ゲーセンデート
「うう……それも勘弁してください」
(ルカとの戦いで、もう懲り懲りだ。女王と戦うなんて二度とやりたくない!)
「すみません、言い方が悪かったですね。私の戦闘訓練に付き合ってほしいのです」
「あのー、他にお相手がいないのですか?」
「ムー王国の星騎士達は、私に対して遠慮がちになって訓練になりません。それと、前大戦でほとんどが落命し、わずかに残ったベテランも引退しました。指導できるのは母だけですが、体の問題があるので口頭のみで、教えてもらっています。身をもって教えてくれる人がいないのです」
(そう言えば伊知香さん、戦闘はできない体だったな、見た目はとても元気そうだけど)
「たまに輝夜とバーチャル通信対戦で、練習相手になってもらってますが、全戦全敗です。私は女王の中で一番弱いでしょう。このままでは戦争で足を引っ張りかねない。戦闘経験が足りないので、少しでも多く特訓したいのです」
「うーん……」
「光太郎さんは実戦を潜り抜けられて来ました。その経験を生かして、私をしごいて欲しいのです。お願いします」
「分かりました」
気は乗らない。しかし、頭を下げられ頼まれると、嫌とは言えなくなる。
エリスが言った通り、女には特に甘い光太郎だった。
それと、有香がかなり無理をしているのが見てとれたので、オーバーワークで倒れる前に忠告しようと思った。
「休め」という親の言葉は聞かずとも、光太郎の言うことに有香は従うことになる。
「一日だけだとたいしたことは教えられませんが、僕なりに気づいた点は指摘します。それで、具体的にはどうすればいいですか?」
「光太郎さんにはケイロンを無線操縦してもらい、私を攻撃してください。武器は木製なので、本気で構いません」
「遠隔操作でしたら、やられても怪我をする心配はないですね。初めてですが、やってみます。これは面白くなりそうだ」
光太郎はやる気を出す。
「当日は、私のメタル・ディヴァインとディヴァイナーを紹介します。ディヴァイナーの訓練も兼ねさせていただきますので、よしなに」
「えっ! 誰ですか?」
「それは秘密です。うふふ」
有香は悪戯っぽく笑った。
次の日、有香と二人で市内を練り歩く。
市内を走る車は少なく、人々は動く歩道で移動していた。
他の移動手段はモノレールだ。
やはり地下都市の空間は狭く、道路は少ない。そこで、地下の地下に地下鉄を通して鉄道網を作った。
地下鉄は最終避難場所でもあり、首都から逃げることも想定している。
有香はスカートスタイル、やや短めで素足にハイソックスを履いていた。
派手ではないが、有香にしては大胆な格好だった。もちろん光太郎の目を引くのが目的だ。
女性は意中の男を振り向かせるのに、あの手この手を使ってせまるものだった。
女の執念は、諦めることを知らない。
街中に入っていけば人通りも多くなり、女王に気づかない者はいない。
変装もせずに素顔をさらしていれば、当然声はかけられる。
「キャ――! 姫様――!」
「有香様――――!」
「こっち見て――!」
「サインして――!」
追っかけてはこないが、写真はとられまくる。
有香は愛想笑いをしながら、手を振って応えた。
「ここでも、アイドルなのは変わりないですね。顔は隠さないんですか?」
「陸奥市では車のガラス越しにしか、街を見る事ができませんでした。警護のためと分かっていましたが、一人で歩けないのは少しさびしかったです。なので、エルドラドでは気ままにさせてもらってます」
「お父……十郎さんは心配するのでは?」
「ええ、それで秘密警護が私に常についてまわってます。いらないとは言いましたが、父が安心しないものですから仕方なく。ふだんは早紀さんに付き合ってもらってます」
「そうでしたか。すると今も近くにいるわけですね? さーて、どこにいるのかなー?」
(まあ、探して見つかるもんじゃないよねー。護衛のプロだろうし一般人と見分けがつくわけが――あった……)
「あのー……目立つ黒服にサングラスの格好では、バレバレのようなー……」
「ですよねー、たまに父も混じってますし、ただ黒服は抑止力にはなってます。お陰でエルドラドでの犯罪はゼロです」
「たしかに制服を着た警護を見てたら、悪いことはできないですね。僕も有香さんに不埒なことをしたら、捕まりそうだ。気をつけます」
「光太郎さんでしたら、何をしても構いませんよ。あのー……手を握ってもいいですか?」
有香は不安げな顔をしながら、光太郎の手を求める。
弱さを見せる演技に騙され、光太郎は気の毒になり許した。
「あー、はい……いいですよ」
「嬉しい!」
二人は手を繋いで歩き、有香は嬉しそうにしていた。
そこに、遠くから空き缶を潰したような、メキメキという音が聞こえてくる。
(これは! 近くに十郎さんがいるな、音は警告だろう)
「娘にひっつくな!」と声が聞こえてきそうだった。
辺りを見回していると、前方から何かの集団が近づいて来る。
「あー! 姫様だー!」
「わーい! わーい!」
「ヒュー、ヒュー! 手をつないでる。彼氏と一緒だ!」
「いつ結婚するの?」
四、五歳の園児達と出くわし、子供らは一斉に有香の側に寄ってきた。
大声で騒ぎ、はやしたてる。
「有香さん、この子達は?」
「おい、あんちゃん。まずは自分から名乗らんか?」
「ごめん、神山光太郎だよ」
有香が答える前に、一人の男の子に絡まれた。
「俺の名は仁太。有香は俺の嫁だから、手をだすな! わかったな!」
「こら!」
「なんだ嫁二号。ははん、焼き餅か? しょうがない奴だな、モテる男は辛いぜ」
「誰が二号さんですか! このませガキ!」
「いてててて! 分かった、分かった。特別に零号にしてやるから許せ!」
保母さんが、仁太の頭を拳で挟んで折檻していた。
謝るまでグリグリと押しつけて、ようやく仁太は開放される。
「ほら、みんな帰りますよ。姫様どうもすみませんでした」
「いえいえ、また保育園にお邪魔しますわ」
「いつでも待ってるぜ、有香!」
「いい加減にしなさい!」
叩こうとするも走って逃げられ、保母さんは後を追いかける。
有香は手を振って見送った。
「えーと、結局今の子らは?」
「保育園の見学へ行ったら懐かれてしまって、時々寄っては一緒に遊んでます。無垢な子は可愛いので、ついつい足がむいてしまいます」
(子供は邪念もないし、遠慮もしないから、有香さんも気が休まるんだろうな。女王を前にしたら普通の人じゃー畏まるから、それが嫌なんだろう)
「ところで、どこの王国でも『陛下』とは呼ばず『姫様』なんですよね?」
「陛下や殿下という敬称が元々無いようです。皆、親しみをこめて姫と呼んでいます。ただ、結婚して子供ができると『女王様』になっちゃいますね」
「未婚のうちは、姫という訳ですね」
「はい。あ! ここです」
話こんでいるうちに、目的地についていた。
「ここって、ゲーセン!?」
光太郎の前にはガラス張りの店。店内には筐体が幾つも並んでいた。
ゲーム機自体は古く、レトロな雰囲気があった。
自動ドアが開き中に入ると、様々な音が聞こえてくる。楽しいメロディだ。
遊んでいるプレイヤーが多いのには、驚かされる。
ネットゲームが主体になり、閑古鳥が鳴いてる日本のゲームセンターとは大違い。
ここでは、みんなが本気で楽しんでいた。
「最新ゲームも結構ありますね」
「陸奥市の父に頼んで集めてもらいました。娯楽の試験導入だったのですが、思いの外評判はいいようです。物珍しさもあるのでしょうが、人が集まる場所として上手くいきました」
「ああ、カードゲームやボードゲームもやってる。楽しそうだ」
区切られた防音室があり、そこにも人だかりが出来ていた。
「光太郎さんとエリスと一緒に遊んだ、トランプは楽しかったです。そこで学んだのは、顔を合わせることの重要さでした。一緒に興じれば、みんな仲良くなれる。大人がお酒のつきあいをする理由が、少し分かりました」
「ええ、飲み過ぎはよくないですけどね」
「そうですね。ふふふ」
光太郎は相づちをうって、一緒に笑った。
「さて、何をしようかな?」
「光太郎さん、私とプリクラを撮りませんか?」
「えっ! あ、はい……」
光太郎はプリ機に生まれて初めて入る。基本、女友達かカップルしか使わない。
女性に縁がなければ一生入る機会はなく、男一人で撮る者は勇者として称えられる。
人生最初で最後の経験になるかと思うと、光太郎は緊張してしまう。
(メカオタクでも、これはハードル高え――――!)
そんな光太郎を横目に、有香はテキパキと操作していた。あきらかに手慣れている。
「使ったことがあるんですね?」
「このゲームセンターが開店したとき、父母と一緒に撮りました」
「なるほど、記念写真ですね」
「それでは、撮りましょう。光太郎さんリラックスして下さい」
有香は光太郎を引き寄せて、カメラに顔を向ける。
光太郎はガチガチで、顔も引きつっている。肩を抱き寄せたりとか、やれるわけもない。
その反面、有香は手を握ったり、腕を組んだりしてポーズをとる。
プリ機の音声案内がラストを告げた。
「最後の撮影いきまーす! 3、2、1」
「わっ!」
有香は光太郎の首に手をまわし、抱きついたのだ。本気の好意が有香を突き動かす。
「すみません。ちょっと悪のりしすぎました」
「き、気にしません!」
もちろん狙ってやっているので、女は恐ろしい。
鼻孔をくすぐる甘い匂いが男を惑わし、放たれたフェロモンが男を惹きつける。
然しもの光太郎も、雄の本能が首をもたげ有香に手を伸ばす――
が、喚き声が聞こえてきて、動きが止まる。
「コラァ――――――――!」
「はっ!」
我に返った光太郎は、慌てて手を引っ込めた。
声を上げたのは十郎、有香は怒り顔に変わる。
(あと少しでしたのに――――!)
チャンスを邪魔されて完全にぶち切れ、デコもそこそこに切り上げた。
「ちょっと、失礼します」
ポーチにプリクラを素早く入れ、プリ機から出ると十郎を探して見つけた。
駆け足で詰め寄り、怒鳴りつける。
「お父さん! さっきから何をやってるの!」
「有香を思ってだなー、間違いが起きないように監視を……」
「まあまあ、お父さんも悪気があったわけじゃないから、許してあげて有香」
「お母さんまで、何で居るのよ!」
有香の勢いに、二人はタジタジになる。完全に親子喧嘩だ。
(両親で尾行してきたのか……それはやりすぎだよなー)
有香が腹を立てるのも道理、子煩悩もいきすぎれば過保護。
しかし、子を心配するのは親の常だ。
有香は力ずくで二人を追い払い、待っていた光太郎の所に戻る。
「お騒がせしました」
「御両親の気持ちも少し分かりますよ。永らく離れてましたし、一人娘じゃ目に入れても痛くないでしょうから」
「でも、さすがに煩わしく感じるようになりました。私が動く度におっかけてきますから、もうストーカーですよ!」
「それだけ、愛されてるんでしょう」
「はい、では気持ちを切り替えて遊びましょう」
「ですね」
二人は、カップル用のゲームで楽しく遊んだ。




