アララト山のお友達
清々しい朝を迎え、光太郎は起きた。窓を開ければ、新鮮な空気が入ってくる。
吸い込んでさわやかな気分になった。耳をすませば小鳥たちがさえずっている。
市街のように騒がしくなく、静けさは心を安らかにしてくれる。
そんな中、光太郎は揺れを感じる。
「おっとと! 地震かな?」
耐震設計されてる城内では少し揺れた程度、ほとんどの人は気にもしないだろう。
光太郎は着替えて食堂へと向かい、ヒナと一緒に朝食を食べた。
今日はアララト山へと向かう。
外に出ると、大型のコンテナが用意されていた。
「これは何? ヒナちゃん」
「お友達に渡す食べ物だよ、お兄ちゃん」
「?」
光太郎は首をかしげる。
(食料? お友達って山の静養所とか、別荘にいる人達なのかな? でも多すぎるような……)
よく分からないまま、熊のラモーヌに乗りこんだ。
ヒナは緑の光星甲冑を着ていた。軽々と飛び上がって鞍に跨がる。
ラモーヌは少し上昇して、コンテナを結んでいるワイヤーロープを、熊足に引っかける。
ロープをしっかり掴んで固定し、重いコンテナを持ち上げて飛び立つ。
そのパワーに光太郎は唸る。
「うおっ! 推力がルドルフ以上だ。メタル・ディヴァインの中ではパワーは一番ですね」
「山川を駆け巡るのに、出力を強化してます。その代わり速度はでませんが」
「四輪駆動車のようなものですね。メガラニカの環境には適している。それと、ラモーヌさんには切り札もありますし、メタル・ディヴァインは種類が多くて奥が深い」
「うん、お兄ちゃん」
アララト山。
鮮やかな緑に彩られた森林が、どこまでも広がっていた。
そばを流れる川には魚が泳ぎ、森の恵みが動物達を育む。
山は人里からは離れており、自然保護区になっていた。
空から近づいていくと、尾根の谷間にひらけた草地が見えてきた。
ほぼ平らな場所にラモーヌは着陸する。
ヒナは飛び降りてコンテナの扉を開けると、中には果物や生野菜があって、真空パックされていた。
それらを外に持ち出し、光太郎も中から出すのを手伝う。
「あれー? 住居は見当たらないし、人気もないし一体誰に配るんだー!?」
葉っぱを踏む音と、枝を折る音が聞こえた。
林や茂みから、こちらを見ている光る目に気づく。
一つ、二つだけではない、うなり声も聞こえ完全に囲まれていた。
「みんなー、おいでー! お兄ちゃんは優しいから、怖がらなくていいよー!」
ヒナの声に動物達が、一斉に飛び出してくる。
「ひっ!」
先頭を駆けてくるのは、頬に傷がある熊だ。機械ではなく本物のツキノワグマ。
ヨダレを垂らしながら、光太郎達に向かってくる。
逃げる間もない。が、襲われはしなかった。
「あぐぐぐ……あのーヒナちゃん。ひょっとしてお友達って……」
「森に住んでるみんなだよ、お兄ちゃん!」
光太郎は熊になめられて、生きた心地がしなかった。ラモーヌが言った。
「メガラニカの動物達はおとなしく、けっして襲ったりはしませんので、ご心配なく」
「そ、そうですか」
「さあ、みんな並んでー、配るよー。お兄ちゃんも手伝ってー」
「う、うん」
兎・狸・狐・リスに鹿と、たくさんの動物達が二列に並ぶ。
しかも、それぞれ小さな荷車を持ってきていた。巣にいる子供達に持って行くためだ。
食料を積んで、落ちないようにビニールカバーで縛る。
光太郎は呆然としながら作業をしていた。
状況がいまだに信じられなかったので、無理矢理自分を納得させようとする。
「サファリーパークでの餌付けと思えば、納得だな。ここは自然保護区だし、人に慣れた動物達が、条件反射で動いてるだけだろう。ようは動物園と同じだ、うんうん――じゃねー!」
「太郎さん、いつもありがとうねー」
熊がヒナに、大きなビニール袋を手渡していた。
中身は大量の蜂の巣、蜜と蜂の子は高級品だ。
他の動物達も山菜・野苺・キノコを持ってきている。
日本の松茸以上の価値があるものばかりだった。
「あれは原石か? ……宝石まで持ってきてる! 動物と物々交換? バーター取引? ありえねー!」
光太郎はカルチャーショックを受けた。
(猿が知性を持って話す小説もあるし、知能が高いのは人間だけとは限らない。その知能も今やAIに負けてるしなー……にしても、動物を雇用してるのと同じか)
山の地図があったとしても、日々変化する自然の中で、森の幸を探すのは大変である。
住んでいる動物達に、人は及ばない。
動物達は採取で生計を立て、持ちつ持たれつの関係を築いていた。
「お兄ちゃん、太郎さんはね、大好きな花子さんのために頑張ってるの」
「……あーそれで、一杯持ってきてるんだ」
ヒナに言われて、熊は頭をかいた。周りの動物達は冷やかすように鳴く。
(熊が照れるな! それに何で僕と同じ名前の『太郎』なんだ!)
光太郎は突っ込みたいのを我慢した。配り終えてから、ヒナが通達する。
「みんな来週は健康診断だからねー!」
「……クゥゥ」
あきらかに全員のテンションが下がる。
「もうー! みんな、注射くらい我慢するの」
(ああ……これは会社だ。企業だ)
社長はヒナで社員は動物達、健康管理は義務化されてる。
経営者が一匹一匹に気を配るので、優良企業に価するだろう。
動物達は手を振り、巣に戻り始める。
「そのうち街でも作るんじゃないのか? 言葉も喋りそうで、将来が恐い」
「そうなっても、仲良くできるよ」
「コミュニケーションが取れれば、友達になれるか……」
(でも、マゲイアは話せても……)
「あれ? どうしたんだろ?」
狸と狐が大慌てで戻ってきた。
「ポン太さん、コンさんどうしたの?」
二匹は大声で鳴き、山の一部を手で指す。
直後に大きな音がした。
「土砂くずれだ!」
前兆はあった。地震が発端でわき水が出て、根が切れるような音はしていたのだ。
誰も気づかなかったのが、災いした。山の形が変わり、崩れ出す。
このまま土砂が押し寄せてくるかと思われたが、途中で止まった。
森林に設置されてる防御塔が、斥力場で土砂を防いでいた。
「あれ、あんまし持たないんじゃないですか!?」
防御塔は小さく、いつ決壊してもおかしくはなかった。
ラモーヌは避難指示をする。
「ええ、いまのうちに逃げましょう! ヒナ!」
「駄目! この子達の巣が近くにあるの! 子供達がいるの!」
狸と狐は哀しそうな声で鳴いた。見捨てることはできない。
光太郎の目つきが変わり、頭脳がフル回転する。
いつもならノンビリと策を練るが、今は必死で本気だ。
(絶対、助けるんだ!)
光太郎の王の力が発動する!




