女帝戦初日、午前
アトランティス大陸から北に五百キロ、洋上に島があった。
海上に浮かぶ人工島――オルワンガル。
円形で直径三百メートルの共同軍事基地だ。
宿舎・レーダー・発着場・指令所などがあり、中継地点としての役割を持つ。
戦場から送られてくる情報を、収集する場所でもあった。
五大陸の中心の島で、いよいよ女帝戦が始まる。
初日は、五王国による合同軍事演習。
たなびく国旗を前に星騎士達が整列していた。その数、五万人。
国ごとに選抜された精鋭達だ。アヴァロン全軍ではなく、大半は国の守りについている。
惜しくも選ばれなかった者達も、見学を許されて島に来ていた。
基地の司令塔から、輝夜が命令する。
「築陣開始!」
星騎士達が順序よく空へ飛び出し、それぞれ所定の場所へと向かっていった。
百騎単位で編隊を組み、それらが縦横に並んで面を作る。千騎で一個大隊になる。
全軍が移動を終えて、空中陣形が完成した。
右翼・中央・左翼があって、これが前陣で横に並んでいる。
その後方に、中陣と本陣があった。基本陣形の構築は上手くいったといえる。
各国兵団による訓練の賜だ。問題はこれからだった。
星騎士達の演習相手は無人機一万体。前方に立方体陣形で纏まっている。
武器は何一つ持っていない。
全軍の準備が整ったところで、輝夜の姿が空中投影された。
巨大化されて迫力がある。
広げていた扇子をパチンと片手で閉じ、前方を指して号令を下す。
「神機進軍!」
「うおおおおお――――――――!」
大軍勢が鬨の声を上げる。大音声は鼓膜が潰れそうなほどだ。
前陣が一斉に突撃し、敵に見立てた無人機に突っ込んでいく。
間合いに入るなり、騎士槍を繰り出す。
金属同士がぶつかり、火花を散らす。
激しい戦闘に見えるが、無人機は防御に徹しており攻撃はしてこない。
演習で死傷者を出したら、本末転倒だ。あくまで訓練である。
十五分ほどして、待機していた部隊と交替する。
三十分ほど経つと全軍が後退し、陣を再構築してから休憩に入る。
陣のすぐ後ろには長方形の箱が連なり、空中に浮いていた。
星騎士達はその箱のドアを開けて、代わる代わる中に入っていく。
白い箱は演習場の至る所にあり、中の様子を見ることはできなかった。
微かに水の音は聞こえる。ドアに表記されてる文字はSC。
指令所には光太郎と小玉がいた。
リアルタイムで送られてくる演習データを、複数のモニターで見ている。
データを分析して、問題点を洗い出す作業をしていた。
「どう? 小玉」
「予想よりSCの利用者が多い。これは予備を出しても足らないな」
「しゃーない、今日は順番待ちしてもらおう」
「そうだな、今夜にでも工場から運んでもらおう」
「星騎士達の様子は?」
「センサーで見る限りバイタルサインは平常で、ストレスサインは見受けられない。SC利用後のやる気は上がっている。FL計画の一部は成功したと言えるだろう」
「それは、良かった」
「だがすでに要望が上がってるぞ。『数をもっと増やして、待ってられない』『中が狭い、広くして』『殺風景だから、壁紙を貼って花を飾って』などだな」
「うざっ! 贅沢を言うな……と言いたいけど、前線で戦う騎士の要望はかなえないとね。発案者としては無視するわけにもいかないよねー」
「女は基本、わがままなんだよ。ふふふ」
めずらしく小玉は笑う。自分が作った物が、上手くいったので喜んでいた。
この演習ではFL計画の、実戦テストも兼ねていたのだ。
「で、新型無人機は無事?」
「かなり攻撃されてボロボロだが、強化装甲は破られてはいない。マゲイアのベスパ程度だったら傷もつかないだろう。機体に異常はなく、概ね良好だ。盾としての役割は十分果たせると思う」
「そっか、FL計画の肝だからほっとした」
FL計画――正式名称は「FL作戦計画」。
最初のローマ字は、前線兵站の略である。
これは前線にいる星騎士に、武器や食料などをすぐに供給する作戦だった。
補給だけではなく、戦闘のサポート全般を目的としている。
そこで光太郎と小玉は「支援兵器」を開発し、いくつもの試作品を作った。
それを元に各国では、量産化が始まっている。
演習は続く。今度は光太郎が無人機を指揮する。
動かぬ案山子相手では、訓練にはならない。
ここからが本番で、女王達の指揮能力が試される。
「じゃー始めますね、輝夜さん」
「光様のお好きなように、一丁揉んでやってください。ついでに私の胸も!」
「ゴホン! 演習二巡目、開始!」
後半の台詞は聞き流し、光太郎は言った。
前線に緊張が走る。指揮をするエリス・ヒナ・ルカも気を引き締めた。
『光太郎は何をしてくるか、分からないわよ。二人とも気をつけなさい』
『そんなのは知ってるわよ! 痛い目にあったから。エリスこそ足を引っ張らないでよ!』
『わくわく、楽しみ』
兜に内蔵されたインカムで、女王達は話をしていた。
三人は自機のメタル・ディヴァインではなく、指揮用無人機に乗っている。
女王は全軍を指揮する必要があるので、これも訓練だ。
空中投影された九面モニターとにらめっこしながら、指揮に悪戦苦闘する。
星騎士達も上手く動けず、なかなか思い通りにはいかない。
三万対一万の戦い。兵力差は三対一。数的に見れば無人機側が、圧倒的に不利。
しかし、模擬戦を見ている誰もが光太郎が勝つと思っていた。




