龍と牝馬
妖精湖のヨッシー……ではない。
形は首長竜に似ていたが、緑鱗が金属の装甲板になっており、機械だと一目で分かる。
全長二五〇メートル、全幅四〇メートルの巨体で、首の長さは一〇メートル以上ある。
伝説にある龍に近いだろう。
「でかい!」
光太郎は一瞬だけ驚きはしたが、すぐに興味津々となる。
「あーそういや、恐竜と首長竜は別物だった」
「古代生物を模してるだけの兵器ですから、どちらにも当てはまらないかと」
「そうですね」
「中に入ろう、お兄ちゃん」
胴体の一部が開き、カヌーを漕いで内部へと入った。
扉が閉じると排水され、カヌーは重力クレーンで固定される。
カヌーを降りると、上から声をかけられた。
《ようこそ、おいでくださいました。ノーザンライトと申します》
スピーカー越しに挨拶され、光太郎は返事をする。
「こんにちは。それでラモーヌさん、これは巨大なメタル・ディヴァインなんですか?」
「そうでもありますが、兵器としては航空戦艦ですね。地球でしたら小型空母にあたります」
「あう! これは国家機密じゃありませんか? 僕なんかが、知ってはいけない気がする」
「メガラニカの秘匿兵器です。光太郎さんはアヴァロン参謀総長ですので、知られても何ら不都合はないですよ」
「えー! ちょっと待って下さい! いつのまにか地位が上がってる。それ参謀の最高位じゃないですか? 僕はアドバイザーだったはずですよー!?」
「輝夜姫が推薦して、光太郎さんの身分は全王国で承認されています。誰も反対する者はいませんでしたね」
「うー……また、はめられた。命が重い」
落ち込む光太郎をヒナが慰める。
「お兄ちゃん、輝夜ちゃんを助けてあげて欲しいの。輝夜ちゃんも悪いとは思ってるはずだけど、頼れるのはお兄ちゃんだけなの。ヒナも頑張るからお願い!」
「う、うん……じゃー出来る限りやってみる」
(今さら撤回もされないだろうし、仕方ないか)
ラモーヌも懇願する。
「光太郎さん、輝夜姫を支えてやってください。声をかけてあげるだけでいいんです。女王というのは孤独なものですから……私も亡き夫には、かなり助けられました。女帝ともなれば、更に辛いものがありますから……」
(ああ、戦略や戦術のサポートではなくて、心の支えとしてだな。確かに総大将の苦悩と重圧は、僕の想像以上だろう。気休めくらいの話し相手になればいいか)
光太郎は自身も納得させるように割り切った。
「分かりました」
「他の星同士の戦争に巻き込んでしまい、本当にすみません」
「いえいえ、ここまで来たら他人ごとじゃないです。マゲイアが、地球に攻めてくる可能性だってありますから、アヴァロンで頑張りますよ」
「ええ」
「絶対、勝つの!」
ヒナが拳を突き上げた。
「うん」
「それでは、ノーザンライトの中を御案内します」
通路を歩けば、外の様子が壁に映し出されている。
動く水族館のようで、湖の生き物達は元気に泳ぎ回っている。
見ていて飽きず、デートするなら最高であろう。
艦内を一通り歩いてから、艦橋へとやってきた。
操舵装置やレーダー機器類はあるが、人はいない。
「無人なんですね。AIだけで艦の制御は十分ですか?」
「ええ、メンテナンスの時以外は誰も乗ってません。戦時になれば星騎士達が乗艦し、アンドロイド兵も起動します」
「なるほど、生活空間はいらないですからね」
「最後に、ノーザンライトの武装を御説明します」
聞いた光太郎は顔を変えて唸る。
「凄い兵器を積んでますね。装甲も厚く防御が固い。シャングリラを守るだけでしたら、ノーザンライトはいらないような……侵攻用なんですか?」
「前大戦での反省から造りました。マゲイアの要塞に近づくのに、多大な犠牲を払いましたので、突撃兵器としての役割があります。シャングリラの防衛は光太郎さんの仰るとおり、シールドタワーと対空迎撃装置で事足りてます。ノーザンライトが必要な場合は、いつでも要請してください。使いどころは、光太郎さんにお任せします」
「うーん……もしもの時にはお願いします。これを投入する機会は、かなり戦局が苦しい時でしょうね」
「光太郎さんの予想ですね」
「嫌な予感は、当たらなければいいんですけどー」
「何事にも備えておくに越したことはありません。そうそう、他の王国も秘匿兵器を持ってますよ。科学技術は共有してますが、どんな兵器を持っているかまでは分かりません」
「それぞれ王国の切り札でしょうからね。敵に情報が漏れたら対策されてしまいますから、秘密なのは当然です」
光太郎は口に手をあてて考え込む。この癖をする時、新たなる発想が生まれる。
早速、あることを閃いてつぶやく。
「秘匿兵器か……僕も作ろうかな……」
「御協力できることがあれば、何でもおっしゃって下さい。まあ堅苦しいお話は、これくらいにしましょう」
「明日はお山に行こう、お兄ちゃん。ヒナのお友達を紹介するの」
「うん、それは楽しみだ」
光太郎はお山に、何があるのかも知らず無邪気に笑った。
◇
その夜、光太郎はレムリア王国に通信を入れた。
現状報告と状況確認、まずは小玉と通話する。
『まだまだ新エクリプスは調整中だ。というより、アレとのリンクが上手くいかない。深層学習中だ』
「そっか、汎用AIじゃ仕方ないね。システムを作り変えるしかない?」
『そうだな、私の方で腹案があるからそれで対応する』
「あんがと、それでFL計画の方は?」
『試作品は出来た。アンジェラ隊長が試験運用を始めてる。他の国も似たような段階だ」
「次は量産化、もう忙しくなるね」
『そう思うのなら、とっとと帰ってこい。仕事は山ほど用意してやる』
「……御手柔らかに」
『ふん!』
小玉との通話は切れた。
顔には出さなかったが、「早く帰ってきて欲しい」と恋しがっている。
(帰ったらやることは一杯あるな、僕の操縦問題もあるし、文吾さんに相談しないと)
次はイザベルと話す。
「イザベルさん、この前は有り難うございました。エリスの様子はどうですか?」
『いえいえ、あーエリスは……』
『ヒヒーン!』
『この駄馬! お静まり!』
イザベルの後から鳴き声とアンジェラの声、そして鞭の音が聞こえてきた。
何かを調教してるような感じだった。
(今の鳴き声、ひょっとしてエリス?)
「……えーと、大丈夫なんでしょうか?」
『健康に問題はありません。が、ちょっとだけ壊れかけて、いかれてるので躾けてる最中です。こら、お黙り!』
『ヒヒィーン! ヒヒーン!』
『すみません。ちょっと光太郎さんの声に、興奮してるようなのでー……』
「はあ……じゃーエリスによろしく」
『バフ! バフ!』
イザベルは通信を切った。
光太郎から見えないが、エリスは発情した牝馬のようになっていた。
(うーむ、錯乱状態なのか? ……聞かなかったことにしよう)




