精霊祭
光太郎の王の力――第三の目。
本人はまだその力に、気づいてはいない。
額の真ん中が発光ダイオードのように光っていた。
これは光太郎の知覚空間にある、全ての物の動きを先読みする力。
光太郎は意識を集中させ、土砂の流れを読む。
「ラモーヌさん、ノーザンライトの緊急発進を!」
「分かりました!」
妖精湖から飛沫を上げて、巨軀が飛ぶ。
長い首を前に突き出し、スラスターを全開にしてアララト山へと向かってくる。
アララト山の3D画像を見ながら、光太郎は無茶な指示をだす。
「斥力場シールドを張って、ここの山肌にぶつけてください」
「はい!」
「くそっ! それでも隙間ができてしまう、この部分を埋めないと土砂が流れ込む!」
ラモーヌの中で光太郎は悩む。
まだ防御塔は壊れていないが、斥力場は弱まり土砂に押され始めていた。
もう時間がない。
「せめて、土砂の流れをそらす方法があれば……」
やるべき事は分かっていても、その手段が思いつかない。
光太郎は焦り、歯がみする。
「お兄ちゃん! ヒナがやるの!」
「光太郎さん、行きますよ!」
「えっ!」
ラモーヌは駆け出して、朽ちかけた老木の前で止まった。
幹周り十二メートル・樹高は五十メートルはあろうかという巨木。
ラモーヌに乗っていたヒナは、武器の鉞を、いつの間にか手にしていた。
コンテナ脇に括り付けてあったもので、ヒナの身の丈を超える大きな得物。
ヒナは鉞を両手で持ち、構える。
「王の力! 『地母神の巨人』!」
ヒナの両手が光り輝き、鉞が水平に振るわれた。
紫電一閃! 巨木が一瞬で切り倒される。
「超怪力か!」
ふつう木を切る場合、先に反対側を切っておかないと、木は裂けてしまう。
が、巨人の力を振るうヒナにとっては、稲を鎌で刈り取るほど容易い。
ヒナはそのまま、倒れてくる巨木を受け止める。
「怪力乱神!」
ラモーヌが特殊機能を発動させた。
両手両足が大型スラスターに変形し、真下に向けて大噴射。
最大出力でヒナを支えながら移動する。
光太郎が指示した地点で、ヒナは巨木を投げ捨てた。
「え――い!」
ヒナは光太郎に言った。
「お兄ちゃんは子供達を助けてあげて! ヒナはここで食い止めるの!」
「でも!」
「行きましょう光太郎さん。ヒナならやれます」
「すぐ戻るからね!」
ヒナは下に飛び降りて、倒した巨木を下から支える。
ついに防御塔は壊れて流され、土砂はノーザンライトが抑えていた。
溢れた土砂は、ヒナの前に押し寄せてくる。
ヒナは王の力を使い、たった一人で自然の猛威に抗う。
押し流されそうになりながら、ヒナは気合いをいれて踏ん張る。
「頑張るの――――!」
そこに木の幹を乗り越え、岩が跳ねて飛んでくる。ヒナの体ほどもある大岩だ。
ヒナは動けず、躱せない!
☆
「生命反応は……あそこか!」
モニター越しに狐と狸の子供達を見つけた。
六匹は親もおらず、おろおろしていた。
「どうやって助けよう?」
「私の口を開けますから、呼んでみてください」
ラモーヌは熊口を開けると、操縦席と外が繋がる。
「おいで」
子供達は一斉に飛び込んできた。警戒心はなく光太郎の側によった。
「可愛いな、よしヒナちゃんの元へ急ごう!」
☆
「ガウゥ!」
飛んで来た岩を、熊が弾き飛ばした。
「太郎さん!」
「ガオォー! ガウガウ!」
助けに来た熊は一緒に巨木を支える。ヒナの負担が軽くなった。
「姫様――――!」
また、メガラニカの星騎士達が続々と、ヒナの近くに集まってくる。
メタル・ディヴァイン数十機が固まって、斥力場を展開して防ぐ。
ラモーヌと光太郎も加わり、みんなの力で土砂くずれを乗り切った。
「やったの――――!」
「ヒナちゃん偉い!」
「ううん、みんなのお陰だよ」
助けられた子供達は、ヒナと光太郎にじゃれつき、親たちは何度も頭を下げていた。
しばらくしてから、狸と狐の親子達は安全な保護区へと運ばれた。
「さてと、後始末だな」
また崩れないように、土砂の撤去がなされた。
日が暮れた時点で、ひとまず終了。
夜、シャングリラの中央広場に、大勢の人々が集まっていた。
本来、何もない牧草地帯に露天が立ち並び、人がごった返す。
今夜は精霊祭、祖先と自然に感謝するお祭りだ。
光太郎の来訪に合わせてとり行われ、歓迎の意図もある。
見た感じは、日本の盆踊りと変わりない。
今までは送り火や聖歌を歌うだけの、地味なイベントだった。
それが日本文化を取り入れられ、華やかに飾り付けられている。
多少アレンジされてるのはご愛敬。
「浴衣を着てる人が多いなー」
「気楽な装いでありながら、お洒落ですので女性には大人気ですわ」
護衛の星騎士が言った。
光太郎は数人の星騎士に守られながら、露天を見て回っていた。
「可愛く見えますからね」
「ええ」
「ヒナちゃんの浴衣姿も、見たかったなー」
「すみません。姫様は別なことの準備で、外しております」
「そうですか」
(秘密のイベントがあるらしいけど……なんだろ?)
夜空に花火が上がる。わずか三連発、もっとも合図であって鑑賞用ではない。
「合図があがりましたね。光太郎様、会場へ移動しましょう」
「わかりました」
光太郎は従って歩いていくと、真昼のような明るい場所についた。
ナイター照明が眩しくて、目をそらす。
よく見れば電飾で飾られてあるステージが、目の前にあった。
空中に浮かんでいるライトもある。
「野外コンサートか」
とっくに観客席は埋まり、どこも空いてないように見えた。
光太郎は特等席に案内され、一番真ん前の中央に来る。
ただし、椅子も何もなく十メートル四方に誰もいない。
光太郎一人だけが、浮いている。
「何か変だな? 僕一人ってことはないよね?」
「それでは皆様、お待たせしました。姫様の初コンサート開演です!」
「うおおお――――!」
怒号と共に、皆が一斉に立ち上がった。
伴奏も大きく、大音に慣れてない光太郎は、思わず耳を塞いだ。
ステージ上ではバックダンサーが踊り始めている。ちなみに全員星騎士だ。
「ヒナちゃんが歌うんだ。どうりでいないわけ――!」
大歓声の中、地響きが聞こえてくる。
光太郎が後を振り向くと、光る目の集団が駆けつけてくる。
「ひっ!」
ビビッて逃げだそうとした所を、光太郎は肩を掴まれた。
「た……太郎さん?」
「ガウ!(んだ)」
見れば動物達が集まってきていた。ここは動物達専用の観客席でもあった。
動物達はペンライトを咥えて、持ってきている。そして、もう一頭熊がいた。
「もしかして、そちらが花子さん?」
「ガウー、ガウー!(はい、はずめまして)」
熊の花子は頭を下げたので、光太郎も下げる。
「ガゥッ、ガゥッ!(今夜はデートに誘っただ)」
「そうなんだ……って、何で言ってることが、分かるんだー!? 僕」
光太郎が困惑していると、ヒナがステージに上がっていた。




