地下迷宮エルドラド
「……寒い。あと寂しいとこだ」
「無理もない。ムー王国は前大戦で、最大の被害を受けてるからな」
光太郎が見ているのは、雪が残る大地と荒れ果てた街並み。
爆撃によるクレーターの跡は数知れず、兵器の残骸もおびただしい。
首都エルドラドの中心に、建物がこぢんまりと纏まっていた。
それも全部が廃墟で、道路はひび割れて歩くのもままならない。
他の四都市に比べると大都市とは言い難く、ゴーストタウンのようだった。
「あーでも、地下都市があるんだよね?」
「うむ、気候の厳しさもあるから大半が地下住まいだな。元々鉱山都市だからトンネル工事や、シェルター作りはお手の物だ」
「ムー王国にはオリハルコンとか、鉱物資源がたくさんあるんだっけ?」
「埋蔵量は世界一だ。マゲイアは資源を奪おうと襲ってきて、総力戦になった。ムー王国が陥落してたら、戦争は負けていただろう。一進一退の攻防だった」
「聞く限り激戦だったみたいだね。だったら有香さんを地球に逃がした、御両親の気持ちも分かる」
「辛うじて守り切ったが、ムー王国の傷跡は深い。未だに再建半ばで、地上は手つかずのままだ」
「仕方ないよね、またマゲイアは攻めてきてるし……ところで僕はどこへ行けばいいんだー!?」
街の中心部に近づいても、人っ子一人見当たらない。寒風だけが吹きすさぶ。
あまりにも寂しくて、叫びたくなる。
「通信が入った。指示された場所に向かうとしよう」
「分かった」
近くにある廃倉庫へと光太郎は移動した。
中に入ってみたものの、誰もいない。
「うーん――わっ!」
「エレベーターだな」
突然、床が下がり光太郎は驚く。ただ地下一階に移動して、直ぐに止まった。
そこには長身の女性が一人いた。
黒のパンツスーツ姿には、見覚えがある。有香のボティガードの早紀だ。
「……早紀さん。こんにちは」
「ついてらっしゃい」
無表情のまま早紀は歩き出す。降りた所は石壁に囲まれた場所で、狭い通路が入り組んでいた。
天井に灯りがあるので視界ははっきりしてるものの、分かれ道が次々と現れる。
「まるで迷宮だ」
「地下都市への侵入を防ぐ迷路だ。エルドラドへ直通してる道はなく、幾つかの関門があると聞いた」
「でもそうすると、メタル・ディヴァインはどこから発進するの?」
「別の場所に地下軍事基地がある。首都からは離れてるはずだ」
「それなら、簡単には攻め込まれないね」
エクリプスから色々と聞いてる間、早紀は黙ったままで、光太郎を見ようとはしない。
袋小路まで来ると、早紀は手前の壁に触る。
生体認証されると大きな音がして、更に下に降りる階段が現れた。
連れ回された光太郎がうんざりしてきたところで、ようやく直通エレベーターが見えてくる。
大型でメタル・ディヴァインも、乗せられそうだった。
「あとは、これで降りるだけだ」
早紀に言われてサイドカーごと乗りこむ。エレベーターかごは透明で下を見下ろせた。
下までかなりの高さがあるが、ビビる暇もなくすごい速さで、エレベーターは降りていく。
「地上と変わりない」
人工太陽光が都市を照らし、空も青く街並みも美しい。
さっきまでの地上とは打って変わって、たくさんの人々が練り歩いている。
活気があり、遊んでいる子供の姿も見えた。とても地下にいるとは思えない。
「ここは、いいとこですね」
「…………」
光太郎は感想をもらすが、早紀は押し黙ったまま答えない。
(やっぱり、嫌われてるかなー?)
会話は諦めエレベーターから街を見てると、嫌な物が目に入る。
光太郎にとって、我慢ならない物があった。
「ああ……勘弁してくれ」
「あきらメロン」
「エクリプス、それを言うか!」
それは、ドデカい横断幕。
[大歓迎! ようこそエルドラドへ! 神山光太郎様!]
と書かれて掲げられ、幟も彼方此方に立てられていた。
光太郎を称える文言が、数え切れないほどあった。
ど派手で目立つことを嫌う、光太郎は頭を抱える。
「国賓待遇なんだから、何もしなかったら国の威信に関わる」
「それは分かるけどねー、庶民の旅行感覚でしかないから気が滅入る。僕一人だけの為に事務方や裏方さんが、苦労したかと思うと……接待費用もバカにならないし、本当に申し訳ない」
「大半の準備は、AI無人機がやってるはずだから、気にするな光太郎」
「う……うん」
(どの国も……いや女王達は誠意だけで歓待してるわけではない。下心がありありなんだが、光太郎は気づかないんだよなー。他のことは鋭いくせに、不思議なものだ)
エレベーターが止まり、扉が開くとクラッカーが撃ち鳴らされる。
「うわっ!」
大勢の国民が集まり、光太郎を歓迎する。
万雷の拍手の中、赤絨毯の上を光太郎はなんとか歩く。
その先には有香が満面の笑みで待っていた。
着ているのは水色のボールガウンドレス、胸元には煌びやかな宝石がちりばめられていた。
ふわふわしたロングスカートを見ると、舞踏会から駆けつけてきたような錯覚にとらわれる。
あいにく光太郎はダンスは出来ない。
「光太郎さん、ムー王国へようこそ」
「えー、この度はお招きに預かり……」
「もー! そんな言い方はしないでください。店で出会った頃と同じ扱いは嫌です」
「すみません。いまだにお嬢様のイメージが強すぎて、かしこまってしまいます」
「そうですか、では光太郎さんに私をもっと、知ってもらわなくてはいけませんね。ただの女にすぎないことを……」
(清純可憐なのは見た目だけ……本当は傲慢で嫉妬深く浅ましい女。それが私)
「いやいや女王様になったのに、ただの人とは言えませんよ」
「私の中身は変わってないです」
「なんか押し問答になっちゃいましたね? やめましょう」
「そうですね。うふふふ」
有香は光太郎の顔や仕草を見て微笑む。
(ああ、楽しい。光太郎さんに会えただけでも嬉しい。胸がドキドキしてます)
「どうかしましたか?」
「いえ、やっぱり私は乙女なんだなーと、熟々思いました。立ち話も何ですから、城へ参りましょう」
「はい」
(有香さん……少し変わったかな? あれから色々あったんだろう。僕だって波乱万丈の日々を送ってるし、お互い激動の人生だ)
有香は何も変わってはおらず、自分の気持ちに正直になっただけだった。
その秘めた思いに光太郎は気づかず、城で思い知らされることになる。




