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イン・ディヴァインマスター 銀河の救世主  作者: 夢野楽人
エリスと光太郎

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抜け作戦

「うわあ――――!」

 絶叫を上げて、光太郎は目覚める。

「……夢か、なんなんだあれは?」 

 光太郎はコップに手を伸ばし、水を飲んで気持ちを落ち着けた。

「ふー……あ、返信が来てる」

 スマホを手に取り、文吾からのメールを読む。内容を見て、しかめっ面になった。

「……マジかよ」

 光太郎は悪夢とメールで、憂鬱な朝を迎えた。

 

[光太郎へ、俺はしばらく帰れない。有香ちゃんには『知りたいことは地下室にあるかもしれない』と伝えてくれ……と言うわけで光太郎、地下室の整理を任せた。貸倉庫への移動を頼む。文吾より]


「文吾さん、また僕に仕事を押しつけたな……さてと、どうしたものかな?」

 大変な仕事になるが、光太郎にやる気はある。問題は有香への対応だ。

 有香が何を探しているのか分からないので、立ち会って一つ一つ確認してもらう必要があった。

 ただ、地下室にある文吾コレクションは山ほどあり、探すとなれば時間と手間がかかる。

 また、有香が店にいると知られれば、追っかけとストーカー達も押し寄せてくるだろう。

 

「今日平にも言われたし、対策を考えないとね」

 光太郎は机に座り、思いつくまま作戦案をノートに書き込んでいった。

 <撫子>で検索をかけて、ネット情報も参考にする。

 光太郎はゲーム攻略と同じ要領で、成功率が高い対策だけを選び、パソコンで作戦計画をまとめ上げた。


 一段落ついたところで、有香に作戦メールを送る。

 この作戦には有香の協力が必要で、有香が「できません」と言えば諦めるしかない。

 返信を待つ間、光太郎は朝食を作って食べる。トーストをかじりコーンスープを飲む。

 コーヒーを飲み終えたところで、メールの着信音が鳴った。

「きた」


[お申し出の件、承知いたしました。どうぞよろしくお願いします。藤原有香]


 了承の返信を確認し、部屋の時計を見た。時刻は午前九時。

「ヒトマルマルマル、『抜け作戦』開始だ。なーんてね」

 光太郎はスポーツバッグに用具を入れて、家をあとにした。


 店に着くと、「本日休業」の看板をかける。店の前には黒塗りの高級車が停まっていた。

 藤原有香の専用車で、中から長身のボディガードが降りてくる。

 服装は黒のパンツスーツで、彼女の名は早紀。ちなみに運転手は樹里と言って、早紀の姉だった。

 仏頂面で早紀は光太郎に近づき、ささやいた。

「お嬢様に何かあったら、ただじゃおかない!……何でこんな男とー! ああ、お嬢様!」

「……じゃー後は、お願いします」

(お嬢様を溺愛してるんだな、これじゃー僕の作戦には納得はしてないな)

「言われずとも!」

 憎々しげに言い放ち、早紀は車に乗り込む。スモークガラス越しで見えにくかったが、有香の姿が一瞬見えた。

 専用車がゆっくりと走り出すと、ワゴン車・スクーター・自転車が続々と道路にわき出して、後を追い始める。

(こんなに追っかけがいるのかよ! アイドル並だな、ファンというのを舐めてた)

 驚く間もなく、今度は大声が響き渡る。


「よっしゃー、いくぞー!」

「おおう!」

 気合いを入れ、ランニング姿で走り出す集団だった。

「……がんばってください」

 呆気にとられながら、光太郎は手を振り見送った。近くに人気がなくなったのを確認し、店の裏手に回る。

 まずは物置小屋から手押し台車を引っ張り出し、玄関先まで持ってくる。

 家の鍵を使い中に入り、居間で光太郎は青ジャージに着替えた。

 そしてマスクと軍手をつけ外にでて、玄関脇にある地下室の階段を下りる。

 コンクリート製の階段を慎重に下りて、地下室扉の前に立った。

「よし、開けるぞ」

 光太郎は覚悟を決めてから、地下室のドアを開けると――本やら機材やらが音を立てて、雪崩になって押し寄せてきた。埃がもうもうと舞い上がる。

「はあー……やっぱりなー。分かってはいたけど、中はグチャグチャだ」

 埃を手で払いながら、光太郎は顔をしかめた。 

 地下室からあふれ出した物を拾い、スマートグラスをかけて確認していく。

 変わった物がないか、一応調べる。

「それらしい物はないな、あとで見てもらおう……おっと、そろそろ来る頃かな」


 光太郎は拾った物を抱え、階段を上って台車に置いた。

 路地裏を見れば、タクシーから降りてくる人が見える。スポーツバックを肩にかけ、セーラー服を着た女生徒が、店に向かって歩いてくる。

 陸奥学園の学生服はブレザーなので、他校の生徒……ではなく、変装した有香だった。


 丸眼鏡に茶髪のウィッグをつけ、別人にしか見えない。

 化粧メイクも変えており、ファンでも気づくのは無理だろう。

 光太郎は手招きをして、家の中に入れた。

「おはようございます。見事な変装です」

「ありがとうございます。父の趣味でよく着せ替えしてるので、慣れてます」

(趣味ねえ……考えるのは止めておこう)

「では、こちらでお着替えください」

「はい」

 有香は居間に入るなり、セーラー服を脱ぎ始めた。

 光太郎は慌てる。

「うわっ! まだ僕がいます」

「お気になさらず」 

「そういうわけにも……あれ?」

 有香はジャージを中に着込んでおり、スカートの下にもズボンを穿いていた。

 寒さ対策にもなって、着替える手間もはぶけて一石二鳥だった。

「ああ、中に着てたのですね、ビックリしました。では早速、地下室に御案内します。多少……いや、かなり汚いですが……」

「その前に、お話ししたい事があります」

 赤ジャージを着た有香が、真剣な表情で言ったので、光太郎も気を引き締める。

 ひとまず、座布団をすすめた。

「……分かりました。どうぞお座りください」

「はい」

 

 二人とも正座して向かい会う。

「このたび、竹田様にお聞きしたかったのは、私の出生の秘密なんです」

「えっ!」

「私は養女です」

 突然の告白に光太郎は驚く。

 いきなり有香の秘密を知り、平静さを失いかけるが、目をそらさずに聞いた。

「境遇は恵まれてます。父も良くしてくれますし、早紀さん、樹里さんも私に優しいです」

「ボディガ……お付きの方ですね」

「ええ」 

(お嬢様だけには、優しい人なんだろうな……僕は目の敵にされてるけど)

「ただ、私が藤原家に貰われた経緯が分からないのです。これだけは父も教えてくれません」

「それで文吾さんに聞きに来たわけですね」

「はい、父と懇意の竹田様なら御存じかと思いました」

「そして文吾さんも、まともに教える気がなかった……」

 光太郎はスマホを取り出し、メールを有香に見せた。

「……ですので、探しても何も見つからないかもしれません」

 申し訳なさそうに有香は言う。

「それでも手掛かりを探してみたいので、神山様どうか御協力をお願いします」

「あ、頭を上げてください。地下室の整理もバイトのようなもんですから、遠慮なく僕をこき使ってください」

 光太郎の言葉に、有香は悲しそうな顔になる。

「あれ? 何かまずいこと言いました?」

「一つ、神山様にお願いがあります」

「はい」

「敬語をやめていただきたいのです」

「あ!」

「藤原家に力があり、怖がられているのは知っています。かと言って、父は横暴な振る舞いは絶対にしません。権力を笠に、人様に命令したりはしません。私なんか養女ですから偉くもありませんし……」

(ああ、『こき使って』と言ったのはまずかったな、卑屈な態度をとられるのが嫌なんだ。これは不快にさせた僕が悪いな)


「すみませんでしたー!」

 光太郎は勢いよく謝った。

「内心、失礼があったら家ごと潰されるんじゃないかと、びくびくしてました。でも勝手な思い込みで、お嬢様を悪者にしてしまいましたね、本当にすみません」

「いえ、私こそ」

「言葉使いは、何とか改めてみます。僕も『様』付けはいらないので光太郎と呼んでください」

「では光太郎さん、私も有香でお願いします」

「有香さん」

「はい!」

 有香は明るい笑顔を見せる。居間全体が暖かい光に照らされたような、錯覚を感じた。

 見た者すべてに幸福感を与える笑顔に、引き込まれる。

(うわーそれは反則! まずい、くらっときた。可愛すぎる)

「あのー、どうかなさいました?」

「い、いえ、とりあえず地下室にいきましょう」

「はい」

 しばらく光太郎は有香の顔をまともに見られず、視線をそらし続ける。

 喜久子以外の女性と接したことがなく、うぶなのだ。


 地下室は足の踏み場もない状態で、まずは二人で片付けから始める。

 機材や専門書は「手掛かり」ではないと決めて、先に運び出す。

 光太郎が貸し倉庫へ運んでいる間、有香が別の台車に荷物を積んでいた。

 有香はかなり重い荷物を抱えて、階段を上り下りしたが汗一つかかない。

 光太郎は口をポカンと開けて、驚いていた。

(えーと、意外と力持ち?)

 有香のおかげで運搬ははかどり、ある程度片付いたところで中の掃除を始めた。

 地下室と言っても床はフローリングされ、壁は漆喰しっくいで塗られている。

 照明も明るく居間と変わりはない。光太郎は箒で掃いてる途中で、空腹を覚えた。

「しまった! 忘れてた」

「どうかしました?」

「昼食を用意するのを忘れてました。買ってこよう……」

「それでしたら作ってきましたので、お上がりください」

「どうもです。では一緒に飯にしましょう、車もお屋敷に戻ってる頃かなー」

「囮作戦は上手くいきましたね」

 有香はニッコリと笑った。


    ◇


 お昼過ぎ、有香専用車は屋敷へと戻ってきた。

 金のがちょうならぬ、「囮」につられた追っかけ達は、屋敷の門が閉まると嘆息した。

 さすがに中には入れない。

 屋敷の駐車場に車が停まると、早紀と樹里の二人だけが降りる。

 車中に残されたのは、有香そっくりな試作アンドロイドだった。

 別名「お嬢様零号」で、名付けたのは早紀。早紀は不満をぶちまけた。

「もうー駄目、我慢できない! 店に乗り込んでお嬢様を助け出すわ!」

「そんなことをしたら、お嬢様に嫌われるわよ」

「だって姉さん、男なんかと二人きりなのよ! 何かあってからでは遅いのよ!」

「身辺調査はしたでしょ? 神山君は品行方正で問題なし。藤原家にすり寄ってくる、どこぞのボンボンよりは遥かにまとも」

「まともだから問題なのよ! ろくな男がいなかったから、お嬢様は汚れずにすんでたのに……きっとあの男はお嬢様を変えてしまう。絶対に許せない!」

「早紀が潔癖すぎるのよ、いい加減お嬢様離れして、いい男でも見つけなさい」

「嫌よ! 男なんて気持ち悪い。私はお嬢様だけがいればいいの」

 早紀にとっては有香への思いが第一であり、道理は二の次だった。

 困った妹に姉はたしなめるように言う。

「有香お嬢様も自立する年頃になったのよ。今回の件、私達は反対したけどお嬢様は一歩も退かなかった。もうすぐ私達のお世話はいらなくなるわ」

「そんなのは嫌! 絶対認めない!」

「えーい未練がましい! 納得しなさい!」

「やだやだやだやだやだ!」

 駄々をこねる早紀を、樹里は叱り続けた。

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