口八丁の魔法
光太郎が二人に襲われる少し前。
「くっ、ドアが開かない!」
輝夜は施設内の更衣室に入った途端、閉じ込められた。
ドアはロックされ、重い機材で塞がれる。ドア越しに楓が謝る。
「おひい様、お許しください」
「お止めなさい、楓! 光様を害することは許しません!」
「あとでこの首、差し出します。それでは」
「楓――――!」
輝夜がドアを叩き、大声を上げても、楓はその場から走り去る。
「……昨晩から、施設内に潜んでいたようですね。この分ではくノ一は倒されたのでしょう。実力で私の側近になったのですから、当然ですか……感心してる場合ではありませんね」
輝夜は更衣室内を物色して、兜を見つけた。
次にロッカーを強引に倒して、自分の前に積み上げる。
一カ所だけ穴のあいたバリケードを作った。穴に兜を置き、狙いをドアに定める。
「急がないと、光様があぶない!」
兜に手を添え、目を閉じ集中する。すると輝夜の手が眩しく光り、兜も輝く。
「付加! 超音速!」
爆音とともに、ドアが一瞬で吹き飛んだ。
部屋の中は反動で、爆発したような惨状になる。
王の力で兜を高速砲弾にして、ドアを塞いでいた機材ごと破壊したのだ。
瓦礫に埋もれた輝夜は起き上がり、よろよろと歩き出す。足取りは重く息は荒い。
「はあ、はあ、はぁ……」
王の力の弱点は、使用者の体に大きな負担をかける事だった。
連続使用はもちろん、今のように力を強めると疲労困憊におちいる。
ルカが光太郎と対決した時も、同じ状態になった。
使い続ければ、それだけ命を削る。歴代の女王達はそれで命を落としていた。
「早く! 早く! 光様のもとへ!」
壁に手をつき、足を動かすが歩みは遅い。
何とか光太郎がいる部屋までたどり着くものの、誰も居ない。
荒れた通路を見て、外へ向かったのが分かる。輝夜も後を追い、扉を開けて外へ出ると――
「光様!」
空を見上げれば、スカーレットがゼブラに追いかけられていた。
「鞍の上に乗っかれたまでは良かったけど、推進剤がほとんど残ってねー!」
「本当に申し訳ございません」
「スカーレットが謝ることじゃないよ。午後に補給する予定だったし、また襲われるなんて思わなかった。僕はまだまだ甘いな」
「いえ、お詫びしたいのは当方の星騎士による、不届きな行為でございます。決して許されることではありません」
「うーん、誤解だと思うんだけどねー……まずは話してみよう。停戦信号を送ってくれ」
「恐れながら、無意味かと……」
「いや、ちょっとでも時間を稼ぎたいんだ。あとは何とかするしかない」
「分かりました」
スカーレットが停戦信号を送ると、前後を挟むように二機のゼブラが止まった。
光太郎は二人に話しかける。
「楓さーん、霞さーん。もう止めてくれませんか?」
「貴様! 私達だとよく見抜いたな!」
二人は覆面を脱ぎ捨て、素顔をさらす。
「いや、騎士甲冑は独特だし、何より声で分かるんですけどー……」
「それに気づくとは、やはり貴様は只者ではないな! 捨て置けん!」
(いや、ばれてないと思う方がおかしいだろ!)
「まあーそれは置いといて、恨まれるような事は僕はしてないでしょう? 訳を教えてくれませんか? まずはお互いに、話し合ってみませんか?」
「貴様と話すことなどない! 話して誑し込む気だろう? その手には乗らんぞ、私達はそこらの女とは覚悟が違う!」
「じゃー停戦してくれた理由は?」
「最後の言葉くらい聞いてやろうと思っただけだ。さあ言え!」
「うーん、うーん、うーん、いきなり言われても思い浮かばないなー、少し時間を下さい」
「少しだぞ」
「はい、ところでお二人の乗っているのは、無人機ゼブラですよね? 星騎士用のメタル・ディヴァインはどうしたんですか?」
「置いてきたに決まってるだろ! おひい様から賜った機体を、貴様の返り血で汚したくはないからな」
「いやー楓さんの腕なら、返り血なんて浴びないんじゃないですか? メタル・ディヴァインも凄いんでしょ? 隕石迎撃作戦の時の映像を見ましたが、動きが素晴らしかった」
「そ、そうか」
「格好いいですよね! 是非みせてもらいたいなー」
「そこまで言われるとな……」
光太郎は、楓をおだてて褒めちぎる
スカーレットは思う。
(光太郎様は、恐ろしい御方ですね……楓が上手く丸めこまれている。おひい様が気に掛けるだけのことはあります。ですが、与太話で引っ張るのも、そろそろ限界でしょう)
相棒の霞が、現実に引き戻す。
「楓! 楓!」
「はっ! 貴様ー! いつの間にか話術にはめたな? そうか、これが噂に聞く地球の魔法というやつだな? なんと恐ろしい!」
「いえいえ、魔法というのは空想の産物であって、現実には……」
「えーい! 黙れ、黙れ! 口を閉じろ!」
「えー! もっとお話しましょうよ、楽しいでしょ?」
「問答無用! おひい様に仇なす前に退治してくれる! この奸物!」
ナイトランスを構えて、二人が前後から突進してくる。
「もう少し騙くらかしたかったけどね。スカーレット、自由落下」
「はい」
斥力場を切り、翼をたたんで急降下する。まさに隼のごとき速さだ。
地上近くにきて浮き上がり、そのまま滑空して前に飛ぶ。
光太郎に戦う気は無く、最初から逃げの一手。
「逃げられると思うなー!」
スラスターを噴かし、二人はゼブラで追いかける。
本来であれば、地上汎用型が飛行特化型に追いつける訳もない。
しかし、推進剤が不足しているスカーレットでは容易い。
足が止まりそうな獲物に、二人が迫る。光太郎は楓の間合いに入ってしまった。
「少しずつ、上昇して」
「遅いわ馬鹿め! 喰らえ!」
楓がランスを繰り出す、胴体を狙った正確な攻撃だ。
「なにっ!」
スカーレットが沈んだように見えた一瞬の後、目の前から消える。
「上よ、楓!」
「いつのまに! やはり魔法使いか! 生かしてはおけぬ!」
スカーレットはさっきと同じく斥力場を切り、翼を目一杯広げただけだった。
「いや、上昇気流を利用しただけなんですけどー……思い込みの激しい人なんだな、楓さんって」
「脳筋騎士ですみません。戦闘力はあるんですけど、それ以外は……」
「だから、僕を逆恨みしてるんだね。だとすると僕が説得しても納得しないだろうな、代わりの誰かに言ってもらわないと」
「はい、そうですね……」
(光太郎様は二人を生かすつもりのようですが、その前に処罰されるでしょう)
スカーレットは思う。
風を上手く利用しながら、光太郎は逃げ回る。
「風が止んだ!」
「今だ――――! 」
ここぞとばかりに楓が猛突進!
「スカーレット! 電光石火!」
特殊機能を発動させ、超高速移動でよけた。
スカーレットは雷雲の中に隠れる。
「おのれ! ちょこまかと」
「行くの? 楓」
「当たり前だ、霞! 雷ごときで臆したか!?」
「いいわ、最後までつきあうわ」
霞は自分達の間違いに気づいていたが、今さら引き返す道はなかった。
幾つもの稲妻が光っては消えいく、雲の中を飛ぶ。
光太郎はスカーレットの中に入ったので、雷に撃たれても感電することはない。
防護処理は完璧だ。しかし楓と霞は無人機の上に乗っているので、撃たれたら即死だ。
騎士甲冑では防げず、光太郎を追ってくるのは無謀と言える。
「……ああ、諦めてくれないのか?」
「推進剤、もうありません」
「電光石火で使い切ったもんね」
「ですが、光太郎様の作戦は上手くいきました」
「うん、でもこのままじゃー二人が危ない、助けよう」
「放っておけばよろしいかと。お命を狙われたのですよ?」
「スカーレット頼むよ、見捨てられない!」
「分かりました」
(こういう方なのですね)
光太郎はぶ厚い雲に隠れ、声を張り上げた。よく聞けば棒読み台詞。
「ぐわぁー! 動けなくなったぁー!」
「チャンスだ! 確実に仕留めるぞ、回り込め霞」
「ええ」
視界はもやになってよく見えず、センサーも役に立たない。
声がした位置を頼りに二人は飛ぶ。
「突進!」
満を持して二人は、同時に突き進む。
前方に動く影が見え、躊躇なくナイトランスを繰り出した。
が、攻撃は空を切り、同士討ちになりかける。
ゼブラが自動的に回避したので、最悪の事態だけは避けられた。
二人は密着して顔を見合わせる。
「一体どうなって? 何だこの鎖――!」
「廻れ、爪錨!」
「きゃっ!」
楓と霞は、鎖でグルグル巻きにされ生け捕られた。
ようやく戦闘は終わった。




