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イン・ディヴァインマスター 銀河の救世主  作者: 夢野楽人
女帝戦 Ⅱ

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愛の衝動

「伊知香さん、まだまだ戦えるんじゃないかな?」

 確かに一般人よりは強いが、やはり引退した身であり現役の星騎士と比べたら、力は劣る。

 何より王の力は出せなくなっていた。

 有香はハイペリオンから降り、慌てて光太郎の元へと駆け付けてくる。

 申し訳なさそうな顔をして、光太郎に謝る。

「父が大変ご迷惑をおかけしました。何とお詫びしてよいか……」

「有香さんが謝る必要はないですよ。まあ、騎乗訓練はここまでにしましょう」

「……はい」

 有香は悔しかった。特訓に水を差され、何も得るものがないままに終わる。

 光太郎に「訓練を続けて欲しい」とは言えるわけもなく、父親を恨めしく思った。


「それでは、今から机上訓練(、、、、)をしましょう。がむしゃらに体を動かすだけが、訓練じゃありません。場所を変えて頭脳特訓です」

「はい!」

 有香の顔がパっと明るくなる。早紀も呼んで、三人一緒に待機所へと向かう。

 歩きながら光太郎は聞いた。

「僕と戦ってみた感想はどうですか?」

「正直、戸惑うだけで何もできませんでした」

「少し意地悪戦法だったかもしれません。エリスに言わせりゃ『ずるい! ずるい!』ですが、マゲイアの戦法は見た限り、邪道を超えた外道です。どんな手を使ってくるか分からないので、瞬時の対応が求められます」

「ええ」

 小玉から戦闘記録映像を見せられた時、あまりのえげつなさに、光太郎は不快感を覚えた。

 その外道戦法に対抗すべく、FL計画は立てられていた。


 早紀が質問する。

「具体的にはどうすれば良いのだ?」

「敵が複数でこちらが単騎の場合は、近づかないのが賢明です。基本攻撃はカウンター狙いで、隙のない攻撃をしてください。さっき僕がしたように敵が強引に近づいてくるなら、まずは逃げて下さい」

(……そう言っても、エリスは単騎で突撃するんだよなー。猪なのは変わらん)

 光太郎の悩みの種である。

「間合いをとる、ということですね?」

「はい、味方の星騎士と連携して、死角に回りこむように動けば簡単に倒せます。僕がしたのは撹乱かくらん戦法にすぎません。冷静に動けば楽勝です」

「そうは言うが、瞬間的に判断して動くのは難しい。貴様はできるからいいが……判断を間違えたら……」

 早紀は判断ミスにより、攻撃をくらうのを心配する。

 自分はやられても構わないが、有香が傷つくのだけは避けたかった。


「あー、説明不足でしたね。ぶっちゃけ女王には、雑魚敵なんかと戦って欲しくないんですよ。無人機と星騎士達に戦闘を任せて、指揮に専念して下さい。ここぞという時に、力を使ってもらいたいんです。それまでは逃げ回って、生き抜くことを第一にしてください」

(無理かもしれないけど、本当は誰にも死んでほしくはない……敵も味方も)

「ああそうか、私はお嬢様の盾になればよいのだな? それなら本望だ」

「そう言わずに早紀さんも、生きてください」

「わかった。お嬢様と一緒に逃げるとしよう」

「はい、逃げるが勝ちです」

「うんうん」

 有香も同意してうなずく。


「あとアドバイスとしては……有香さん自身を変えることかな」

「それは?」

「今までは型どおりの訓練でしたよね? やりにくい動きがあったり、ランスを動かしづらかったりしてませんか?」

 言われて有香はハッとする。

 自分の訓練不足と思い込み、無理矢理に体に覚え込ませようとした技が、多々あった。

 しかし未だに、それらの技はしっくりこない。

「人の関節可動域はそれぞれ違います。向き不向きがあって、突くのが得意でない星騎士でも、長剣は達人だったりします。まずは、武器から見直すことをお薦めします。ルカの得物は三叉戟、輝夜さんは飛び道具、ヒナちゃんはまさかりですよ。騎士槍ナイトランスを使うにしても、形状は有香さんが使いやすいように、変えた方がいいですね」

「……星騎士だから騎士槍を使う物と決めつけてました。その槍も標準なのを選んだだけ……私の頭はボンクラですね」

いくさなんで、スポーツ用具のように規定ルールはありませんから、自分が有利になるような武器を使ってください。これは受け売りなんですよ。戦国時代に長槍隊が活躍した話が、元になってます」

「通常より長い槍を使った話ですね。それに気づかれるのですから、光太郎さんは凄い」

「いやいや、僕だって単純なことに気づくのに、時間がかかったりしてます。結局、見て聞いて考えて、人は経験を積むんだと思います。あとは、有香さん独自の得意技を編み出してみては?」

「……は、はい」

 光太郎の自由な発想と才能に、女心がぐっと高まる。

 今すぐにでも抱きしめたい衝動を、辛うじて有香は堪えた。

 固く握りしめた手に血がにじみ、早紀が気づいて有香の手を優しく握った。


「ありがとう、早紀さん」

(今まで、お洋服も、宝石も、鞄も、靴も、玩具も欲しいと思ったことはありませんでした。それらは幾らでもありましたから、ただ寂しかったのでお友達は欲しかった。それも今はエリスや輝夜達がいます。私は生まれて初めて、心の奥底から彼を求めています。欲しくて欲しくて堪らない! 光太郎さんが欲しい――!)

 真面目無欲で生きてきた分、その反動は大きい。ましてや大好きな男だ。

 有香の理性が消し飛ぶほどに本能欲求はふくらみ、我慢など出来るわけもなかった。


 翌朝、光太郎はムー王国を後にする。

「どうもでした。有香さん」

「こちらこそ、感謝してます。このまま、ムー王国にずっといて下さい」

「そ、それは、ちょっと……」

「冗談です。すみません」

 誤魔化したが、本音は違う。有香の心に魔が差す。

「光太郎さん、帰り際に上階の迷路に挑戦して見ませんか? 地図をお渡ししますので、それを見ながら出口を目指すのは、いかがでしょうか? お遊びですので、抜けられない場合は御連絡して下さい」

「それは面白そうですね。やってみます」

 手を振って、エレベーターで上がっていく光太郎を見送る。

 ただ有香の眼はうつろな、とても暗く深い闇のようだった。


 光太郎はエクリプスから降りて歩く。

「ここが地下迷宮ダンジョンだったら、モンスターが出てくるんだけどね。そう言えば、アヴァロン星に未確認動物(UMA)はいるの?」

「空から確認しただけの、人類未踏の地はある。そこには、怪物がいるかもしれんな」

浪漫ろまんだねー」

 雑談を交わしながら、迷路を進む。迷うことなくゴールに着いたはずだったが……

「おかしいな、ここに出口があるはずなのに……どっかで間違えたか?」

「嫌、道順は間違ってないはずだ。ここまでの歩行記録データを検証したが、ここが出口のはずだ」

「……少しだけ戻ってみよう」

 すると、来たときとは迷路が変わっており、道は塞がれて行き止まりになっていた。

 光太郎達は迷路内に閉じ込められた。


「ギブアップだ。有香さんに連絡しよう――え? 繋がらない!」

「我も、どこにも通信できん」

「…………」

 光太郎はあちこちの壁を叩いて調べてみたが、何も変化はなかった。

 疲れて、壁に寄りかかる。

「まいったな――うおっ!」

 寄りかかっていた壁が動きだし、シャッターのように上へと、上がっていく。

 太陽の明かりが差してきて、光太郎はホッとする。外には一人の女性が立っていた。

「光太郎さん」

「有……いや伊知香さん? どうしたんですか?」

「迷路装置が故障してしまったようで、修理に時間がかかってしまいました。御迷惑をおかけしてすみません」

「そうでしたか、直ったのでしたら何よりです。それでは失礼します」

「はい、お気をつけて」

 光太郎が走り去ったあと、伊知香は通信機で有香と話す。


「逃がしましたからね」

『……ごめんなさい、お母さん。私、我慢できなかった』

 迷路装置に異常はなく、有香が意図的に閉じ込めたのだった。

 光太郎が迷路の中で弱ったら、別な場所に監禁するつもりでいた。

 それに気づいた伊知香が、いち早く助けに動いた。

「女の情念は押さえられないものですから、有香の気持ちはよく分かります。でも、身体からだを手に入れたとしても、光太郎さんの心は手に入らず、壊れてしまうでしょう。そうなったら一生後悔しますよ」

『う、ううぅ……』

「今は我慢なさい。いくさも恋も、戦って勝ち取るものです」

 有香は泣きながら、母の言葉に頷いた。

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