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イン・ディヴァインマスター 銀河の救世主  作者: 夢野楽人
女帝戦 Ⅱ

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母と娘と

 背丈、顔かたちは確かに有香で、黒のフォーマルドレスを着ていた。

 しかし、よーく観察すれば違いはある。

 右目の下に泣き黒子(ぼくろ)があり、有香にはない。

 目の前にいる女性は別人だが、光太郎は気づかなかった。

「ちょーっと失礼しますね。こっちにいらっしゃい、お父さん」

「痛い! 痛い! お前、離せって」

 十郎は耳を摘ままれたまま、部屋の外へと連れ出される。

 しばらくしてから女性は戻り、椅子に座った。居住いも大人びていた。

「光、太郎さん。失礼しました」

「お話はよく分かりませんでしたが、大丈夫ですか?」

「有……私のことで少し暴走してしまったようです。お父さ……父が御迷惑をおかけしました」

「いえいえ、長い間離ればなれでしたから、色々あるとは思います。それで、これはプレゼントです」

 贈り物を差し出そうとすると、慌てて止められた。

「光、太郎さん! すみません。もう少し後でいただけないでしょうか? お話の後で自室に持っていきたいので」

「はあ? わかりました」

(有香の代わりに受け取ったら、怒られてしまいますからね)


「ところで、今までの旅はどうでしたか?」

「日本とは違った面が見られて良かったです。自然環境を大事にして保護されてる所は、地球とは及びもつかないですね。技術面よりも、精神面が重要だとつくづく感じ入りました。あとは、どの国でも歓迎されて恐縮しましたよ。多少えらい目にも会いましたが、良い経験でした」

「女王達はどうでしたか? 気になる人はいませんでした?」

「こう言っちゃ失礼かもしれないですけど、若いうちから国防という重荷を背負わされて、大変だなーと思いました。日本で平和ボケしてる僕が、言えた義理ではないですね」

(あれ? 有香さん何か変わった?)

 ここに来て何か引っかかるが、光太郎は分からない。

 目の前にいる女性は、ニコニコと笑っているだけだった。

 からかうような、感心してるような、そんな表情をしていた。

「ふむふむ、思慮深く人情も厚い。これなら申し分ないですね」

「は?」

「質問ばかりですみません。有……私のことはどう思っていますか?」

「それは……」

 光太郎は言葉に詰まる。

 知り合った女性が多すぎて、思いの整理が付かない。

 答えられずに黙っていると、怒鳴り声が耳に轟く。


「お母さん! 何やってるの!」

「え――! 有香さんが二人!」

 ここで本物が登場した。

 青のフォーマルドレスを着て、腰にはウエストリボン。

 肌の露出を抑えた装いだった。

 長い黒髪はハーフアップされ、銀の髪飾りを付けている。

 おめかしに時間をかけすぎたのは、最後まで悩んだからだ。


 支度に遅れたせいで、父と母にちょっかいを出されてしまった。

 光太郎の前だからこそ、余計本気で有香は怒る。

 母親は笑っており、悪びれた様子はなく娘を冷やかす。

「お婿さんの品定めを……この方なら安心して任せられますね」

「もう、早く出て行って!」

「まって! まって! ちゃんと御挨拶してないんだから」

 母親は、光太郎に向き直って名を告げた。

「初めまして、有香の母の伊知香です」

「神山光太郎です。それにしても、お顔がそっくりで驚きました。全く気づきませんでした」

「騙すような真似をしてすみません。有香のこと末永くお願いします」

 伊知香は頭を深く下げる。光太郎は意味が分からないまま、生返事で返した。

「はあ? 分かりました」

「もう! お母さんは出て行って!」

 有香は伊知香の背中を押しまくる。二人はじゃれ合う姉妹にしか見えなかった。

「えー! 私も一緒にいたっていいじゃない? 邪魔しないから、ねっ、いいでしょ?」

「光太郎さんと大事な話があるの! お母さんがいたら邪魔なの!」

「そんなー! つれないことを言わないでー有香」

「普通は『あとは若い二人に任せて』って言うもんでしょうがー!」

「お母さんも、まだまだ若いわよー」

 押し問答を繰り返して、ようやく伊知香を部屋から追い出す。


「ぜーぜー、少々疲れました」

「でも有香さん、楽しそうで何よりです」

「何はともあれ、やっぱり親子なんだと思います」

 有香がリクライニングチェア(椅子)に座る前に、プレゼントを手渡す。

「改めて贈り物です」

「ありがとうございます」

 平静に受け取ったものの、有香は大喜びしていた。

 ひとまずプレゼントを調度品棚の上におき、光太郎のカップに紅茶を淹れた。

「光太郎さん、どうぞ」

「いただきます」

 ようやく落ち着いて飲んでいると、ある物が目に入り気になった。

(あれは、何だろ?)

 調度品棚に潰れたような物が乗っており、格調高い部屋の中で唯一不釣り合いである。

 聞いて見ようかと思った矢先に、有香の方から話しかけてくる。


「光太郎さん、本当にお久しぶりです」

「直接会うのは何日ぶりかなー? エリスに出会ってから目まぐるしい毎日でしたから、記憶も曖昧です」

「私もそうです。思えば、光太郎さんとの出会いから、全てが始まりましたね」

「ですね。あの時公園で待ち合わせしなかったら、エリスと会うこともなかった。文吾さんの話では、エリスと有香さんが転移装置の近くに、同時刻にいたのがきっかけで装置が起動したそうです。潜在的な女王の力らしいですが、偶然とは不思議なものですね」

「はい、そのお陰で私はここに戻ってこられました。全ては何かのえにしなのでしょう」

「僕もそう思います。人は見えない糸で繋がっている」

「ただ、陸奥市の父のことは気になりました。育てて下さった恩を忘れることはできません。そして実の両親にも愛情があります。陸奥市に戻るかどうかしばらく悩みました」

「でも、残ることに決めたんですよね?」

「ええ、決めた理由は幾つかあります。父や母やムー王国の人達も、私の帰還を待ち望んでいました。この思いを裏切るわけにはいきません。帰って来た時は国を挙げて大歓迎され、『陸奥市に帰りたい』とは口が裂けても言えませんでした。それでも、女王になるのだけは抵抗がありました」

 有香は紅茶を飲んで一息いれた。


「アヴァロン星のことを知らず、ムー王国も知らない私が女王を継ぐのは、図々しく思えたのです。また国を背負うという覚悟もありませんでした。母は『急いで決めなくていい』と言ってくれたので、しばらくは甘えるつもりだったのですが……」

「何か心境の変化があったんですね?」

「きっかけは、エリスの戴冠式での出来事です」

「それってまさか! 僕とエリスのやりとり……漫才」

(あー嫌な思い出だ。あの生放送はお笑いにしかならなかった。思い出したくねー!)

「エリスが光太郎さんに抱きついた瞬間、私の中で何かが切れました。カッとなった私は、持っていたティーカップを握り潰して(、、、、、)しまったのです」

「あれ? 割った、の間違いではないのですね?」

「そのティーカップのなれの果てが、戸棚にあるものです。物に当たった私は恥じました。作った方に申し訳なくて。ただその時、私は自分の王の力(クラウンパワー)に目覚めました」

 言いながら、有香がテーブルの上に人形を置く。


「これが『神樹妖精アムルタート硝子細工スカルプチャー』です」

 それは宝石ダイヤモンドで作られた、光太郎の立像。

 柔らかい金属であるきんなら加工も容易だが、結晶体である宝石はカッティングか、削るしかない。

 それで凹凸おうとつをつけ、彫刻を作るのは本来なら不可能。

 しかし、目の前にある像は丸みをおびて、光り輝く人形フィギュアだった。

 光太郎は手に取り、目を見開いて驚嘆する。

「これは凄い!」

「この能力は無機物を、私の思い描くものに変える力です。ただ、一度変化させたものは二度と元には戻りません。何度か試しましたが、最後には壊れました」

「でもこれ、僕なんかの形でもったいないようなー……」

 人形は手のひらほどの大きさがあった。

 ダイヤモンドの値段で換算したら、幾らになるか想像もつかない。

「重力高圧によって作られた人工宝石ですので、価値はそれほどありません。天然物と見分けはつきませんが……光太郎さんの像にしたのは、私の思いが詰まっているからです」

 有香は深呼吸して心を落ち着かせ、光太郎を真っ直ぐに見た。


「私は光太郎さんが好きです」


(まじか……)

 有香の目は真剣そのもの、冗談を言う彼女でないことは重々承知している。

 光太郎も事を茶化すような性格ではないので、真剣に悩む。

(参ったな、困ったな、どうしよう……)

 絶句する光太郎に有香は言った。

「あの生放送のあと、私は『エリスに負けたくない』と強く思いました。ゆえに同じ舞台に立たねば勝負になりません。それで私は女王になる決心をしたのです。醜い女の争いですが、競うからこそ女なのです」

「……でも、僕なんかの為に二人が争う必要は……」

「光太郎さんは御自身を過小評価しすぎです。もっと自信を持たれても良いと思います。それと、好きに理由理屈はありません。出会って一緒にすごして惹かれた、ただそれだけです」

 光太郎は一切反論できない。

「顔も取り柄もありません」と言ったら、

「それがどうかしましたか? 好きに何の問題があるのでしょう?」

と切りかえされたのと同じだ。


「エリスとはビデオ通話で何度も話をして、光太郎さんに告白することも言ってます。エリスはかなり動揺してましたが、止めようとはしませんでした。私は嬉しかったです。親友でライバルとは、得てしてそういうものなのでしょう」

「あーそうか、その代わり僕には『行くな』と言って、しつこかったのか」

「私に取られると思って心配したのでしょう。うふふ」

 笑う有香に対し、光太郎は何と言っていいか分からなかった。

「光太郎さんご安心ください。今すぐお返事が欲しいわけではありません。マゲイアとの戦争が終わってから、じっくりとお考え下さい。それと好意を持っているのは、私やエリスだけではありませんよ」

「……マジですか?」

(ああ、嘘だと思いたい)

「女王会談で光太郎さんの話題が出なかったことは、一度もありません。少しだけお付き合いの長い私やエリスは、質問攻めにされて大変です。女王達は皆、光太郎さんに惹かれてます。女王会談にまた呼ばれるでしょう」

「…………」

(どうして、こうなった? 幾ら考えても理由がわからない。文吾さんが言ってたモテ期か? みんな錯覚か一時の熱病だと気づいてくれないかなー、それまでは屁理屈をつけて逃げよう)


 この後におよんでも光太郎は信じようとはせず……いや、信じたくなくて逃げようとする。

 絶食系なのにも理由がある。奥手なのは男の防衛本能が働いてるからだった。

(本当の僕を知ってがっかりしたら、手ひどく振られるんじゃないかな? そうなったら立ち直れないかも)

 これが光太郎が一番恐れていることだった。

 捨てられる恐怖、傷つけられる心の痛み、それらに耐えられる自分ではない。

 深く考えすぎ、と言えばそれまでだが、人は誰しも思い悩んで生きている。

 光太郎も例外ではなく、恋愛におびえていた。


「有香さん、分かりました。取りあえず保留ということで勘弁してください」

「私こそ謝らせて下さい。光太郎さんが苦しまれるのは十分承知していました。けれども、私の偽らざる思いだけは、お伝えしたかった。エリスとの張り合いに巻き込んでしまい、すみません」

 有香は頭を下げる。

「この話はこれでお仕舞いにしましょう。明日は市内を御案内いたしますが、明後日には……」

「えーと、なにか?」

「光太郎さんにお願いしたいことがあります」

「僕にできることなら……」

「私と戦ってください」

 またもや光太郎は、勝負を挑まれた。 

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