊は進む。
アヴァロン側は下手に手は出せない。仮に挑んだとしても、少数の部隊では袋だたきにされるのが落ちだ。
ゆえに兵力は首都防衛に集中させている。
マゲイア軍はここまでは順調、侵攻作戦に何の問題はない。
ハサンも勝算もなしに仕掛けるほど馬鹿ではなく、作戦計画を綿密に立てて、量子コンピュータで計算させている。
この点は光太郎と同じだ。
シミュレーションバトルでは完全勝利し、ハサンは作戦に自信を持つ。
ただし、ミウの報告データは含まれておらず、不確定要素も計算されていなかった。
ハサンは恐るべき策士が、アヴァロン星にいることを知らない。
光太郎という計算外な存在が、戦場を大きく変えようとしていた。
「もうすぐ、敵首都か」
ハサンは旗艦のモニターで中継映像を見ている。アヴァロン星には降りず、宇宙にいたままだ。
危険な前線で指揮する気など更々なく、指揮官席に座り威張りちらしている。
レムリア首都が見えてくると、大仰な手振りで命令した。
小物臭さを全身から漂わせ、やたら格好だけはつける。
「機動空母から全無人機を発進させろ! 敵陣を取り囲め! 空になった空母は後方で待機、対空警戒を怠るな!」
「……了解しました」
幕僚達は命令に従う。ハサンを苦々しく思っているが我慢していた。
マゲイアの無人機群が、首都ヒラニプラを包囲していく。その数、百万。
「あの日……青い空を眺めていたら、突然あたりが暗くなった。空一面をマゲイアの無人機が、埋め尽くしたせいだ……」
星騎士の回顧録には、そう書かれることになる。
事実、どこを見渡しても敵だらけで逃げる隙間もない。首都は全周包囲された。
大軍を迎え撃つレムリア軍の兵力は、無人機二十万機、星騎士十万人。
無人機の兵力差は、五対一。
圧倒的に不利に見えるが、レムリア星騎士達に焦りはなく、怯えの色もなかった。
全軍を指揮しているのは、将軍イザベル。
「数だけは、揃えてきましたね」
「ええ、姉上。質の違いを思い知らせてあげましょう!」
「光太郎さんの作戦もありますしね」
二人は自信ありげに笑う。訓練を重ね、兵器の性能も向上させてきたのだ。
万全な態勢で迎え撃つ! 負ける気はしない!
何より、光太郎の存在が自信の源になっていた。
もはや天宙神が異世界から使わした、救世主として崇められている。
風評は広がる一方で、宗教になりつつあった。
「勘弁してくれ――――!」
光太郎は自分の状況を嘆くが、どうしようもない。
寄ってくる女達だけでも大変なのに、頭痛の種は増えるだけ。
たとえ光太郎が望んでなくても、アヴァロンの人達にとっては希望の光なのだ。
マゲイア無人機は配置を完了し、戦闘準備が整った。
ハサンはレムリア軍の少なさを、あざ笑う。
「くくくくく! それぽっちの兵で、我らに挑むとはレムリアンは戦を知らぬらしい。いや、兵員補充が間に合わなかったのか? 哀れなものだ。おい! 他国の様子はどうなっておる?」
「はっ! 全く動きがありません」
幕僚の一人が答えた。
「こちらに来る様子はないのだな?」
「はい……」
「ははははは! 他国は傍観を決め込んだか、薄情で馬鹿な奴らだ。次は自国が滅ぼされるとも知らずにな。降伏したところで、皆殺しにしてやる!」
ハサンは驕り高ぶる。報告を聞いて勝利を確信した。
確かに表面上、各国に動きはなく援軍を出そうとはしていない。
「楽勝だな、これで某の地位は決まった。爵位が与えられ貴族になれる。そして属星総督に選ばれるのは確実! ゆくゆくは大宰相に……くくくくく」
ハサンの嫌らしい笑いは、幕僚達にドン引きされる。
捕らぬ狸の皮算用。出世を夢見てるハサンを、冷ややかな目で見ていた。
幕僚達は奴隷兵であり、本国の役人ごときに臣従してはいない。
奴隷兵達が敬服しているのは、ただ一人。自分達の代表である司令官が来るのを、ひたすら待ち望んでいた。
レムリア軍に動きは見られない。陣形を保ったまま、まったく動かずにいた。
ただ、陣中で我慢している者が一人いる。エリスはイライラしながら待機中。
「エリス、逸るなよ。出番は、まだまだ後だぞ」
「分かってるわよ、父上。光太郎の作戦が台無しになるからね。あーそれにしても、早く戦いたい!」
「やれやれ」
エクリプスの上で、せわしなくエリスは動いていた。
短気な猪娘は、単騎で突っ込みたくて仕方がない。
一騎がけは戦場の誉れ、自分の母親に憧れている所もある。
最近になってから戦闘記録を見るようになり、改めて母親の強さを思い知る。
「母様は強かった。それに恥じぬように私も戦う!」
心がけ、心持ちは立派でよいが、大将の一騎がけは本来許されるものではない。
前大戦は劣勢で仕方なく、女王自ら槍を振るったのだ。本来女王は護衛に守られて、しかるべし。
そこでイザベルは、エリスの親衛隊を組織する。
側近を選ばないエリスに、業を煮やして強引に側につけた。
親衛隊の役目は、エリスの護衛ではない。エリスの猪突猛進を止めるのが任務だ。
もっともエクリプス自身が動かなければ、エリスも戦いようがなかった。
父親は娘を思い、状況が変化するまで待機する気でいた。
その代わり、娘の愚痴を聞き続ける羽目になるのだが……エンドレスで。
「ぶつぶつ、グチグチ、あれこれ、あーだ、こーだ――!」
(はあー、これはきついな……光太郎、代わってくれ――――!)
そしてムー王国も布陣したまま動いてはいない。
レムリア同様、首都エルドラドは包囲下に置かれていた。
まだ戦端は開かれてはおらず、両軍にらみ合ったままだ。
アトランティスはアクロポリスの守りを固めたままで、こちらも変化は見られない。
パシフィスはポセイドニアを、無人機だけが守っていた。
いつのまにかルカと星騎士達の大半が姿を消していたが、マゲイアは気づかない。
影武者ならぬ、立体映像を映して不在を隠していた。
メガラニカ軍は絶壁岩の中に隠れたまま、様子がうかがい知れない。
ヒナも首都にはいなかった。
宇宙から観測する限り、攻めこまれている二国へ向かっている軍は見当たらなかった。
ただしエリス以外の女王達は自国にはおらず、光太郎が立てた防衛作戦にそって行動中。
光太郎は言っていた。
「最初から手の内をさらしたら負けですよ。こちらの動きを見られても、覚られてもいけない。それとカードを配られてから、勝負するのでは遅い。カードを配られる前に勝っておかないと」
ようは敵の動きを予測し、あらかじめに手を打っておくことなのだ。
さらに、勝つためには手段は問わない。イカサマだろうとインチキだろうと、あらゆる手を使って勝つ。
絶対に負ける訳にはいかない。戦争はゼロサムゲームなのだ。
援軍がやってこないまま、戦端が開かれる。
満を持してハサンは命令した。内容は単純、皆殺しだ。
「行け、殺戮せよ! 奴らを根絶やしにするのだー!」
ついに戦いの火蓋は切られた。




