アイドルと花形
ヒナが着ているのは、山をイメージさせる黄緑のワンピース。首には蝶結びのリボン。
フリル付きのスカートと、白のストッキングは可愛らしさを引き立てる。
スパンコールは宝石でちりばめられ、スポットライトに反射して煌めく。
正にアイドルだ。
「上手い!」
古いカバー曲を歌いながら、ヒナはダンスもこなす。
相当練習してきたのが見て取れる。芸能関係にはうとい光太郎も、初めて興奮した。
曲が変わると、ヒナは丸いお立ち台に乗る。
すると、お立ち台はヒナを乗せたまま空を飛び始めた。
ゆっくりと会場内をかけ回る。近くで姿を見せるファンサービスだ。
「ヒーナ! ヒーナ!」
名前を伸ばした掛け声が、いつまでも連呼される。
ヒナは光太郎の前にくると、片手を前に出して歌う。
「あ・な・た・が――好きで――す♪」
(はうっ!)
これには光太郎もドキリとした。
歌詞の一部を利用した告白で、ヒナは本気で言った。
ステージに戻って踊り出すと、観客全員で大合唱。
光太郎は夢うつつのまま、熊の太郎と肩を組んで歌った。会場の全員が一体となる。
(……僕は一体何をしているのだろう? これは現実なのか?)
ライブとは発散する場であり、日常から解放される一炊の夢。
ヒナが歌い終えて夢からさめる。名残惜しくてもアンコールはない。
最後に盛大に花火が打ち上げられ、精霊祭は終わった。
光太郎はメガラニカ城に戻り、客室のベッドに倒れ込む。
最近は女達に振り回されて鍛えられてはいるが、体力不足に変わりはない。
今朝からの疲れで、うとうとと眠ってしまった。
「……告白作戦は撒き餌なので期待してはいけません。焦りは禁物です。一気に迫ると男性はどん引きしますからね。それと、輝夜みたく下品になってはいけません。さりげなく、さりげなくボディータッチを繰り返して、温もりを伝えるのです。あと男性の保護欲をくすぐるように、上目遣いで迫るのですよ」
「はい、ママ」
「……んが」
扉の外から聞こえてくる声に目をさます。内容はよく聞こえなかった。
ラモーヌは男の落とし方を、娘に手ほどきしていた。親ばかである。
光太郎が目をこすりながら起きると、ヒナが枕を抱えて部屋の中にいた。
フードつきの白熊パジャマを着ており、可愛さが引き立つ。
「お兄ちゃん眠れないの、御一緒していい?」
「……うん、いいよ」
おどおどとした小動物を思わせるような仕草で、ヒナは言った。
目を潤ませて見つめられれば、光太郎も頷くしかなかった。
もちろんヒナの芝居であり、本音はもっとドス黒く女王達の中で一番恐ろしい。
ついでに言うと、ロリータ妹キャラになりきってるが、光太郎より歳は一つ上だ。
(ああ面倒くさ! さっさと押し倒して、既成事実をつくりたいわ!)
仮面を崩さず我慢しながら、光太郎の隣に寄り添って話す。
「コンサートはどう? ヒナは上手く歌えたかな? お兄ちゃん」
「ヒナちゃんの歌や踊りが上手くて、感動したよ」
「わーい! ありがとう」
ヒナは抱きつきながら、光太郎の体を触りまくる。
「ここで、おねむしていい?」
「うーん、寝るだけだったらいいよ」
「うん」
光太郎はヒナの見た目から、小学生と錯覚している。
それが虎視眈々と貞操を狙っている、肉食獣だとは気づかない。
いつ喰われてもおかしくはないのに、安易に添い寝を許した。
光太郎は隙だらけのまま、スヤスヤと先に眠ってしまう。
寝顔を見ながらヒナは思う。
(ほんとに無防備なお兄ちゃん。今日の所は見逃してあげるけど、戦争が終わったらヒナが最初の女になるね。そうね、お兄ちゃんから、お父さんにしてあげるわ)
ヒナの恋愛感情は「父性愛」。
父親は前大戦で亡くなっており、父親というものに恋い焦がれていた。
男が少ないアヴァロンでは見つかるわけもなく、諦めかけた時に光太郎は現れた。
ヒナは見た瞬間に一目惚れして、優しい人間だと分かると更に惹かれる。
プレゼントをもらった瞬間に、恋の炎は一気に燃え上がった。
独占欲がヒナを支配する。とは言え、今は他の女王達と波風を立てるわけにはいかない。
今は大人しくしてるが、いずれは本気で光太郎を勝ち取るつもりだった。
それは他の女王達も同じで、全員負けん気は強い。
取り合いに巻き込まれてる光太郎の腕に、ヒナはしがみついて眠った。
清々しい山に朝日が昇る。
土砂くずれの後片付けはまだ終わらず、星騎士達は忙しい。
牧場の仕事にも精を出していた。光太郎は城門でヒナとラモーヌに見送られる。
「ヒナちゃんありがとね。ラモーヌさんもお世話様でした」
「いえいえ、大してお構いもしませんで」
「お兄ちゃん、また来てね」
「うん」
光太郎は手を振り、サイドカーを走らせる。来た時とは反対側のトンネルへと向かった。
前を進んでいくと、目の前を小さい何かが通り過ぎる。
「あっ!」
「どうした? 光太郎」
エクリプスはサイドカーを急停止させた。
「今、光るものが横切ったような……」
「車載カメラには何も映っていないぞ」
「そっか、気のせいか」
走り去る光太郎の背を、羽をもった小さな生き物が見ていた。
いよいよ残るはムー王国のみ、有香に会えるのを楽しみにする反面、多少の不安もある。
(有香さんも女王になっちゃったなー。お嬢様のときですら近寄り難かったから、もう友達面はできないね。礼節はわきまえよう)
「光太郎、途中にある街で着替えたらどうだ?」
「そうする。ムー王国は北にあるから寒いんだったね。ついでに昼食もとろう」
「顔は隠した方がいいんじゃないか?」
「え、何で? もう襲われたりはしないから、安全だと思うよ」
「だと、いいが……」
光太郎は自身の知名度を甘くみていた。
隕石迎撃作戦を始め、ルカとの戦いやメガラニカでの災害救助で、光太郎を知らぬ者はアヴァロンにはもういない。
アトランティスでのいざこざも噂で伝わり、楓達を救ったことで光太郎の株は急上昇。
もはや英雄の枠にとどまらず、一部では救世主として崇められていた。
そうとも知らず、のこのこと街に入ったものだから、さあ大変。
食事までは問題なかったが、レストランを出た途端、記者達に取り囲まれる。
フラッシュをたかれ、質問攻めにサインを求められ、大騒ぎになってしまった。
もみ合いになった隙をついて、光太郎は四つん這いになって逃げ出した。
エクリプスに誘導してもらい、サイドカーにたどり着いて、直ぐさま街を出た。
「……エクリプスの言うとおりだった。でも、どうしてこうなるのー?」
「有名人である自覚がないのが、光太郎の欠点だな。日本で言うところの花形だ。人気のある芸能人や運動選手と同じなんだよ」
「メカオタクの僕が? ありえねー!」
「勝負しては負けず、人助けもして顔を知られた光太郎が、無名なわけがないだろ?」
「あう、確かにテレビとネットでは目立っていたなー、これからは顔を隠さなきゃいけないのかー……は――」
光太郎は盛大にため息をついた。平々凡々な一般人でいられなくなったのは、かなり辛い。
「追いかけ回されて、陸奥市での有香さんの気持ちが、今はよく分かる」
別の街で慎重に冬支度を調えて、光太郎はムー王国へ向かった。




