野宿
「レムリア城が見えた。ようやくヒラニプラに帰ってきたね」
「うむ、長いようで短い旅だったな」
「酷い目にもあったけど、この旅は楽しかったよ」
およそ半月ぶりに、光太郎はレムリアに戻ってきた。
「あー、これからやる事が一杯あるなー、少し憂鬱だ。そう言えば、テントは使わなかったね。野宿をやれなくて少し残念」
「光太郎は移動中に寝てることが多かったからな、あとは街の宿に泊まったし。また機会もあるだろう」
「そうだね、さあ城に入ろう。もう日も傾いてきた」
「光太郎殿ー!」
城門でエリス、アンジェラ、イザベルが迎える。
三人とも城内では待ちきれずに、昼間から外にいた。
光太郎の無事な姿を見て、安堵する。
「ただいま帰りました」
「光太郎さん、おかえりなさい」
笑顔の挨拶を交わして、全員一緒に城内に入った。
光太郎の帰還を祝して、身内だけの晩餐会が開かれる。
三人にお土産を渡し、土産話に花を咲かせる。
「アヴァロン星は、地球……いや、日本文化の影響を受けすぎましたね」
「ええ、レムリアにも文化は広まっています」
「星騎士が娯楽にうつつを抜かすので、少し困りものです」
「ははは、そうでしたか」
(これなら、僕の計略もいけるかな)
「国ごとにそれぞれの産業が発展してて、豊かだったよ。自然はどこも綺麗だったしね」
「そうか、光太郎は旅に満足したようだな」
「うん、レムリア国内もよく見たいから案内を頼む、エリス」
「まかせろ」
エリスの様子は平静そのもの、旅に出る前とは打って変わり、近寄ってはこない。
真正面に座り、適度な距離をとっている。
前だったら、光太郎のパーソナルスペースは存在しなかった。
(もうエリスは大丈夫だな)
だが、話が進むにつれ雲行きが怪しくなる。
「各国のどこを巡ったんだ?」
「えーと、ルカとはビーチに行って、輝夜さんとは噴水広場、ヒナちゃんとは湖、有香さんとはゲーセン」
「……ちょっと待て、光太郎。それはデートというものではないか? 私をさしおいて、他の女王達と先にするなんて、どういう了見だ! 私とは一度もしてないのに!」
「いやいや、観光案内してもらっただけでデートじゃないよ。接待を受けただけだよ」
光太郎の感覚では、女王達は案内人に近い。
他人が聞けば、百人中百人「それはデートだろ」と言うだろう。
当然、エリスは納得せず不機嫌になり、口調も荒くなる。
「う――聞くが、女王達と何もなかったよな? 間違いとかおこしてないよな?」
もう詰問だ。光太郎はバカ正直にこたえた。
「ないない、絶対ない! 手なんかだしたら、女王の側近さん達に殺されちゃうよ。実際殺されかけたし……ヒナちゃんと一緒に寝たけど、何もなかったよ」
シーン、と場が静まり返った。アンジェラとイザベルは臨戦態勢になる。
エリスはうつむき、呪詛のように言葉を唱え続ける。
「寝た、寝た、寝た、寝た、寝た……一緒に寝た……私はずっと我慢してたのに――――!」
「おいおい、僕は疲れ果てて寝てたから、本当に何もしてないよ」
「光太郎のバカ――――――――!」
右拳が光り、衝撃が光太郎の顔面をかすめる。城に穴が開いた。
エリスの王の力――「光女神の炬火」
放たれた光に触れた物は、塵となる。ただし、生命あるものは消せない。
「ば、ばか! いくら人体に影響が無いからって、王の力を使う奴があるか! 城が壊れるぞ!」
「うるさい! 光太郎が悪いんだー! わ――――ん!」
エリスの性根は変わってはいなかった。
光太郎に嫌われて、離れられるのが恐くて我慢していただけだった。
本当はベタつきたくて仕方がない。猫を被ってみたものの、ボロはすぐに出た。
父親のエクリプスはとっくに見抜いていた。
(やっぱり、こうなったか……)
暴れるエリスの右腕に、鞭が絡みつく。
アンジェラが鞭を巻き付けて、後に引っ張る。
すかさず、イザベルがエリスを羽交い締めにした。
「光太郎殿! 一先ず逃げてください。エリスは私達でおさえますから!」
「は、はい!」
「わー! わー! 逃げるな、光太郎――!」
手がつけられないとはこの事だ。
エリスは二人に組み伏せられたまま、光太郎を這って追ってくる。
ときおりエリスは信じ難い力を発揮する。まあ、光太郎がらみではあるが……。
どこまでも追ってくるゾンビのようで、光太郎は恐怖を抱いた。
「まーて――こ・う・た・ろ・う――――!」
「ぷ、ぷち、ぎゃ、ぎゃろっぷ、ぶーすと!」
身につけてるスラスターを噴かし、何とかエリスから離れて外へと飛び出す。
待ち構えていたサイドカーに乗り、エクリプスが緊急発進させ城外へと逃げた。
「あー、コーヒーが美味い」
「独自のブレンド品か? 我も飲めたらよかったな」
「うん残念だね、ラーメン鍋もおいしいよ」
光太郎はテントの中にいた。夜の帳の中、ランタンは明るく中を照らす。
「はー、帰ってきてから野宿するとは思わなかった」
庭に張ったテントのようなもので、わくわく感も何もない。
自分を誤魔化すように、飲んで食べまくる。
「いつも娘が迷惑をかけてすまんな、光太郎」
「いや、僕もエリスに対して無神経だった。嘘はつきたくないけど、黙っておいた方が良いこともあるね」
「うむ、特に女関係はまずい」
光太郎は寝袋に入って寝た。
翌日、エリスとデートすることに決め、機嫌を直してもらうことになった。
だが、アンジェラとイザベルが乱入してきて、またもや大騒ぎとなる。
そして夜には……
「光太郎、私も何もしないから一緒に寝よう。天宙神に誓って、ぜっーたい何もしないから寝よう。はあ! はあ! じゅるるる――――!」
「嘘ーつけ――! 息が荒いぞ! ヨダレを垂らすな!」
第一、透け透けのベビードールを着ていては、何を言っても説得力は無い。
光太郎は嘆く。
「なんにも変わってね――――!」




