女帝戦初日、午後
「じゃーまずは……」
光太郎はケイロン達にスクラムを組ませた。まるでラグビーだ。
一塊となった集団を、前陣中央にぶつけた。中央はヒナが指揮している。
スラスターは全開、威力のある突進力に押されて陣形が崩れる。
「うわ! うわ――――!」
もろにタックルを喰らった星騎士達は、押し退けられケイロン部隊は中央突破を図る。
『みんな密集隊形をとるの! 突破されちゃダメ――――!』
ヒナは指示するものの、部隊間が広がっていたせいで、集結が上手くいかない。
陣形の隙をついた不意打ちだ。
ましてや真正面からくるとは、誰も思ってもみない。
右翼と左翼にいるエリスとルカは、ヒナを援護すべく挟み撃ちを狙いにかかる。
『いきなり、やってくれるわね』
『だから、光太郎は怖いのよ。まあ、そこがいいんだけどね』
ヒナは押し込まれたものの、突破されず何とか態勢を保つ。
その間に、エリスとルカは部隊移動を終えていた。凹形陣ができあがる。
形勢逆転、包囲下におかれるが、光太郎は慌てて後退しようとはしなかった。
次の準備が完了していたからだ。
『いけ――!』
エリスとルカの部隊が左右から迫る。光太郎は少し待ってから動いた。
「いまだ!」
ケンタウルは上下に分かれて逃げだす。
包囲された時点でスラスターを上か下に向けており、これで素早く逃げるのに成功する。
ただ後退する敵なら追いかければいいが、上下に逃げられてしまっては、戸惑うしかない。
「えっ? どっち? どっち?」
「上? 下?」
迷っている間に、目の前には味方が接近していた。
勢いをつけすぎたせいで、右翼と左翼は鉢合わせしてしまい、同士討ちになりかける。
「きゃ!」
「避けて――!」
「こっちこないでー!」
ぶつかり、逃げ回り、両翼部隊は大混乱状態に陥る。
中央のヒナは何も出来ず、見ているしかない。
光太郎は無人機部隊を再集結させ、エリスの部隊を後方から襲う。
体当たりだけだが、実戦だったらとっくに部隊は壊滅していただろう。
もはや、軍としては瓦解している。
「そこまで!」
輝夜が模擬戦を止めた。部隊統制を失った以上、続けても意味はない。
光太郎は立方体陣に戻して無人機を退いた。
エリスとルカは、後退再編にもかなり手間取る。指揮能力はまだまだ足りない。
「流石は光太郎さん!」
有香は中陣から見ており、背筋を震わせながら興奮していた。
身体的強さなら、女王や星騎士が遥かに上だ。
ゆえに並の男には靡くこともない。
しかし、光太郎は知力で上回り、女達を惹きつけてやまない。
「凄い!」
本陣で見ていた星騎士達もざわめく。
改めて光太郎を畏怖すると同時に、味方で良かったと安堵している。
イザベルとアンジェラは感想をもらす。
「立体戦場ならではの動きでしたね。両翼展開からの包囲殲滅は基本ですが、練度不足では連携もとれずに失敗しました。光太郎さんにいいように、遊ばれましたね」
「この分ではアヴァロン全軍でも、光太郎殿お一人に勝てそうにありませんね」
「いやいや、まだ経験が足りないだけだと思います。場数をこなせば、みんな強くなりますよ」
「光様は謙虚ですねー、それに比べて……」
『ルカが突っ込みすぎなのよ!』
『いーや、エリスの部隊がバラバラだったせいよ!』
『もう、喧嘩しないの! 二人とも部隊を早く動かしすぎなのー』
『『やかましいわ! あんたのとこは遅いのよ!』』
三人は無線で口喧嘩を始め、丁丁発止とやりあう。
責任のなすりあいだ。敗因を自分のせいにはしたくなく、反省はない。
「はあー……まあ、こうなるとは思ってましたが」
輝夜は盛大にため息をついた。光太郎は意見を述べる。
「やはり万を超える軍勢では、部隊指揮は難しいと思います。中核となる千騎長と百騎長に、自己判断である程度動いてもらった方がいいかもしれません。女王からの指示が遅れてしまう場合もありますから」
「はい、臨機応変に動いてもらうには、部隊長の裁量に任せた方がよさそうですね。私は総大将と言っても、前線指揮官にまかせるしかないのですから」
「実戦ともなれば、もっと部隊はバラバラになるかもしれません。そうなると、マゲイアに付け込まれてしまう」
「それで前大戦は乱戦に持ち込まれ、多大な犠牲者を出しました。けれども今回は、光様が立てた作戦案があるので、勝てると思います」
「上手くいけば良いですけどね……」
(だけど、勝っても勝ち続けても、戦争が永遠と続くんじゃ意味がない。完全に終結させないと、悲劇が終わらない。輝夜さんに戦略はあるのかな? だけどマゲイアがなー……)
輝夜は光太郎を見て察したが、ハッキリとはこたえなかった。
「まずは優位に立ちたいと存じます」
輝夜に考えはあるが、か細い蜘蛛の糸をたぐるような困難を極める戦略だった。
女帝になる前から、秘密裏に手は打っている。
……最終的には自分の命を投げ出す覚悟だった。
演習三巡目。
昼食を終えて後方にいた部隊と入れ替わり、今度は有香と輝夜とそしてイザベルが指揮をする。
イザベルは将軍に任ぜられ、全兵団を統括する。副将軍はアンジェラだ。
実力もさることながら、前大戦で生き残った勇士は尊敬の的でもあった。
任命に反対する者は誰もいない。
立ちはだかるのは、またもや光太郎。
今度は、中央の輝夜と右翼の有香の間に、無人機を強引に割り込ませた。
挟み撃ちに動こうとするが、二巡目の同士討ちを見てるので、星騎士達は消極的になってしまっていた。
おっかなびっくりしながら部隊が動く。はっきり言って動きが遅い。
光太郎は挟撃されるのを、待っていなかった。
そのまま直進して右に回り、左翼の後を襲う。
部隊の動きが鈍くなるのを予想し、即陣突破して背後を狙っていたのだ。
「やるなー、読んでましたね、イザベルさん」
光太郎は笑った。
後背を突くのに成功したかに思えたが、イザベルは左翼部隊を百八十度回頭させて、待ち構えていたのだ。
不利を覚った光太郎は無理には攻めこまない。無人機に正面を向かせたまま後退させる。
イザベルも警戒して追いかけない。取りあえず光太郎に一矢報いた形となった。
(ボロ負けじゃー士気も下がるから、これでいい)
この時点で輝夜は演習を止める。もう日は傾いていた。
「これにて、合同軍事演習を終了します」
初日が終わり、全員明日の準備に追われることになる。




