お嬢様と地下室で
「これは美味い!」
有香が持ってきたのは手作りのサンドイッチで、具材が絶妙に合っていた。
「お口にあって良かった。光太郎さんが淹れてくれた紅茶も美味しいです」
「ありがとうございます。安物の茶葉でも、撫子の指示通りやれば誰でも上手くできますよ」
「それでも、カップを暖めたりとかお手間をかけてますよね?」
「多少、手を加えてますが大したことはしてません」
「謙虚なんですね、調子にも乗らない……思ってた通りの御方」
「いやいや単に性分なだけです。ところで一つ質問していいですか?」
光太郎は照れ隠しに、話を変える。
「どうぞ」
「出生は重大な秘密だと思うんですけど、僕なんかに打ち明けて良かったんですか? 言いふらされるとか思わなかったんですか?」
「昨日、お目にかかって信頼できる方だと確信しました。それと光太郎さんの事は、樹里さんが前もって調べてました。すみません」
「素性を調べるのは、当たり前だと思うので気にしません。それでも、僕を信用する材料には足らないような……」
「光太郎さんの目です」
「目ですか?」
「私は社交パーティーで、たくさんの方と出会いました。ほとんどの人が媚びへつらうか、下心丸見えで私に近寄ってきました。みんな私に欲望の目を向けます。その目が底なしの闇のように見えて、私は恐かった」
(確かに美人で金持ちじゃー、わんさか寄ってくるか……それは堪らんよなー)
自分の身になって思い、光太郎は有香に心底同情した。
「その点、光太郎さんの目は澄んでいて、とても綺麗です」
「買いかぶりすぎです。僕はただのメカオタクですよ」
「前に、竹田様と喜久子さんが家にいらっしゃった時、光太郎さんをべた褒めされてました。お話を聞いて、私は気になりました。『どんな御方か?』と、思ってた通り真面目な方でした」
光太郎は気恥ずかしくなって、自虐に走る。
「いやいや、腹の底では僕も財産を狙ってる悪党かもしれませんよ」
「腹黒い方は、警戒されるような事は言いませんよ」
「……まー確かに。でも、あんまり信用しないでください」
「わかりました。くすくす」
光太郎は逃げるように、後片付けを始めた。
「やっぱり、かなりあるなあー」
「ですねー」
二人は地下室で、うんざりしていた。
片付けと掃除は終わり、ようやく探し始めたものの、資料は山のようにあったからだ。
「文吾さんの研究ノートだらけだ」
「手掛かりがあるとすれば、やはり文吾様が書かれた物だと思います」
「やるしかないか」
「ええ」
二人は手分けして、ノートを読み始めた。
「うーん、無いなー読んでも分からない所も多い。たぶん発明品の基礎だと思うけど……!」
有香がもの凄い早さでノートをめくっていた。とても読んでるようには見えない。
めくり終えたノートは、すでに何十冊も積まれている。
「有香さん、もしかして速読ができるんですか?」
「はい、幼い頃から見た物は一瞬で覚えられます」
光太郎はスマートグラスをかけ起動させた。
「ちょっと検索します。撫子、この能力の説明」
《映像記憶、又は写真記憶と言います》
「特殊能力の一種ですね。重い荷物も軽々と運んでたし……これは一体?」
「あと遥か遠くの物を見たりもできます。最近、こうした力がより強くなってるんです」
「もしかして、有香さんが出生の秘密を知りたい理由は……」
「はい、人並み外れた能力は普通じゃありません。私はどこから来て何者なのか? それが知りたいんです……あっ!」
「どうかしました?」
「私、気持ち悪いですよね。変な力を持ってて……どこかの施設にいた、実験人間かもしれないのに……」
有香は正直に喋りすぎ、気味悪がられたと思った。落ち込んで表情が曇る。
(人体実験かー無いとは言えない……けど、違うと思う。なぜなら……)
「文吾さんも、うちの喜久子姉も常人離れした能力を持ってます。有香さん一人じゃありません。辺りに異能者が偶然集まったとは、考えにくいです。何らかの秘密があると、僕は思いますよ。それと、僕から見れば羨ましい力です」
有香はホッとして、顔を赤らめる。
「そ、そう言われると……嬉しいです」
「とにかく探して見ましょう」
「そうですね……あら、これは何かしら?」
有香がノートに挟まっていたDVDを見つけた。レーベルは印刷されていない。
「記録データかな? 撫子、チェック」
【俺のお宝(一八禁)】
「ぶっ!」
(変な物を隠してんなよ、おっさん!)
「光太郎さん、どうですか?」
「こ、これは違うと思います。何も表示されませんでした」
「そうですか、でもとても気になります。中を見てみたいです」
「再生プレイヤーは店にないので、僕が後で確認……」
「あっ! これポータブルプレイヤーじゃないですか?」
(だから何で都合良くあるんだよ! まずい、これは非常にまずい!)
「コンセントは……あった」
てきぱきと準備を進める有香とは対象的に、光太郎はおろおろしていた。
本当の事を言い出す間もなく、有香は再生ボタンを押す。
「なんかドキドキしますね」
「あっ、はい……」
(心臓はバクバクしてます……違う意味で……うわーあの人に殺されるー!)
光太郎は早紀の怒り顔が目に浮かぶ、
「お嬢様になんて物を……絶対許さない!」と後から袋叩きにされかねなかった。
光太郎は震えあがる。
停止ボタンにそろそろと手を伸ばすが、有香の手が邪魔で押せない。
そうこうしてるうちに、画面にタイトルが表示された。
(『理事長と秘書』……って、中身はやっぱりアレか!)
「人が出てきましたね、あれ? 父と喜久子さん?」
「に、似てますけど違いますね」
英雄似の男優が、女優に迫り始めた。
(やばい、これ以上は危険だ! こうなったらぶっ壊すしかない!)
光太郎はプレイヤーに向かって、拳を突きだそうとした瞬間――ブツッと画面が切れた。
「あら?」
「壊れたみたいですねプレイヤー、不良品だったかもしれない」
(ほっ!)
光太郎は胸をなで下ろし、有香はがっかりする。
「見た感じ、これは手掛かりじゃ無さそうなので倉庫に置いてきます」
「ですね、では他のノートを探して見ます」
光太郎は有香の気が変わらぬうちに、駆け足で倉庫へ向かった。
息を切らして戻ってくると、有香が何か物を持って、近づいてくる。
「光太郎さん、光太郎さん、これは何でしょう?」
「はぁ……はぁ……げっ!」
スマートグラスで確認する必要も無かった。
いわゆる大人のおもちゃを有香が握って、振り回している。
無垢なお嬢様がいじっている光景は、非現実的だ。
「それは危険物です!」
光太郎は強引に奪って倉庫へと再びダッシュし、へとへとになった。
「ぜぇ……ぜぇ……文吾さんの馬鹿野郎!」




